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36. 神頼み

「うー、結構人が多い〜…」


さすがお正月。年に一番人が集まる時…。お賽銭を投げ入れてガラガラと鈴を鳴らす。鳴らすといっても人が多いから皆んなが鳴らしているところを触るとかそんな感じだったけど…ご利益ありますようにっ!そう願ってお願い事をした。家族の健康、なっちゃんの受験、あと…。


「はぁ〜っ、やっと人混みから抜けれたね〜!」


「そうだね、去年もこんなに多かったの?」


「去年はこんなに、多くなかったよ?」


「あぁ、じゃあアレのせいだね。」


テレビでも話題っ!当たるおみくじ!


そう看板がある所に大行列ができていた。


「引いてみる?」


「ううん、私はいいや。あっ、甘酒配ってるみたい!」


「えっ!ちいちゃんっ!」


グイッとなっちゃんの腕を引っ張り甘酒の元へと、向かう。


「えへへっ、甘〜い!あったか〜い!」


「ちいちゃん…これが飲みたくてこの神社に参拝してるんでしょ。」


「あはっ!ばれたか〜!」


生姜がピリッときいて甘さもほんのりで美味しいんだよね〜ここ。中学の時から毎年お正月にはここへ参拝している。


帰り道にフウフウと三杯目の甘酒を飲んでいるとなっちゃんが少し考えた様子でこっちをみた。


「ちいちゃん…。」


「ん?なぁに?」


目を閉じて一呼吸してからなっちゃんがこっちを見て口を開いた。


「ちいちゃん…しばらくさ、というか受験の結果が出るまで…俺ちいちゃんの家には行かないよ。」


「えっ!」


「前々から考えてた事だったんだ。」


突然の彼の提案に驚いて言葉を失う。


「えと…ご飯とかは?」


「それも出来る限り自分で作るよ。礼子さんたちには昨日伝えたから。」


「えっ、でも…どうして…」


「…泣かせたかったわけじゃないんだけどな。」


気づくとポロポロと涙がこぼれ落ちて居た。


「だっ…て、そんな突然…わたし、何か悪い事した…?」


首を横に降るなっちゃんの姿がどんどん涙で滲んでいく。今の今まで楽しく過ごしていた時間が、急に訳がわからず混乱して酷い時間になった。何か、どこかで間違ったのか…ただの自惚れだったのか、それともはじめからただの幼なじみだったのか…よく、わからない。


「けじめっていうかさ、もう少し自分に自信を持ちたいっていうか…すごい俺の勝手なワガママなんだけどね…?」


「ひっく…な、にそれっ…意味っわかんないよ…!優しく、してくれてたのに…き、期待だってっ、いっぱいしたのに…」


溢れ出る涙を抑えきれず、今まで溜めていた感情までも溢れ出す。


「わ、私だけっ…わたしだけがっ…一方的にっ、なっちゃんのことっ…」


「っ!あー、もう…」


グイッとなっちゃんに引き寄せられて今までで一番きつくギュッと抱きしめられた。


「高校入るまで…我慢しようと思ってたのに…」


グイッと顎を掴まれてなっちゃんと目があう。いつものふんわりとした優しい瞳じゃなくて、どこか鋭くて熱をおびた瞳…。


「もう…今さらやめたりできないから…」


じっと見つめていたなっちゃんの瞳が閉じられて口に温かいものがそっお触れて離れた。


「…えっ!」


「どうしたの?驚いた顔して。」


「えっ!あのっ、なっちゃん…今の…。」


「あぁ、ごめんね?つい我慢できなくて。」


「えっ、だって…えっ⁉︎」


き、キス?キスだよね…⁉︎が、我慢できなくてってそんな悪びれもなく…い、一応乙女の大事なファーストキスってやつなんだけど⁉︎さっきまで泣いていた涙など引っ込んでしまうくらい驚いた。絶望的な気分だったのに…今は驚きでそれどころじゃない。


「クスッ…受験頑張るよ。それでさ、ちいちゃんと同じ学校に通う。幼馴染としてじゃなく、彼氏として…。俺の夢なんだけどさ、叶いそうかな?」


「えっと、それって…あの、告白されてる?」


夢かもしれないし勘違いかもしれないけど重要なので確認する。


「ちいちゃん…俺がなんにも下心なしで今までの行動取ってたら、俺かなりのタラシになっちゃわない?」


「えっ!いや、その…それはそうだけど…えと、天然王子なのかなって…。」


「…俺さ、ちいちゃんが思ってるよりも、多分天然じゃないし…それに王子ってガラじゃないかもよ?」


再びグイッと顎を掴まれて視線を合わされる…さっきと同じ少し鋭さが混じる瞳…。


「えっと…」


「好きだよ。ちいちゃんの事が誰よりも…。誰にも渡したくないし、俺だけのちさとでいて欲しい。俺が高校受かったらさ、付き合ってくれる?」


真っ直ぐにこっちを見つめる目は真剣で…


「わ、私でいいなら…」


とコクンと頷いた。


「あー、よかった〜っ…!」


ふぅーっと大きな息を吐いてなっちゃんが今回はふんわりと背中に手を回した。


「ねぇ、ちいちゃん?俺がもし成績一番で合格したらご褒美欲しいな。」


いつもの甘えた口調でなっちゃんが話してきたので緊張がほぐれた。


「え、うん、良いよ?何がいい?」


「んー、だいたいは決めてるんだけど迷うなぁ〜。」


「ふふっ、決まったら教えてね?」


小さい子がクリスマスのプレゼントを悩むようになっちゃんも迷っていたので、可愛いと思って笑った。告白したのにいつもと変わらないなっちゃんを見て、少し拍子抜けというか、安心した。やっぱり、まだ中学生だもんね。


「うん。じゃあ、ちいちゃん…しばらくは会えないけど、俺がんばるからね?」


「えっ、あ、…それは変わらないの?」


お互いの気持ちがわかったのに会えないとか…さ、寂しいかも…でも付き合うのは高校に受かってからって言われたし…。


「うーん、本当は毎日毎晩でもちいちゃんの部屋に行きたいんだけど…」


「それならっ…」


「でもダメ…。俺が自信ない。」


「…?何の?」


ショボンとうつむくなっちゃんに、「今の成績なら一番位余裕だと思うんだけどな…」と告げた。


「いや、俺がちいちゃんに襲いかからない自信…。」


「…えぇっ⁉︎」


そ、そっち?そっち⁉︎顔がかぁあっと熱くなる。


「俺も一応ね、男だから。ほら、前に俺にオオカミか聞いたでしょ?」


「…。」


クリスマスデートの前に聞いた…気がする。


「今日振袖着てなかったらさ…」


急に耳元に近づいてなっちゃんが喋ったから体がビクッと反応してしまった。


「このまま部屋に連れ込んで…俺がオオカミかどうか…確かめさせてあげたのにね?」


「ふぁっ…!ち、近いっ…耳っ、くすぐったい…!」


ゾクッとした感覚によろけそうになる。


「クスッ…まぁ、それは後々わかると思うよ?じゃあ、俺本当に一番取るからちいちゃんも色々と覚悟しておいてね?」


そうふんわりといつもみたいに笑ってなっちゃんは「またね?」と言った。


神さま…お願いのおかげかなっちゃんと付き合う事になりました。なっちゃんは絶対受かるだろうから後は草太の事…お願いします。あ、あと…あのオオカミ云々って言うのは冗談でありますように…!は、犯罪者にはなりたくないです…。


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