第1話 友・麻友
「行ってきます」あたしはいつものように暗い声でそう言い、学校に向かう。
あたしは瀬戸内 渚。高2。3年前、彼氏の浜岡 瞬二を交通事故で亡くした。それ以来、ずっとしゅんのことを引きずってる。母さんや友達には、いい加減忘れたら? って何度も言われた。今もたまに言われる。だけど忘れられない。それが現状。みんな、あたしの辛さがわからないから言えるんだと思う。
いい加減忘れたら? その台詞を言わないのは、あたしの一番の友達。斉藤 麻友。小学校から今までずっと一緒の学校。しゅんが亡くなった時に一番傍にいて慰めてくれて、あたしがどんなになろうとずっと傍にいれくれた大切な友達。
「なぎ、おはよー」教室に入って、自分の席に行くと麻友が来てそう言う。
「おはよ、まゆ」あたしは麻友にそう言う。
「どう? 浜岡のことは。振っ切れた?」麻友は心配そうにそう訊いてくる。
「振っ切る事なんて出来ないよ」あたしはどこか淋しそうにそう言った。
「でも、なーは強いよね。大好きだった彼氏を失くしたのに、強く生きてるんだもん」麻友はあたしを元気付けるかのように言う。
「あたしは強くないよ。自分が勝手に壁を作ってるだけ。その壁は、触れたらすぐに壊れちゃうような薄い壁。その壁があるから、強く見えるんだよ。それにさ、まーの方が強いよ」
「あたしだって一緒だよ」
予鈴が鳴る。先生はまだ入ってこない。だからあたしと麻友は話し続ける。
「あたしの壁とまーの壁は違う。あたしのは、知らず知らずのうちに勝手に作られてた。でもまーのは、まーの意思で作られた壁なの。そうでしょ?」
「……そうか。渚、ありがと!」麻友は、何かひらいめたかのようにそう言い、あたしにお礼を言った。
「へ?」驚いたあたしは、変な声でそう言う。
「そろそろチャイム鳴るね。じゃあまた後でね」そう言って麻友は自分の席に戻る。
「うん、また後で」
入ったときはザワザワしていて、高い声や低い声など沢山の声が飛び交っていた教室が、今はほとんど喋り声がない。聞こえるのは、ギャル系の女子のひそひそ喋っている声くらい。
麻友が席に戻ってから数分後に本鈴は鳴った。それからちょっと間経ち、担任が教室に入ってくる。
みんなは、朝学に集中している。あたしも集中しなくちゃ。
あたしは、名前だけ書いた理科の朝学のプリントの問題を解き始める。朝学のプリントは意外と簡単に出来た。
朝学の時間が終わり、朝のショートホームルームももう終わった。今は休み時間。と言っても10分休憩だけど。
「渚、随分明るくなってよね」
「そうかな?」
「うん。だって前は、へぇ、とか、そぅ、とか、一言ばっかりだったもん。会話が成り立たなかったって言うか。でも今はちゃんと会話出来てるし♪」
「ありがと」
麻友が好き。友達として。麻友だけは失くしたくない。あたしは改めてそう思った。