4、新たな仲間
バッカスが『インジェラ』のブリッジにやって来た時、シャングと艦長の二人は難しい顔つきでモニターを睨みながら今後の方策を練っていた。
本当はシャングにAS隊の被害報告をする為にやってきたのだが、邪魔をしては悪いと思い、扉の所で控えながら窓の外の景色に視線を移す。
西の空には、さっきまで空高くあった筈の太陽が見えていた。
いつの間にか時間が経過して陽が傾き始めていたのだ。
そしてその下……西の大地には、猿族達の部隊が展開していた。
モニターでは同規模の部隊が東側と南側にも展開しているのが確認できる。
距離はそれぞれがおよそ5キロメートル。総数は七百人を少し割った位だろうか?
その中には獣化の個体も十人確認されていた。
いや、実際はもっといるのかもしれない。
今は猿族が後退した為、睨み合いの形になってはいるが、先程までは両者で激しい戦闘が繰り広げられていた。
自分達が籠るランドシップに猿族が攻撃を仕掛けていたのだが、遮蔽物の無い平原である事もあり、ランドシップの火力とAS隊の連携でなんとか取りつかれずに撃退出来た。
だがあと三時間もすれば陽が暮れる。
昼間と違い、暗闇になればワービーストの独壇場だ。
視力の強化されたAS隊ならともかく、ランドシップの船員では暗闇から接近するワービーストを認知出来なくなる。
照明弾では焼け石に水だろう。それに数には限りがある。
そうなるとランドシップの火力は当てに出来ないという事だ。
〈……次も支えられるかな?……いや……無理だろうな……〉
「……バッカス……何人残った?」
そんな事をバッカスが考えていると、シャングがモニターを見ながら声を掛けてきた。
「……二十一人です」
「半数を割ったか……」
「先程の第六、第八中隊が後退する際、ジェシカの隊が踏み留まって獣化を四人支えてくれました。それが無ければもっと……」
「……そうか。……それでジェシカは?」
「…………」
「……そうか……逝ったか」
無言で答えるバッカスで総てを察したのだろう。シャングがポツリと呟いた。
その時、それまで無言だった艦長が沈痛な面持ちでシャングに向き直った。
「シャング殿、もう充分だ。ここまで支えてくれた君達には感謝している。……だがこれ以上ここに留まると、君達AS隊まで死ぬ事になる。我々の事はいいから、君達だけでも脱出したまえ」
シャングはゆっくりと顔を上げると、左右に首を振り、次いで力なく笑った。
「艦長……もはや我々も一蓮托生なんですよ」
「シャング殿、君達の気持ちは嬉しいが……」
「いえ、そうではありません。パンナボール司令に、ここを死守しろと命令された時点で、もはや我々にも帰れる場所は無くなったと言う事です」
「……どう言うことだね?」
いぶかしむ艦長の質問に、シャングの横に控えたバッカスが代わりに答えた。
「考えてみて下さいよ、艦長。英雄パンナボール殿がですよ?部下の代わりに、私財の山をせっせと輸送機に積み込んで、そのまま部下を見捨てて船を脱出した。なぁんて事が世間に知れ渡ったら、名声が一気にガタ落ちです。そんな事をアイツが許す訳ないですよ。我々もとっくの昔に戦死者扱いになってる筈です」
「なら尚更だ。君達は生きて帰りたまえ。そして、その事をヴィンランドで追及して、しかるべき処断をしてくれ。それが……ここで犬死にする、我々への手向けになる」
「おそらく無理ですね。我々のASも戦闘続きで、もうエネルギーがありません。今急速充電してますが30キロも飛べんでしょう。それに、仮にこの包囲を脱出したとしても、その先は徒歩です。奴等に追撃されたら朝を迎える前に全滅です。……まぁ、それ以前に……もし脱出できたとしても、ASを失った我々はパンナボール司令に殺されるでしょうね。口封じの為に……」
