第二章 第二十一話 「外へ」
来月になると言ったけど、あれは嘘だ!
(嘘です、なんとなく、浮かんだので書いて投稿しただけです…)
「さぁ、あの時のけじめをつけようぜ!」
「‥‥ははっ、けじめ、ですか」
そう言いつつアザゼルは再び光の槍を先程の五倍ほどの大きさで作り出した。それは槍というよりは大槌、いや破城槌と言える代物と言えるだろう。だが、それを見てコカビエルは、笑っていた。
一瞬、アザゼルはコカビエルが諦めたのかと思ったが、コカビエルの眼からまだ何かを隠していると察し、警戒を引き上げる。一方のコカビエルは警戒などは一切せずに、気楽な様子だった。
「なるほど確かにこれはけじめだ、アザゼル。そして貴方との勝負を終わらせる為に、私も奥の手を使いましょう」
そのコカビエルの言葉にアザゼルは怪訝な表情でコカビエルを見た。見た感じではコカビエルがそれ程の力ある何かしらの武器を持っている気配はなく、ブラフである事も考えたがこのような場面で嘘を付くとは思えなかった。とするならば。
(何かしらの切り札を、本当に持っているってことか)
そう考えながら、確かめるようにアザゼルはコカビエルへと問う。
「奥の手だと?」
「ええ、天上の神より与えられたこの短剣の力を、見せてあげますよ」
「あれはあの時の…!」
そう言ってコカビエルが取り出したのは、刀身から柄までが白一色の短剣で、カヴァリナ皇国の護国の聖剣【エクスカリバー】と打ち合い、傷一つ付かなかった事をアルレーシャは驚きの表情を浮かべ、見ているアザゼル達の前で、
「ぐっ、ああああ!」
「なに!?」
「嘘…」
コカビエルは自身の心臓へとその短剣を突き刺し、その行動にアザゼルとアルレーシャは驚きの表情を浮かべた。しかし次の瞬間コカビエルの体が一際輝き始め、
「ふ‥‥‥ふふっ‥…ふふふふっ‥‥ははははっ!!!」
【封印の間】全体に暴力的なまでに膨れ上がったオーラの嵐が封印の間に吹き荒れ始め、その嵐の勢いの前にアザゼルも後ろへの交代を余儀なくされる。
「ぐっ!?」
そして、コカビエルのその暴力的なまでのオーラは人であるアルレーシャにとっては毒も同じというレベルのもので、
「ちぃっ!」
コカビエルの急激な変化に驚きながらもそれを察したアザゼルはアルレーシャを中心に結界を形成した後、今なお変化を続けるコカビエルを見た。
(なんだ…オーラの濃さがさっきと比べて段違いに跳ね上がっている、それに…)
光から目を庇う様にしながらコカビエルを見たアザゼルはコカビエルに何が起きているかを目撃した。
コカビエルの纏うオーラの濃さ、強さが跳ね上がり、それはアザゼルと並ぶほどでそこに更に最も顕著な変化が訪れた。
(奴の翼が、増えている…だと!?)
それはコカビエルの背中の翼の数が二からその四倍、即ちアザゼルと同じく八つの翼へと増えたことだった。天使の持つ翼の数、それは天使にとっての位階にして強さの証明である。
そして、堕天使となったとはいえ、墜とされる以前のアザゼルは十二人の最上位天使【熾天使】の一人であり【熾天使】である全員が背に八つの翼を持っていた。因みに以前のコカビエルは六つの翼を持っており上位天使である智天使の一人であり、その中でも【熾天使】に匹敵するほどの実力者だった。
だが、先ほどまでは翼が一つであったことから神によって最下級レベルである【天使】レベルにまで力を削られていたのだろう。だが現在、かつてを越える程の数の翼と【熾天使】に匹敵するほどの実力者であったコカビエルに言えることはただ一つ。この場において、アザゼルをも超える圧倒的強者へと変貌した事だった。
(ち、翼の数で強さは決まらねぇが、こいつはちっと、いや、かなり不味いな)
今のコカビエルは、力を扱いきれるかは別に考えてもアザゼルと同等、もしくはそれ以上の力を持っていると言わざるを得ないという事だった。直ぐに力の掌握を出来る事は無いだろうが、だがしかし、それは時間も問題ともいえるだろう。そしてもう一つ問題があった。
(それに、下手に戦えばこいつを巻き込んじまう)
それはアザゼルの背後に構築された結界、その中にいるアルレーシャがそれは先ほどの急激に膨れ上がったコカビエルのオーラを少しとはいえ受けた影響なのだろう、その場から移動する事が出来ないという事だった。
(くそ、どうする!?)
