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アリだ―っ

今回は短めです。

「おきなさい。おきなさい。わたしのかわいい、立花ゆかりよ」

 うーん……うるさいなぁ。夢なんだから寝かせてほしい。

「もう、きょうはたびだちのひでしょ」

「――って、どこに旅立つんじゃぁ!?」

 意味不明の言葉に、あたしは反射的に飛び起きてしまった。

 予想通りというか、あたしは見慣れた白い空間に立っていて、笑顔の女神さま改め社長が目の前にいた。

 って、あたし、また死んだのか? 確か家でちゃんと寝てたはずなのに。

 家が火事? それとも睡眠中に心筋梗塞か何かか?

「いえいえ。あなたは死ぬときではないので、ちゃんと生きてますよ。今日は別の用件でお呼び出ししたのです」

「……今は勤務時間外ですから帰っていいですか、社長」

「あら。何を言っているのでしょう。私は白露商事に社長ではなく、ただのどこにでもいる女神さまですよ」

「こんなんが、どこにでもいてたまるかっ!」

 あたしが、社会の仕組みというものを知らないだけ、ということはないよね?

「ちなみに、社長は労働基準法の対象ではありませんから、365日いくらでも働いても問題ありません」

「あたしは新入社員な平社員ですから」

 としっかり主張はしておくけど、また出張手当の減額でもさせられたら西岡さんをはじめとする営業部のみなさんが怖いので、これ以上は逆らわないようにする。

「で、何の用ですか?」

「はい。最近みなさまから指摘されて気づいたのですが、異世界出張の度に死がともなうのは問題かと……」

「気づくの、遅っ!」

「それに、そもそもああいうのは転生と違う、というご指摘も受けています」

「はい。そうですね」

 あれはただ異世界に吹っ飛ばされているだけで、転生とは違う。

 転生というのは、死んじゃって一から生まれ変わるみたいな感じで……

「そういうことですので、まずはそこから改善してみようと思います」

「いやいや、死亡の方から改善しましょうよ?」

「大丈夫です。ちゃんとした転生でしたら死亡は必須ですから♪」

「大丈夫、じゃないっ!」

「残念ですがもう運命は決まっているのですよ。というわけで、まじめに転生しますねー」

 あたしの主張はいつものようにスルーされ、白い光に包まれていった。


 ………………

 …………

 ……


 目覚めると、巨大なアリが目の前をうろついていた。

「ぎゃぁぁぁ、あっ、アリーっ!」

「何を言ってるんだ。お前もアリだろう」

 目の前のアリにそう言われ、あたしは自分の身体を見た。……あ、本当だ。

 黒っぽいごつごつした手足。頭の上でぴょこぴょこ動く感じの触覚。鏡がないから分からないけど、きっと顔も目の前のアリと同じなんだろう。

「さ、ぼーっとしてないで、働きに行くぞ」

 目の前のアリが、あたし(?)に言った。……体がアリなんで思わず?を付けてしまったよ。自分の性別すら分からないっていったい。

 ――ていうか、転生しても働きアリ(社畜)ですか。

 自分の運命ていうか女神さまを呪いつつ、目の前のアリの後を付いていく。

 すると、そのアリが前を見たままあたしに話しかけてきた。

「そろそろ巣の拡張工事も終わるな……」

「うん」

 まったく分からないけど、適当に相槌を打つ。

「あのさ、俺、この仕事が終わったら……」

 そのときだった。

「水、水だーっ」

 急に巣の中が騒がしくなる。ほどなくして、あたしたちのところにも水が浸水してきた。

「雨?」

 あたしはアリの姿のまま小首を傾げる。

「いや。雨なんかでこんなにはならない。きっと巨人族の魔王の仕業だ」

「魔王?」

「ああ。魔王は巨人族の中では体は小さいが、一番凶暴な奴だ」

 おお。異世界転生物らしい展開だ。でも身体がアリってのはどうなのよ? あり?

 ――って寒いシャレを言っている場合じゃない。

 あたしは見よう見まねにとにかく走り回る。

 気づいたら、水を避けるように上に上にと進んでいたみたいで、視線の先に、太陽の光が差し込んでいるのが見えた。このまま巣の中にいても水で溺れてしまう。

 そう思ったあたしは、入口から入り込む水に耐えつつ、何とか地上に出た。


 そして、あたしは見てしまったのだ。魔王の姿を――


「ふっはっはー。ちいさきものたちよ。かみのいかりだーぁ」

 アリから見たら、とてつもなく巨大な……人間の女の子だった。


「なけ、わめけ、いのちごいをするのだー」

 彼女は水の出るホースを持って、アリの巣に水を流していく。


「でも、ままにおやつきんしされたうらみで、ゆるしてあげないのだー」

 こうして、あたしは流され溺れた。



  ☆ ☆ ☆



「どうです? これが本当の転生ですよ」

 気が付くと、お約束の言葉をすっ飛ばして、えっへんと胸を張った女神さまが立っていた。

 あたしは自分の身体を確認する。良かった。ちゃんと人間に戻っている。

 とりあえず一安心しつつ、あたしは一番の問題点を指摘する。

「あの、ひとつ質問なんですけど」

「はい。何ですか?」

「これって、出張でも何でもないですよね」

 アリの姿でアリ相手に、何を営業すればいいのか。

 女神さまが、ぴたりと固まった。

 しばらくして、また笑顔に戻って言った。

「出張費を払わなくていいので、お得ですね」

「そういう問題かーっ!」

「はいはーい。これは夢なので、そろそろ戻りますよー」

「ちょっと待てぇっ!」

 というあたしの叫び声はむなしく、意識の奥へと消えていった。



 余談だけどその日、寝起き最悪な状態でオフィスに出社すると、あたしの机の上に、なぜかお土産と思しきものが置かれていた。その箱には、「異世界銘菓 アリ饅頭」と書かれている。

 女神さまのお詫びかどうかは知らないけど。

 ……嬉しくねぇ。



祝ロマサガ2リメイク記念。

アリのシーンはインパクトがありました。

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