25. 本屋さん
文化祭も終わってひと段落。そろそろなっちゃんの受験対策を探そうと本屋さんに来ていた。
「ん〜、この総合テスト集いいかも。なんかこの引っ掛けとか受験の時に見覚えあるし…」
ブツブツとひと通りの問題集をざっくりとチェックした。ちょっとはたから見たら怪しいのかな…制服から明らかに高校生なのはわかるだろうし。
時々店員さんが覗きにくる様子を見ながらそんなことを考えていると、誰かに声を掛けられた。
「何をしてるんですか?」
「へっ!あっ、別に怪しいことしてませんっ!」
店員さんに声を掛けられたかと勘違いして、慌てて参考書を本棚に戻して振り返った。
振り返ると必死に笑いをこらえてお腹を抱える当麻君がいた。
「とっ、当麻くん!」
「あはははっ、一ノ瀬って本当面白いなぁ。そんなに慌てられると逆に怪しまれるぞ?」
あー、可笑しい。と言いながら、頭をポンポンと叩かれた。
「もう〜っ!びっくりしたんだからね!」
「で、何?何で高校の受験対策とか見てたの?妹か弟いたっけ?」
「ううん、いないよ?これは…ほら、なっちゃんって覚えてる?花火の時とあと、一応文化祭にも来てたんだけど…。」
そう言った途端当麻くんの顔から笑顔は消えて少しムッとした様な顔になった。
「…あいつ?何で?」
「えっ!あっ、いや、だってうちの学校受験するって言ってたし…その…一応私も去年試験に合格した訳だし…」
まさかの少し冷たい口調に戸惑ってうまく説明できずにいると、当麻君が悪い…と言って頭に手を置いた。
「幼馴染…だもんな?」
「あ、うん。サキも、あと草太も含めて小さい時からみんなで仲良かったから…。」
「はぁ〜…俺もお前と幼馴染が良かったな〜。」
大きな溜息をつきながら当麻君は頭をポンポンとしていた。
「当麻くん、それ、癖?」
「えっ?あっ、あぁ。悪い。嫌だった?」
慌てて手を引っ込めた当麻くんに軽く首を振って返事をした。
「ううん、ただよくするから癖なのかなぁ〜って。」
「俺年の離れた弟と妹がいるからさ。あ、ちなみに双子なんだわ。」
「へー、かわいいね!」
「いや、最近は生意気…でも、よくこうポンポンってして宥めてたかな。うちの両親共働きでさ、結構出張とか多い仕事だから。」
「そうだったんだ。だからかな、当麻くん…クラスのみんなを引っ張って、でも嫌味がなくて慕われて頼れるお兄さんって感じだもんね!」
「…。」
「?…どしたの?」
「いや…褒めすぎ…。俺調子乗りやすいから…!」
顔を耳まで赤くして、手で隠そうとしている当麻くんの姿は少し意外だった。
「本当の事だよ?文化祭の時も皆んなで話してたし。」
そう言うと益々顔を赤くして頭を掻いて照れ臭そうにしていた。
「あ、暑いっ!なっ、なんか暑いから外出よう!俺、アイス奢るし!ほらっ!」
当麻君はそういってパッと手を掴んで外へと促した。
あっ、参考書…そう思ったけど当麻君に引きずられて買う余裕はなかった。
「あー、やっと涼しくなった。」
本当にアイスクリームを頬張る彼に寒くないのかな…と疑問を感じる。私なんてココアで暖を取ってるのに…。手のひらにある缶はまだ飲むには少し熱いからカイロ代わりになっている。そうして、もう暗くなってきたからと当麻君が家まで送ると言ってくれた。
「一ノ瀬さ…今さ…。」
「何?」
それまで面白おかしく双子の話をしていた当麻君は少し静かな口調になった。
「あのさ…付き合ってるやつとかさ、いるの?」
「えっ⁉︎」
「いや…その、もしかしたら気づいてるかもだけどさ…俺さ、」
この続きは何となく想像できた…。
「お前のこと…好きだよ。」
「…。」
いつの間にか当麻君が足を止めていたので自分も立ち止まっていた。少しずつ近づく当麻くんに対して自分の足はまだそこに止まったまま…。こういう時は…なんて返せばいいんだろう…そんなことを考えていた。
「何となく…一ノ瀬の気持ちはわかるよ。でもさ、俺当分諦められないから。」
そう言われてぎゅっとなっちゃんとは違う腕に抱き締められて…頭が呆然とした。少し力が強くて、思わず持っていた缶を落としてしまい目で追った。その先にこっちを見つめる彼がいた。