「…………」
艦長は言葉を失って黙り込んでしまった。
確かにあの司令ならばやりかねないと思ったのだ。
「……バッカス」
「はい」
「生き残っている全員に、手榴弾を一個づつ配っておけ」
「……はい……隊長」
それが自決用なのは明らかだった。
だが事ここに至って、もはや艦長もなにも言えなかった。
ブリッジを重苦しい空気が包み、そこに居合わせた全員が覚悟を決めたまさにその時、レーダーに二つの光点が映った。
そして見る見る『インジェラ』に近付いて来る。
それに気付いた管制官が歓喜の声を上げた。
「輸送機だ! 北から二機の輸送機が接近して来るぞ!!」
「なに!? 本当か!?」
「……北から?」
ブリッジの全員が喜ぶ中、なぜかシャング一人だけが腑に落ちない顔をしていた。
「識別信号は出てるのか?」
「……え? あ、そう言えば……出てません」
「輸送機をモニターに出せ」
「はい」
シャングの命令で輸送機がモニターに映し出される。
だがそれを見た全員が判断に困ってしまった。
何故なら『インジェラ』搭載の輸送機は艦と同じでカーキ色だが、接近する輸送機はネイビー、つまりまったく見覚えのない色の機体だったのだ。
そんな中、モニターを見ていたバッカスがなにかに気付いたのか、スッとモニターを指差した。
「隊長、あれ……あの右の機体のコクピットで、誰かが白旗振ってませんか?」
シャングも艦長も言われて始めて気付いた。
確かにバッカスの言うとおり、誰かが手に持った小さな白旗をパタパタと振っているのが見える。
艦長の指示で即座に輸送機のコクピットがズームで映し出された。
そこには青味かかった銀髪の、どこか見覚えのある少女が、まるでこちらのモニターが見えているかのようにニヤニヤ笑いながら手を振っていた。
「……あの女、ワービーストだ」
「ワービースト!?なんでワービーストが軍の輸送機を持ってるんです!?」
「わからん」
「どうします?撃墜しますか?」
「……いや、待て。どうやら攻撃の意思はなさそうだ。とりあえず話だけでも聞いてみよう」
『インジェラ』の指示の元、一機の輸送機が右舷艦尾のデッキに着艦した。もう一機は上空を旋回している。
その着艦した輸送機の扉が開き、中から件の少女……アクミが白旗をパタパタと振りながらにこやかに顔を出した。
「はいはい、どうもどうも。戦いに来たんじゃありませんからね。撃たないで下さいね」
それを見たシャングが代表して前に進み出る。
そしていつでもASを展開できるよう油断なく構える。
「……お前……さっきのワービーストの女だな?いったいどういうつもりで……」
「もう、そんナニ怖い顔しないで下さいよ。もっとフレンドリーに!ほらほら笑って、スマイルスマイル!でないと、幸せと一緒に輸送機がどっかに飛んでっちゃいますよ?」
「…………」
「それと私の名前はお前じゃありません。アクミリス・ヴァレンタインです。親しみを込めて、アクちゃんって呼んでください」
「…………」
「…………」
「…………」
「あの……ひょっとして、リアクションに困ってます?」
「…………」
「まったくシャイですねぇ……。しかたない、ここは私の愛で、あなたの氷に閉ざされた心を……」
「いいから早く出ろ、アクミ!」
次から次へと捲し立てるアクミにシャングが尚も返答に窮していると、そのアクミの頭にポンと手を置いて一人の男が顔を出した。
その男の顔を見た瞬間、シャングの顔色が変わる。
「シンッ!?」
「……ガキじゃあるまいし……大声を出すなシャング」
シンが面倒くさそうな顔をしながらゆっくりとタラップを降りて来た。
