6. バスケット
パシュンっとゆっくりと弧を描いたボールがネットをくぐり抜ける。直ぐに試合終了のブザーがなっわぁっと歓声を上げる生徒達が見つめる先になっちゃんがいた。
「ちーちゃんさぁ、今度の日曜何してるの?」
「特に何も無いよ?」
三日前夕飯を食べ終わって、なっちゃんが質問してきた。
「バスケの試合があるんだけど、見に来ない?」
「良いよ?でも私行ってもいいの?」
前の学校では生徒会に入っていたらしいなっちゃんはこっちでは草太に誘われてバスケ部に入ったようだった。
「当たり前じゃん。草太もいるしさ、ってかヨッシーも桃香もみんな会いたがってるし。」
みんな小さい頃から遊んでいたメンバーの名前だった。小学校中学校とこの町は生徒が変わらない。ただ単に町が小さいからだ。
試合は県の中でも割と強いチームと対戦するらしい。私は吹奏楽だったから、イマイチよく分からないけど…
「じゃあサキと一緒に応援に行くね。」
「うん、ちーちゃんが居てくれたら凄く頑張れそうだよ。」
そんなやり取りがあって母校の体育館に来ていた。
ピーっとブザーがなって、試合が終了した。わぁっと観客が拍手を両チームに送っている。なっちゃんたちが勝ったようだった。
私とサキは試合終了後の打ち上げに参加することになった。
「お疲れ様〜!そして俺たちよくがんばった〜!」
草太が嬉しそうにジュースで乾杯の音頭をとった。
バスケ部のメンバー以外にもクラスの子達も参加している様で、バイキング形式のレストランが生徒達で賑わった。
「みんか騒ぐなよ〜!」
「お前が一番うるさいから大丈夫〜」
などと草太に野次が飛ぶ。
「ちーちゃん、サキちゃん、ご飯取りにいこ?」
嬉しそうに話しかけてきたのは、バスケ部マネージャーの猪木桃香だった。
「桃ちゃん、久しぶり!元気だった?」
「うん、元気だったよ!ちーちゃん大人っぽいね!高校生って感じ!」
「ふふっ、ありがとう。」
「良かったわね、ちぃ。去年まで桃香の方が先輩に間違えられてたのが懐かしいわね。」
「もうっ!サキの意地悪〜。」
「あははっ!確かに私の方がちーちゃんより背高いしね。」
三人で仲良く話していると、
「捺津くん、お疲れ〜!凄かったよ〜!」
と女子が数人でなっちゃんに話しかけているのが目に入った。
私の見ている先を桃ちゃんも見て軽くため息をついた。
「なっちゃんと同じクラスの女子だよ。なっちゃんが帰ってきてから、練習とか見にきてキャーキャー煩いんだよねぇ〜。」
「やっぱりモテるのね、あの子。」
「うん、かなり。下級生からも凄い人気だし…って、あっ!別になっちゃんがハーレム作りたいとかそういうのじゃ全然ないんだよ?」
桃ちゃんがこっちを向いて力説する。
「あははっ!ハーレムって…!」
なっちゃんが、ハーレム作るって…なんか想像できないっ…!草太当たりはそういうの喜びそうだけど。
「桃香〜、あんまり食いすぎんなよ〜。」
テーブルからヒラヒラと手を振る相馬良樹、ヨッシーが声をかけた。
「そう言えば桃ちゃん、ヨッシーと付き合ってるんだってね?」
「あら?そうなの?」
「えっ!!何でっ⁈だっ誰からっ?」
と桃ちゃんの顔がみるみる真っ赤になった。
「あ、ごめん。内緒だった?」
「いやっ、そういうわけじゃ無いけど…話そうと思ってたし。」
「なっちゃんの勉強見てる時に教えてもらって。でも良かったね!二人とも中々くっつかないからずっと早くくっつけ〜!て念じてたんだよ?」
「えっ!そうなの?そっか、うん、ちーちゃんのお願いが通じたのかも。」
「お願いってよりは呪いみたいね。」
サキのツッコミはさておき桃ちゃんがちょっとニヤついているのが気になった。
「それよりちーちゃんもなっちゃんに勉強教えてるんだぁ〜?」
「うん、夕飯の後私が宿題してる合間に少しだけどね?」
「えっ!ちーちゃんの部屋でしてるの?」
「うん。そうだよ?」
「えーっ!それって!それって…」
「密室に二人きりなのね。何時間も。」
「いや〜!何か大人〜!」
「いや、何が…?」
キャーキャーと騒ぐ桃ちゃんに対し静かにツッコミを入れる。
「だってぇ〜、年頃の男女が〜、密室でぇ〜、、、!きゃーっ!もう言えない〜!」
「桃香、ちょっとうるさいわよ。落ち着きなさい。」
さすがにこれ以上騒ぐと追い出されると考えたのかサキが止めに入る。
桃ちゃんはしっかり者だけど、苗字のごとく猪の様に突っ走ったら止まらない事が多々ある子だった。
テーブルに戻ると、なっちゃんがさっきいた女の子達に挟まれて席に座っていて、どこに座ろうか迷ってしまった。




