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1. 再会

糸こんにゃくの入った買い物袋を手に下げ、家の前に着くと見知らぬ人がいた。


「ちーちゃん、久しぶり。」


いわゆるイケメン、いや王子と呼ばれそうな青年がこちらを向いている。


「あ、えっと…」


「奈津だよ。二年もあってないと忘れちゃった?」


クスリと笑う彼は幼い頃の彼を思い出させた。


「えっ!なっちゃん?」


「うん、ただいま。」


幼馴染の黒澤奈津ことなっちゃんは一つ下の男の子で小学三年の時に隣に引っ越してきた。少し癖のある柔らかそうな黒髪に大きな瞳。初めて出会った時は童話から出てきた王子様みたいだと思った。


「なっちゃん、背伸びたね。」


「うん、そうだね。もうちーちゃんより高い。」


「声も…ちょっと男の子っぽいね。」


「あぁ、声変わりってやつだね。変?」


「ううん、変じゃない…」


むしろかなり良いんですけど。ちょっと優しいアルトって感じでまさに理想通りです。


「ちーちゃんも、髪伸びたね。大人っぽい。」


「あ、ありがとう。あんまり背は伸びなかったんだけど、ちょっとでも高校生らしくなりたくて…変?」


顔が童顔なので少しでも大人っぽく見られたくてあがいている途中だ。もう少し伸びたら巻いたりもしてみたい。


「ううん、可愛い。すごく良く似合ってる。」


優しい眼差しで見つめるなっちゃんがどこか違う人みたいで少しドキドキして一歩下がった。


「ねぇ、ちーちゃん…」


なっちゃんが一歩近づいた時、ガチャリと玄関のドアがあいた。


「ちさと、誰と話してるの。買ってきたなら早く入りなさい。って、あらぁ〜!なっちゃん?大きくなったわね〜!」


と母の声がした。


「礼子さん、お久しぶりです。」


ふわりと優しくなっちゃんが笑った。


「もう着いたのね、ほらほら積もる話もあるし早く入って入って。夕飯まだでしょ?今日はなっちゃんが来るからすき焼きにしたのよ?」


「ありがとうございます。ほら、ちーちゃん行こう?」


あぁ、だから今日は誰の誕生日でもないのにお母さんが張り切って高いお肉を買ったりしてたんだ。買い忘れたから買ってきてと頼まれた糸こんにゃくを見ながら家に入った。


お母さんなっちゃん大好きだからなぁ…


隣に引っ越してきた黒澤家とうちは家族ぐるみで仲が良かった。母親同士が特に仲が良く、なっちゃんが引っ越してからも頻繁に連絡を取り合っていたようだった。


「え、じゃあなっちゃん一人暮らしするの?」


鍋をみんなで囲いながら、弟がなっちゃんに質問した。


「うん、そうだね。」


「えっ!でもご飯とかどうするの?なっちゃん料理できるの?」


確か小学校の家庭が苦手だった気がして質問した。


「あぁ、」


「それはうちで食べるのよね〜!」


母親が喜ばしげに口を開いた。


「百合ちゃんとも話し合ってるけれど、食事はうちで、寝るのは自宅でって事になってるわよ。」


「あ、そうなんだ。」


「うん、礼子さんの仕事が増えちゃって少し申し訳ないけどね、」


「なっちゃんったら気にしなくていいのよ。ご飯作るのに一人も二人もあんまり変わらないんだから。」


和気あいあいと楽しい食事を終えて、じゃあそろそろ帰るねとなっちゃんが席を立った。


「あ、なっちゃん。家まで送るよ?」


「隣だからすぐだよ?」


「うん、でも…送るよ。」


距離にして徒歩十秒でなっちゃんの家の前に着いた。


「なっちゃん、一人暮らしだけど…」


「ん〜?」


「さみしくない?」


「大丈夫だよ。もう小さいこどもじゃないから。」


「…。」


優しく笑うなっちゃんを見て、一人にしちゃいけない気がして、彼のコートの裾をぎゅっと握った。


「心配してくれてありがとう。本当に大丈夫だよ。それにほら、」


コートをつかんでいた手を優しく引っ張られて彼の腕の中ににすっぽりと引き込まれた。


「ちーちゃんがここには居るから。」


なっちゃんの身体が思ったよりも、しっかりしていてちょっとびっくりした。ってか近距離でその声は反則だと思う。


ドキドキする心臓よ止まれ〜などと考えていたらくしゃみがでた。


「ほら、ちーちゃん…夜は冷えるからもう家に戻って?」


「うん…おやすみ。」


「おやすみ、また明日ね。」


外はヒンヤリとしていたのに顔の熱が一向に冷めないのは、きっと可愛かった彼の変化についていけなかったせいだ。


「仮初めの」を一休みして書き上げました。甘酸っぱいお話をお届けできたらなと思います。完結済みのお話です。

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