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17. 花火大会

くるりと鏡の前で周り、全身をチェックする。


へへっ浴衣、着ちゃった。体育祭の時に仲良くなったグループで出掛けるのって、なんか良いな。


「じゃあ、お母さん行ってくるね。」


はだけない様にね、と注意され家を出る。


ちらりと隣の家の二階見ると電気がついていない。なっちゃんもう出かけちゃったかな?ちょっと見てもらいたかったのに残念…って何で残念って思うんだろ…


待ち合わせの場所は花火大会のある駅になった。うちの駅が始発で良かった。すごい人が乗ってきてる…



・・・15分ほど前


「…何で木野くんがここにいるの。」


目の前のクラスメイトに怪訝な目線を向ける。


「あっ!えっと、神田さんを迎えに…。」


「なんで私の家知ってるの。」


「…ご、ごめんなさい。家、この辺って言ってたから、近所の人に…。」


「何、私のストーカーなの?」


慌てふためく同級生に追い打ちをかける。


「いや、そういうわけじゃなくて…。その、ちょっと俺とお茶しない⁉︎」


「イヤよ。今から花火でしょ?ほら、さっさと行くわよ。」


「そこをっ、なんとか少しだけ…遅れて行ったり…?」


「イヤよ。どうせ当麻君とちさとを二人きりにとかバカなこと考えてるんでしょ。」


「ば、バカな事じゃないっ!当麻はいい奴だから…応援したいだけだっ!」


意外と大きい声も出せるのね、と感心していると、「ご、ごめんっ!」と慌てていた。ともだち想いなのは良いことだけど…


「はぁ…あの子を好きになるのは良いけど…まぁ、いいわ。一本だけ遅れてあげる。」


「あ、ありがとう!神田さん」


「ちょっと、何人の手握ってんのよ。」


ぎゅっと握ってきた彼の手を払いのける。


「あっ!ご、ごめんなさい…」


ちぃに遅れるから先に行ってとメールをした。ついでにあの子にも。


・・・


「一ノ瀬っ!こっちこっち!」


「あ、当麻君。」


改札口の出口で当麻君が手をふった。


「おっ、浴衣じゃん。似合うね。」


「ありがとう。あ、サキがちょっと遅れるって。木野君は?」


「あ〜…あいつも遅れるって。先に行って場所とっとかねぇ?」


「あ、でも人も多いし、皆で行った方が良くない?」


「大丈夫だって。こういう時の携帯だろ?」


「えっ、でも…」


「ほらっ、いい場所なくなるぞ?」


ぐいっと当麻君に手を引かれると同時に、誰かの手が当麻君の手を掴んだ。


「ちさとに気安く触るなよ。ってか、話しかけんな、変態が…。」


「はっ?何だよ?」


聞き覚えのある声にぱっと顔を見上げる。


「なっちゃん?」


「…ちーちゃん、大丈夫?」


こっちを心配そうに見るなっちゃんがいた。


「えっ、あ、うん。」


「おい、誰だよ。」


当麻君の問いかけに答える間も無く、なっちゃんが話しかける。


「浴衣、着たんだ…可愛いね。」


「あっ、ありがとう…私もそう思って、この前買ったんだよ?」


優しい瞳がいたずらっぽく笑って続ける。


「浴衣もだけど…ちーちゃんが、可愛いって事だよ?」


「えっ!あっ…えっと…その…」


こう、ストレートに面と向かって言われると、どんな顔をして良いかわからなくなる…恥ずかしさでうつむいていると、


「おいっ、いい加減にしろよ。お前一ノ瀬の何だよ。」


と当麻君がいつもよりワントーン低い声で言った。


「あっ!ごっ、ごめん、当麻君…。えっと、幼馴染の奈津君。なっちゃん、クラスメイトの当麻君。」


「クラスメイト…ちーちゃん、神田は?一緒じゃないの?」


「あ、サキはちょっと遅れるって…」


「そう…で、この当麻君と先に一緒に行くつもりだった?二人で?」


「えっ!違うよっ!皆で、その行こうと…」


なっちゃんの声に少し違和感を感じる…お、怒ってるのかな…当麻君もなっちゃんも黙り込んで…く、空気が重い…


「あー!ちーちゃん、見っけ〜!ナツ〜、置いて行くなよぉ〜…」


「あっ、草太!良かった!」


空気の読めない草太にこの時ばかりは感謝する。ニコニコと笑ってこちらへ走ってくる草太に思わず抱きつく。


「っち、ちーちゃん…お願い。死んじゃうから本当勘弁して…。」


と言われ、


「あ、ごめん。つい勢いで…そんなに苦しかった?」


と離れた。


「いや、苦しくは無いけど…うん…でも命は大切にしたいからさ…」


とか何とか草太は相変わらず訳のわからない事をいった。


「一ノ瀬…」


ため息まじりに当麻君が言ったのでまた慌てて紹介する。


「あっ、ごっ、ごめん。当麻君…えっと、この子も…」


「あら、ちぃ。随分賑やかになったわね。」


「あっ!サキ!」


当麻君の深いため息は耳に届かなかった。


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