第10話 止まらない涙、しゅんと同じ温もり
最後の言葉を交わしてから、もう10分が経った。未だに本田は口を開かない。あたしは全然時間に余裕があるから問題はないけど、本田はどうかわからないからなんか心配。
「大林 加奈恵って知ってるか?」少ししてから本田が言う。
大林、加奈恵? 誰だろう。わかんない……。
「ごめん、知らない」あたしは声を小さくして言う。
「知らねぇか……」
不安になった。あたしの知らない人を、本田が知ってる。そんなの当たり前のことなのに、やっぱりしゅんと重ねて見てしまって……。しゅんなら、あたしの知らない人は「こいつだよ」って言いながら写真を見せてくれて。
「かなは、大林 加奈恵は、中3の時に突然いなくなったんだ。高1の終わり頃、こっちで見たって友達が何人かいて。それで俺、転校してきたんだ。こいつがかな。一番右の奴」そう言って本田は、ポケットから一枚の写真を取り出してきてあたしに見せる。
その行動にあたしは、涙を堪えきれなくて。一気に涙が零れ落ちる。
「どうした?!」本田は驚いてそう言う。
「ごめっ……止まっな、い、の……しゅん……っ」あたしは声を押し殺して涙を流す。
――ガタッ
椅子を引く音がした。下を向いて涙を流していたあたしは、本田が立ち上がったなんてわからなかった。
気にせずにないていると、急にギュッと抱きしめられて。抱きしめているのが本田だってあたしが気づくのは、もう少しあとのこと。
「うっ、くっ……ひっく、っく……」
「瞬二はお前の傍にいる。だから、涙枯れるまでなけ。そしたら笑え」耳元で、本田がそう言う。
あぁ、この温もりは本田なんだ。今あたしを、ギュッと、強く優しく抱きしめてくれてるのは、本田なんだ。ずっと、ずっとこうしていたい……。本田に抱きしめられていたい……。
――いつか、俺に似た人が、渚の前に現れる
ふっと、しゅんの声が聞こえた。しゅんが逝く前に、あたしに言った言葉。あれは本当だったんだ。今あたしを抱きしめてくれてるのは、紛れもなくしゅんが言った言葉通りの人。顔も雰囲気も声も、何もかもがしゅんに似た人。
本田の言葉を聞くと、本田の温もりを感じると、すっごい懐かしい気持ちになる。本だの傍にいると、それだけで安心出来て、落ち着く。それはやっぱり、しゅんに似てるから? それもあると思う。だけどそんなことより、あたしが本田を好きになってしまったからかな……。あたしは、しゅんみたいな人を好きになる運命なんだね。しゅんみたいに優しくて、みんなより少しだけ声が低くて、あたしだけの気持ちを和ませてくれる独特の雰囲気を持ってる。あたしが泣けば、泣きやめなんて言わずに、泣きたいだけ泣け、って言ってくれて、泣きやんだら笑えって言ってくれて。
あたしは、夕陽が沈んで辺りが真っ暗になったことにも気づかずに、本田の腕の中で泣き崩れていた。