今のコカビエルと戦うにはアザゼルも全力を出さなければならない。だが下手にアザゼルとコカビエルの戦いに巻き込まれれば、幾らアザゼルが作った強固な結界があるとはいえ互いに全力を出して戦っている間は周囲に気を配って戦う余裕はない。
そしてそうなれば動けないアルレーシャが巻き込まれる可能性がかなり高くなる。故にアザゼルは選択を迫られた。守るか、それとも守らずに勝利をもぎ取る為に戦うか、そうしている間も荒れ狂っていたオーラの嵐が秩序を取り戻しつつある、アザゼルはどちらか二者択一が迫られる。
そんな時だった。【封印の間】の扉付近にもう一人の気配が現れたのは。
「やれやれ、アルレーシャを助けに来て見れば魔族はいなくて天使と堕天使が戦っているとは、どう言う事なんだろうな?」
そう言いつつ、姿を現したのは人間でコカビエルのオーラを前にしても物怖じすることなく、ごく自然に封印の間へと入って来た。
(なんだ。あいつは)
声からして男だとは分かったが、その顔は目深く付けているバンダナと顔を半分以上覆っている布のせいでよく見えないその人間の前身は全て黒に統一され、アザゼルは見た事も無い不思議な剣を腰と背にそれぞれ一本ずつ携えていたが、見た感じそれ以外の装備は見当たらなかった。
「おやおや、何処から迷い込んだのでしょう、ね!」
そして、アザゼル達が気づいたという事は、コカビエルも気づいているとも同様といえ、入って来た黒装束の男へと極太の光の槍が投擲される。
「避けろ!」
そう言ったがしかしアザゼルの忠告の声を聞こえていたのか、男は防御も、避けようとする素振りすら見えなかった。そして、コカビエルの光の槍が黒装束の男へと当たる、アザゼルがそう感じた瞬間、槍が男の隣を通過し、壁へと激突しその威力を証明するかのように砂埃を巻き上げたが、男は全くの無傷だった。
(…は?)
アザゼルは一瞬、自分の目がおかしくなったのか、または何かしらの術に掛ったのかとまず最初に疑ったが、そのような事は無く、そもそも【熾天使】クラスになれば大掛かりな術でない限り【熾天使】レベルには通用しないのだ。その事からも考えると視覚は正常、何かしらの術に掛っている様子も感じえなかった。
であるならばいま目の前で起きた事が現実であるという事に他ならなかった。
(バカな‥‥障壁や武器など用いずに、体術であの槍を流したと言うのか!?)
アザゼルから見ても、先程の攻撃に対して当たる直前にすら黒装束の男が障壁や武器などを一切用いていなかった事はアザゼルも見ていた。だが、光の槍は男に当たることなく背後の壁へとぶつかった。もし、武器や障壁などを用いていないとして考えられるのはもはや、体術によってあの槍の威力全てを流したという事だろう。
「へえ、妙な技を使うようですね。ですが、これならどうでしょう!」
一方のコカビエルは、アザゼルの考えとは違い先程の攻撃は何かしらの術によって逸らされたと考えているのだろう、今度は先ほどのように大きさではなく、二メートル程の大きさの光の槍を隙間なく作り出し黒装束の男へと一斉に射出した。
「‥‥‥」
しかし、それを見ても黒装束の男は焦る事無く、その歩みを止めたかと思うと、その場で初めて腰に差していた白い鞘から夜空を思わせるほどに黒い漆黒の刀身と刃を持つ刀【黒鴉】を引き抜いたかと思うと、その刃を地面へと突き立て、その瞬間、突き立てた場所を起点に五つの角を持ち中心に五角形の法陣である【五芒星】が展開する。それを確認した瞬間。
「白夜!」
黒装束の男の声に答えるようにして突如として姿を現した狐耳に尻尾を持つ幼女が呪文とも祝詞ともいえるのような言葉を紡ぐ。
「天の門、閉ざされし天の岩戸よ。今一時、地上への門を開け!」
言葉が紡がれていくと、五芒星へと辺りに魔力が集う。そしてアザゼルだけではなく、コカビエルも何が起きようとしているのかに気が付いた。
(…こいつは…転移の術か!)
そして、アザゼルが見ているとコカビエルが行動を起こそうとしたが、それよりも転移の術が発動する方が早くアザゼル達は転移の光に飲み込まれ、後に残ったのは先ほどまでの音が嘘の様に消えた静かな【封印の間】だけだった。
今回は戦闘は…まあ、無かったと言えますね。まあ、次の話で主人公である颯天も参戦しての戦いになるか、主人公視点から書くかを迷ってますが…まあ、頑張ります(使命感)
そして、この投稿で今年の投稿は最後になると思います。なんやかんやで私的には色々と忙しい一年で、この作品の話も少しは進めました。皆さんはどうでしたでしょうか?少しは楽しめましたか? 少しでも楽しんで貰えていると幸いです。
次話は間違いなく来年になります。ですので少しでも楽しみにしていただけると幸いです。そして、いよいよ主人公を絡めての戦闘なので、色々と考えて書きます(予定では)
そして、本年はありがとうございました。来年も宜しくお願いします。
感想やブックマーク、誤字脱字報告など頂けると大変助かります。
長くなりましたが、それでは失礼します。少し早いですが、皆様、メリークリスマス、そしてよいお年を!




