23. 文化祭 その3
「いらっしゃいませー!五番のテーブルにお掛けくださいー!」
「三番ケーキセットお待たせしましたー!」
「一番のテーブルご注文お伺いしまーす!」
裏から表のホールで活躍する男子を眺めては女子数人で話す。
「う〜ん、なんか大盛況だねぇ…」
「想像以上かも…多目的ホール借りれて良かったね。」
「ケーキ午後の分足りるかな…?」
女子は結局トラブルを避ける為に裏での仕事メインで男子が休憩の時のみ交代で数人ずつホールに出ることになった。
「男子メインのホールも中々良いねぇ〜。皆ネクタイ似合ってるし。」
「うん、うん。髪もセットして皆んなでまともな執事に見える!当麻は、やっぱり仕切るの上手いねぇ〜…。」
「えっ?な、何?」
当麻くんの名前が出た瞬間女子の視線が一気にこっちを向いた。なんか、ニヤニヤしてるし。
「ちさとってさぁ〜、当麻と仲いいじゃん〜?」
「えっ、そ、そうかな。」
「そうだよ〜、花火一緒に行ったんでしょ?」
「えっ!何で知ってるの?」
「たまたま駅で見たのよ〜。二人で手、繋いでたでしょ?」
「いやっ、あれは違うというか…」
なんとも微妙な所を見られたなぁ〜…そう思っていると興味津々に目を輝かせて聞かれた。
「ねぇ、付き合ったりしてるの?」
「つっ、付き合ってない!」
「へ〜、そう〜?でも当麻はちいちゃんに気があるよね〜!」
「そ、そんな事…」
「だよね〜!あたしもそう思う〜!」
あぁ、もう…サキ〜、何でこんな時にホールに出ちゃってるの〜…?唯一の救いの手が今側にない事にかなり落ち込む。
「で、ちぃは?」
「好きなの?当麻のこと。」
「えっ!…えっと、その…何ていうか…」
「ほらー、ちいちゃんは意識してないんだよ〜!でもお似合いだと思うけどなぁ〜。」
「付き合ってる人いないなら付き合っちゃえば?当麻いいやつだよ?」
「えっ、いや、でもそれはちょっと…。」
み、みんな他人事だと思って好き放題いってくれる…。
「何々?好きな人いるの?」
「へっ!あっ、うっ、その…わ、わかんない…でも…た、大切な人は…いるのかも…。」
「えー!誰々〜!?気になるー!」
「ちぃ、お客さん。って言ってもちゃんとした客じゃないから裏で食べさせてあげてね?あと話、結構聞こえてるわよ。」
シャッとカーテンが開いた方を見るとサキと草太が後ろにいた。
「あっ、仕事仕事〜!家庭科室からケーキ補充してくるー!」
「あ、あたしそろそろ交代〜!」
みんなサキのサボるなよという雰囲気を察知してかそそくさと持ち場へ戻っていった。
「俺はサキちゃんに接待して欲しいから〜、テーブルで食べるよ!」
「じゃあ、あんたは裏でね?ホールにいると目立つから。」
サキがほら、さっさと入って?っと深く帽子を被った青年を入れてカーテンを閉めた。
「ちぃちゃん、お疲れさま。」
帽子をとって、いつもの優しい声と笑顔でこっちをみつめるなっちゃんに心臓が早まった。
「ちいちゃんは、裏方なんだね。」
「あ、うん。デコレーション担当だから。」
「その格好でホールに出たりしない?」
なっちゃんに服装を指摘されどこか変な所があるのか確認した。
「えっ、へ、変かな…?」
「いや、似合ってるけど…」
「けど…?」
「足、結構見えてるし…。
「た、確かに着物はミニだけど、ニーハイ履いてるし!」
「…。」
じっと、黙ってこっちをみつめるなっちゃんに焦ってしまう。
「あっ!ケーキ!ケーキだすね!こ、紅茶にする?それともコーヒー?」
「コーヒーにしようかな?」
さっとシフォンケーキを取り出して生クリームと共に盛り付けた。
「なっちゃん、こっち!ここ座って?」
バシバシと無意味に休憩用の椅子を叩いてなっちゃんに、座るように促した。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。…ん、美味しいよ。」
「本当?良かった〜!時間なくて味見できなかったから、ちょっと不安だったんだ。」
「食べてないの?」
「うん、でもなっちゃんが美味しいって、いうならうまく出来たのかな?」
「うん、すごく美味しいよ。ほら、ちいちゃん、あーん?」
「えっ、い、いいよ。なっちゃんのだし…」
「俺が食べて欲しいの。ほら、この前みたいに口開けて?あ、クリームついちゃうからちょっと大きめにね?」
キョロキョロと周りを見渡し誰も見てない事を確認してそっと口を開けた。
ふんわりと甘いクリームとケーキが口に入って幸せな気持ちになる。
「あ、本当…美味しい…。」
「そういえばさ、ちーちゃんさ…さっき…」
「ん?何?」
「好きな人は、わからないけど…大切な人は居るって言ってたよね…?」
「えぇっ!あっ、き、聞いてたの?」
「いや、聞くつもりなかったけど…聞こえちゃったというか…。」
「うっ、あっ…えっと!」
顔がどんどん、熱くなるのがわかる…まさか本人に聞こえちゃったなんて…しかも、なっちゃんのことだよなんて、言えないしっ!
「クスッ…そんなに困らないで?ただ、」
カタンと椅子から立ち上がってなっちゃんが、近づいて椅子となっちゃんの間に挟まれる形になった。う、動けないし…ち、近いよ…。
「ねぇ…誰のことちさとは、考えてた…?ちさとの反応から見てさ…俺…ちょっとは自惚れてもいい?」
「なっ、なっちゃん…み、耳元で、話さないで…」
「ん〜?どうして?」
なおも耳元でクスクス笑うなっちゃんの、声がくすぐったいような、頭が沸騰しそうなそんな感じがして困惑してしまう。
「一ノ瀬!交代っ!」
「へっ!あっ!はいっ!」
名前を呼ばれてガタンっ!と勢いよく椅子から立ち上がって急いでホールへと向かった。
「…お前、一ノ瀬の何?」
こいつ…あの花火の時の幼馴染だよな。まだ一ノ瀬の交代時間には少し早かったけどあんな場面を見せつけられて冷静でいられるわけなかった。
「…えっと、当麻さんですよね。この間はどうも。」
へらっと笑う目の前の男に嫉妬混じりの怒りが込み上がる。
「…答えろよ。」
「えっと…まぁ、あえて説明するなら…俺があれだけ近づいてもちさとは嫌がらない…そんな関係かな。」
「…。」
「だからさ、ちさとにあまり近づかないでくださいね?…先輩?」
そう爽やかに笑いながら横を通り過ぎる男に拳に力を込めて耐えるしかなかった。