その後からアクミ、大牙……そしてアムが次々とタラップを降りてくる。
「シン……ひょっとして、シャング隊長と知り合いだったの?」
「軍での同期だ」
「お前、生きていたのか!?今までどこに!?それにランダースまで!?どうしてお前達がワービーストと一緒にいる?いったいなにがどうなって……」
「話はあとだ、シャング。とりあえずアムから聞いてるだろう?こいつ等は大丈夫だから早く輸送機に乗れ。仲間の近くまで送ってやる」
シンはそう言うと、親指で後ろの輸送機を指差した。
だがそこにいる全員がシンの一言で静まり返ってしまった。あれだけ騒がしかったシャングも黙り込んでいる。
それをいぶかしんだシンが、
「どうした?」
と聞くと、シャングがポツリと呟いた。
「……気持ちは嬉しいが、俺達には行く宛てがない」
「……どう言うことだ?」
シンが問い詰めると、シャングは先程艦長に語ったのと同じ事を順を追って話し出した。
もちろん、今後の覚悟についても……。
それを聞いたシンは溜め息を一つつき、次いで呆れた顔でシャングを見た。
「お前はバカか?」
「なっ!?」
「なにが覚悟だ。見ろ、部下の顔を。お前が湿気た面をしてるもんだから、どいつもこいつも諦めムードになってるだろうが。お前も部隊を率いる隊長なら、部下を生かす事だけ考えろ」
「……生かせと言われても」
「はぁ……お前は本当にバカだな。何もあそこだけが世界の全てじゃないだろう?ここに立て籠って誰かを救えるならともかく、見捨てられたのなら義理立てする必要も無い。とっととここから逃げ出せ。そして生きろ。そうすれば、いずれパンナボールの奴に一泡吹かせられる機会が来るかもしれんぞ?」
「だが行く宛てが……」
「無いなら私達の街に来れば良いんじゃないですか?」
「ーーーッ!?」
唐突にアクミが提案した。
それも親しい友人を、ちょっと我が家に誘うような軽い口振りで。
だがそれを聞いたシャングが……いや、その場の全員が息を飲んだ。
それだけ考えても見なかった言葉がワービーストの少女の口から発せられたのだ。
「……俺達は敵同士だったんだぞ。憎くはないのか?」
「敵同士って言われても……ナニしろ私ら誰も、怪我すらしてないですからね。あ!?……ひょっとして、私等に殴られちゃった件について言ってます?……いや……アレはほら……アレですよ。ナンと言いますか……その…………授業料?あ、いやいや違いますね。えっと、ほら……アレですよアレ!お前やるな?ふっ、お前こそ。あっはっは!……的な?人間誰もが一度は経験する……うーん……儀式?そう、儀式ですよ儀式!友情を深める為に必要な儀式!そう思って勘弁して下さい。ね?この通り……」
そう言って顔の前で両手を合わせて拝むアクミ。
その姿に皆は最初呆気にとられ、次いで一斉に吹き出した。
「……あら?」
自分の言おうとした事を言われてしまったシンが、アクミの頭に手を乗せながら苦笑いを浮かべる。
「……まぁ、そう言う訳だ。とりあえず俺達の街に来い。今後の事は落ち着いてからゆっくり考えればいいだろう?」
シンに促され、シャングはそこにいる全員の顔を見回した。
誰も彼もがさっきのアクミの一件で笑っている。
最後に艦長と目が合うと、艦長はゆっくりと頷いた。
シャングとてみすみす部下を死なせたいとは思ってない。
生きられるならそれに越した事はないのだ。
確かにワービーストの街に行く事は、今までの価値観を捨てるような行為だ。
当然、そこには不安も伴う。
だが考えてもみろ。
成り行きで突然夜の闇の中に放り出され、そのまま当てもなく飛び続けて、やがて力尽きるだけだった自分達に、仮初めとはいえ羽を休める場所が見つかったのだ。
ならなにを迷う必要がある?
