1話
彼女は、どちらかというと明るい子でクラスの目立つ場所に常にいる。
ムードメーカーで周りを笑わせ、文化祭や体育祭の時にはクラスをまとめるようなヤツ。友達もかなり多いと思う。アイツの周りにはいつも、だれかしらいる。
それが、高校に入って2年間同じクラスの俺が持つ彼女ーー川野 咲の印象だ。
そんな川野がまさに今、ありえないことを口にした。
そこから飛び降りたことがある……。
冗談であってほしかった。ただ、死のうとした俺を止めるだけの嘘で。
だって、川野はそんなヤツじゃない。
川野はふいに吹いてきた風を眩しそうにした。
川野の長くて少し色の落ちた髪がなびく。
「……あんた、本当に死ぬ気あるわけ?
本当に死にたい人は、コンクリの上に落ちるように飛び降りるよ」
花壇の上に落ちるはずだった俺を突然彼女はあざ笑うかのごとく罵倒した。
「え……は?」
「は?じゃないよ。死にたいんでしょ?」
いや、そりゃ死にたいけどさ……特に理由とか動機がないって言ったら怒られるかな?
川野はキャメルのカーディガンのポケットに手を突っ込むと、遠くに視線をやった。
「私もね、死にたいんだ」
「えっ」
「でも自殺しただなんて思われたくなくて、事故に見せかけて死のうとした。
でも死ねなかった。
今、どういう方法で死のうか考えてるところ」
「そ、そうか……」
川野が死にたい……だって?
なんでだよ、お前は充実した日々を送ってるじゃん。うらやましいくらいに……。
友達たくさんいて、いつも笑ってて、それなりの地位があって。それだけで生きてけるようなステータス持ってるのに、なんで死にたいんだよ。
「友達にならない?」
「は?」
「友達……自殺、友達。
毎日ここに集まってさ、自殺について語るの。
そして最終的に」
川野は手で銃を作り、それを自分自身のこめかみに打つ真似をした。
「一緒に自殺しよう」