32. 家デート
「お邪魔しまーす…」
久しぶりに入るなっちゃんの家には誰もいないけど、緊張してか何となく誰かいないか奥を確認してしまう。
「クスッ…俺以外今はいないよ?」
「あ、うん、そうだよね?なんか久しぶりで緊張してるかも?」
「緊張しなくていいよ?ほら、紅茶淹れるからケーキ食べよう?リビングで食べる?俺の部屋にする?」
「あ、えっとじゃあなっちゃんの部屋が、いいな。」
なんだか広いリビングは落ち着かなくて、なっちゃんの部屋だと小さい頃によく入ってたからなんとなく落ち着く様な気がした。
「オッケー。俺の部屋覚えてる?」
「うん。」
「先に上がってて?上がって二番目のドアだから。」
「はーい。」
懐かしいな、そう思いながら階段を登って部屋の前についた。かちゃりとドアを開けると、ふわりとなっちゃんの匂いがした。
最後に入ったの、いつだっけ…ゲームやおもちゃのコレクションが並べてあった棚には辞典やら本が並べてあった。
机の上には時計とイヤフォンが置いてある。
きちんと整頓されているけど、ベッドの上にはカバンが無造作に置かれていた。
本人がいないのをいい事にマジマジと部屋を観察してしまっていて、後ろにいたなっちゃんに気付くかなかった。
「別に変哲もないただの部屋だよ?」
「えっ!あっ!ご、ごめん!」
「謝らなくていいよ?」
「ほら、カバンとかコートとか遠慮なく置いて?ケーキ食べよう?」
ベッドの手前にあるローテーブルに良い香りのする紅茶とケーキが並んだ。
「美味しそう〜!」
「ケーキは小さいからこのまま食べるので良いよね?」
「うんっ!あ、でもなっちゃんの分まで食べちゃうかも?」
「良いよ?俺はあんまり食べないし、ちいちゃん好きなだけ食べてよ。」
「ありがとう!」
じゃあ遠慮なく…一口ほどのケーキをフォークですくって口に入れる。
「ん〜〜!おいひいっ!」
「じゃあ俺も。…うん、おいしいね。」
「なんか美味しいし甘いし幸せだね〜…」
たわいもない話に、まったりとあったかい紅茶を飲んでいると少し眠くなってきた。
「なっちゃんってさ、なんか、こう雰囲気というか空気が柔らかいよね?」
「そうかな?」
「うん、なんか、心がポワーッとしてすごい安心する…」
「…眠い?」
「うーん…?うん。ちょっぴり。」
「えっと、そろそろ送ろうか?」
「うーん、まだ大丈夫…あ、でも少しだけ…」
そう言ってちいちゃんはこてんとベッドのふちに寄りかかり枕を抱いて目を閉じた。
「え、ここで寝ちゃダメだよ?ちゃんと、家帰らないと…。」
慌てて睡魔に襲われた彼女の肩を叩く。
「ふふっ、なっちゃんの匂いがする〜…このままこうやって寝たいかも…。」
そんなことを呟く彼女に何て事を言いだすんだとツッコミたくなった。
「いや、それはさすがに…」
「むぅーっ。」
寝ぼけながら頬を膨らます彼女は可愛いけど、やっぱり困るなと苦笑いすると
「…迷惑?」
きゅっと俺の服を引っ張って、こっちを見ながら聞くちいちゃんの目がちょっぴり潤んで見えて動揺した。
「⁉︎」
ど、どういうつもりだろう…こっちはもうそんな目で見られたら理性を保つので結構いっぱいいっぱいなんだけど…
「め、迷惑とかじゃ…無いけど…やっぱりここには…」
「じゃあっ…どうしてっ…!わたし…なっちゃんの…なっちゃんの気持ち…よくわかんないよ…。」
ちいちゃんの目には益々熱っ気と潤みが増して、瞬きしたら涙がこぼれ落ちるんだろうなと思った。ってか俺、誘われてるの?襲っていいの?理性と本能が攻防戦を繰り広げる中、なんとか理性を保ち静かに抱き寄せた。
「…ちいちゃん。俺、きっとちいちゃんが思っている以上にさ、ちいちゃんの事大切に思ってるよ。だからさ、本当は今日だって…いや、そのもっと前からちいちゃんに俺だけを見て欲しいって…ずっと、思ってる。だけど、俺も男だしさ、そのけじめっていうか…」
黙っていると思ったらスーッスーッと腕の中から穏やかな吐息が聞こえる…なんだこの展開…マンガかよ…そう思いながら確認するとやっぱりちさとは腕の中で眠っていた。しかも、ほっぺたが赤い…
まさかと思って彼女が殆ど食べ尽くしたケーキの上に飾られた砂糖菓子を指でつまんだ。
口の中で弾けた味は、アルコールだった…はぁ〜っと深いため息と共に
「ケーキの上にボンボンなんて乗せるなよ…」
そう思わず声が出た。
にしても…腕の中でスヤスヤと眠る彼女に俺の気持ちわかんないのか〜とまた深いため息が出た。