気に入らなければ、また飛び立てばいいだけの話だ。
そう思うとシャングも途端に気が楽になった。
〈それに、こいつもいるしな……〉
目の前のシンの顔を見ると、ついニヤリと笑ってしまう。
それは懐かしいからではなく、
『これ以上駄々を捏ねるようなら、問答無用でぶん殴る』
そう言っている顔に思えたからだ。
だからシャングは相手の好意に素直に甘える事にした。
その場の全員を代表して、シンに深く頭を下げる。
「じゃあ、すまんが厄介になる。我々AS隊二十二名、及び『インジェラ』乗員十三名……よろしく頼む」
「ふん……良い回答だ。まだぐじぐじ言ったら、ぶん殴ってやるところだったぞ?」
「やっぱりそうか」
シンが笑いながら右手を差し出すと、シャングは苦笑いを浮かべてその手を取った。
次いでシンはシャングの後ろに控えていた艦長の前に立つと、
「先程は失礼しました。シングレア・ロンドです」
と言って自己紹介をし、シャングの時と同じように右手を差し出した。
「いや、見事な手際でした。これからお世話になります。レイモンド・ラッセンです」
艦長は笑いながら名乗ると、差し出された手を取り固く握手を交わした。
これで決まった。
その場の全員が生きる希望を見つけ、そして慌ただしく動き出す。
「よぉし!そうと決まったら善は急げだ。急いで怪我人を搬送しろ!」
「おい!ブリッジに言って、もう一機の輸送機を誘導させろ!」
「手の空いてる者は急いでASの関連部品を積み込め。最優先だ!それが終わったら武器と弾薬だ!」
「確か予備のASもあった筈だ。そいつも積み込め!」
いちいちシャングが指示を出す必要もない。皆が生き生きとして適切な行動をとっていく。
それらを見守りながら、シャングはふと思い付いた事をシンに尋ねた。
「シン。お前、ランドシップも隠し持ってるな?」
「ふふっ、分かるか?」
「あれだけの規模の戦闘だ。当然だろう?ならランドシップの弾薬もいるか?」
「助かる。それとドローンも持ち帰りたい。何機残ってる?」
「ドローンなら、充電済みが32機丸々残ってる。しかしそんなに積めんぞ?」
「いや、鳳仙花で飛ばす。……猫々」
そう言ってシンはインカムを使って猫々と呼ばれる少女を呼び出した。すぐさま「はぁい」と返事が返る。
「充電済みのドローンが32機ある。『アイリッシュ』と連絡を取りあって鳳仙花で飛ばせ。向こうで回収する」
「本当ですか~?やった~!急いで準備しますぅ」
なにがそんなに嬉しいのか、猫々と呼ばれた少女は明るい声で返事をすると直ぐに通信を切った。
輸送機の方を見れば、シンに命令されたワービーストの青年がバッカス達に混じって武器弾薬を運び込むのを手伝っている。
それを眺めながらシャングは不思議なものだとしみじみ思った。
「……人間のお前が、なぜワービースト達の信頼を得られたんだ?」
「不思議か?」
「まあな。そもそも、さっきまで俺はワービーストは敵だとしか考えてなかったんだぞ?ランダースの言う事も信じられられずにな。……いや、違うな。心の奥底では、信じようとすらせずにいたんだ……」
「俺達もワービーストも、根本的なところではなにも変わらん。同じ人間だ。ただ俺達が勝手に線引きしてるだけさ」
「……勝手に線引き……か」
「お前もすぐに分かる」
「…………」
「さぁ、話は後だ。俺達も搬入を手伝うぞ」
二時間後。
無事に猿族の包囲を脱出したシン達一行は、ランドシップ『アイリッシュ』の甲板に降り立っていた。
折しも西の空には夕日が沈んで行くところだった。
その沈み行く夕日を見つめながらシャングは考えていた。
確かに自分は……いや、自分達はワービーストを誤解していたようだ。
シンやアムを見ている限り共存も可能だろう。そう思う。
だがシャングにはもう一つだけ、どうしても納得できないことがあった。
「なぁ……シンよ」
「なんだ?」
「お前……なんで帰って来なかったんだ?」
「…………」
「ランダースには悪いが、俺はお前の言う事なら信じられたと思うぞ」
その質問に対して、シンは暫し無言でシャングを見つめたあと、逆に質問を返した。
「……お前はおかしいとは思わないか?」
「おかしい?」
「何十年もワービーストと戦っていて、今までワービーストの本質を知らない事がさ」
