第9話 夕陽の中の綺麗な二人
時は放課後。部活はついさっき終わった。ちなみにあたしは硬式テニス部に入っている。3年生の人数が少ないのと、校内リーグ戦で勝ち抜いたのもあって、レギュラー。
「渚、帰ろー」着替えを済ませると、友達が言う。
「ごめん、これから行くとこあるんだ」
「そっか〜。じゃぁしょうがないね。また明日ね、渚。バイバイ」
「ホントにごめんね、バイバイ」あたしの返事を聞くと、友達は他の子たちと一緒に帰っていった。
それからあたしは教室に向かう。
――ガラッ
教室の扉を開ける。俯いて教室に入り、俯いたままゆっくり閉める。顔を上げると、あたしの席の隣の席に本田が座っている。机に頬杖をつい、前を向いて。
その本田は、窓から入る夕陽に照らされていて、すっごく綺麗だった。いつの日かの中学の教室で見たしゅんみたいに。そんな本田に、あたしは不覚にも見とれてしまっていた。
「……瀬戸内?」あたしがいることに気づいたのか、本田が言う。
「えっ、あぁごめん、な、さい……?」あたしは何故か疑問形で謝る。
そう言ったあと、本田のところへ行く。
あとから思ったことなんだけど、あたしに気づくの遅かったなぁって。普通は扉開いたときに気づくハズなのに。そんなのに気づかないくらいボーっとしていたのかな?
「なに見てたんだ?」
「本田を、見てた……。いや、本田に見とれてた。あまりにも綺麗で、あの日のしゅんみたいだったから、つい……」
「しゅん?」
「浜岡 瞬二。中2の時に交通事故で亡くなった、あたしの彼氏。本田にそっくり」
「わりぃ」
「別に謝ることないよ」
あたしは気づいた。授業中は隣にいるだけであんなにも緊張していたのに、今は全然緊張していないことに――。しゅんと殆ど変わらない、この独特の、すっごい落ち着く雰囲気とか声とかに、ずっと一緒にいたい、なんて不覚にも思ってしまったことに。
「話、あるんじゃないの?」
こんな話をするために、あたしを呼び出したんじゃないだろう、と思ったあたしは、本田にきく。
「あぁ、そうだったな」
本田はそれだけ言うと、黙り込んでしまった。
あたしは、何か言いにくいことなのかな? と思い、本田から離してくれるのを待つことにした。
……だけど、なかなか話を切り出さない。それでもあたしは待つ。本人が言いたくないことを、無理矢理言わそうとしたりするのは嫌いだから。
ふと窓の外を見てみるお、もうすぐ夕陽が沈みそうだった。あんなに綺麗だったのになぁ、と心の中で呟く。
また見たい。あの夕陽の中の綺麗な本田が見たい。あたしはそう思った。でもそれは、やっぱりあたしの中からしゅんが消えていない証拠。まだしゅんが好きで、忘れられないってことで。知らず知らず、本田としゅんをあたしは重ねていた。