「…………」
言われてみれば確かにそうだ。
シンの指摘する通りおかしい。
何故ならワービーストとの戦いは昨日今日始まった事ではない。もう何十年も前から続いているのだ。
それなら一度や二度は感染していないワービーストと接触があってもいい筈だ。
それが未だに報告されていないのは、かえって不自然だった。
「これは俺の考えだが、上層部の連中は感染者の情報を故意に隠し、ワービーストを憎むよう市民の意識を誘導しているように思える。それはワービーストを根絶やしにするのが最終目標だからだろう。お前は本当に、そんな事が可能だと思うか?」
「……それは」
「はっきり言って無理だ。もしそんな事をしようと思ったら、俺達は人生を掛けてワービーストを殺し続けなきゃならん」
「…………」
「俺は……ワービーストも同じ人間だと理解した瞬間、ワービースト相手に、際限なく殺し会いをするのが嫌になったのさ……」
その時、ランドシップが大きく揺れた。
どうやら地面から突出した岩盤に左舷下部を引っ掛けたようだった。
直後、ブリッジからサナの悲鳴が降ってきた。
『キャーーーッ!?ちょっと先生、いつまでそんな所で世間話してるんですか!こっちは……って言うか私が大変なんですよ!ねぇ、そこの人達。誰かランドシップの操縦できる人いないんですか?いたら代わって下さい。私、ペーパードライバーですからね?ランドシップぶつけまくって、ボッコボコになっちゃても知りませんからね!』
それを聞いたラッセン艦長は苦笑いを一つ浮かべると、後ろに控える士官に振り返った。
「……エリック代わってやれ」
「……はっ!」
エリックと言われた士官は慌ただしく艦長に敬礼すると、ブリッジに向かって駆け出して行く。
暫くすると、
『おいお前……なんでこんな所に椅子なんか持ち込んで座ってるんだ。そんなんじゃ前が見えんだろう』
『えぇ?だって私だけ立ってるなんて、疲れるじゃないですか』
『そこに腰掛けがあるだろう』
『だって、こんなの立ってるのと変わりませんよ。だいたい私には高過ぎです』
『だってじゃない。ほら代わってやるからその椅子をどけろ……ってうわっ!?なんで操縦桿びしょびしょなんだ』
『いやぁ、さっきのでジュース溢しちゃいまして……ははは……』
『はははじゃない。計器の上にコップなんか置くヤツがあるか。早くタオル持ってこいタオル!』
『もう……退かせとか持ってこいとか……人使いが粗いんですから……』
という会話が聞こえてきた。
艦内放送のスイッチが入れっぱなしになっていたのだ。
その場の全員がクスクスと笑っている。
そんな中、一人生真面目な顔のシャングがシンに向き直った。
「それでさっきの続きだが、俺達の所に帰って皆の意識を変えてやろうとは思わなかったのか?」
「ん……?あぁ……それか。簡単さ。俺はアムのように、優しく説得するなんて芸当が出来ないだけだ」
「優しく説得?」
「そうだ。考えてもみろ。相手はこちらの話を聞こうともしない、駄々を捏ねたガキみたいな頭の持ち主なんだぞ? そんなのになにを言っても無駄だろう。そう言うヤツは横っ面を一発叩くに限る。そうすれば嫌でもこちらを見る。そして自分で考え、いつか気付くだろう。俺はそう思ってる」
「……横っ面を叩く……か。なんだかお前らしいな」
「だろ?」
「しかし……確かに効果的でもあるな」
「だろ?」
我が意を得たりとばかり、シンがニヤリと笑う。
シャングはそんなシンがおかしくて、思わずふっと笑ってしまった。
「……なぁ、シン。一つだけ確認しとく。お前は……いや、お前達は……旧人類を根絶やしにするのが目的じゃないんだな?」
「違う。うちの族長は無駄な殺しは絶対にしない。それは猿族が相手でもだ。勿論、殺さなきゃいけないときは殺す。だがそれは理由があってだ」
「そうか。それを聞いて安心した。……なら、俺もお前に乗っかるかな。さしあたって俺は、パンナボールの横っ面を思いっきりぶっ叩いてやりたい」
「ふっ……とは言え、この辺りでは弱小だぞ?今のところ生き残るのが精一杯だ」
「まぁ、それも良いさ。お前と一緒ならやっていけそうだ」
デッキの手摺にもたれ、暗くなった空を見上げるシャング。
その横顔は、どこか楽し気に見えた。