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Life is ......  作者: 昭如春香
壱章 零から十二の七転八倒
3/5

一周目 これから転生チートが始まる……ぞ?

多少グロ表現があります。



 人の意識たましいの始まりとはどこにあるのだろう。受精卵になった時か、それとも胎児として形を成した時か、あるいは母の胎内より産まれた時か。将又、洗礼を受けた時だろうか。

 少なからず、蓮自身は胎内の頃より、朧げながら意識が浮かんだのは、胎児の時だった。水の中で蓮の意識は浮上した。薄暗闇に、一定のリズムを刻むのは心音。誰もが原初に観る海にして、揺かご。


(ここは……)


 思考しようにも体が未熟なせいか、意識は千々れ流れる。半分眠りながら、もう半分で考える。目は己の意思で開けず、時折聞こえるのは聞き取り難い音ばかり。それでもそこは大変居心地が良かった。


『…………あぁ、また……』

『……上の……』


 蓮の意識はしっかりと覚醒していた。しかし音の意味は羊水を隔てている為か、電球かみさまの言っていた異世界だからなのか、何を言っているか分からなかった。少なくとも日本語やそれに近しい言語ではなさそうだと、当たりをつける。


(男と女の声がすんなー)


 声の主はおそらく夫婦だろう。他にも甲高い泣き声___子供の声が時折混ざる。そしてその後に男の怒鳴り声も響く。詳しくは分からないが、幸せいっぱいの家ではないことだけは、想像ついた。


(え〜、俺の生まれる所は子供は既に居て、あんまり俺を望んでいるようには思えないんだよなー)


 こう、初めての子供☆ワクワクドキドキって、バカップ的な会話テンションの甘い雰囲気を欠片たりとも感じられない。男の怨嗟じみた声に、女の泣き声に、子供の悲鳴。


(普通、第二の人生って家族中がすっげー良くて、恵まれているもんだと思ってたのになー)


 緊張感の欠片も無い蓮の思考は、人ごとのように愚痴った。大抵の創作物では恵まれた環境を与えられることが多かった。裕福な家庭の子供として生まれて、早めに教育を受けてとかは読み物としてよくあったのだが。


(まあ、期待しないでおこ)


 温かな水の中で、蓮は目を閉じた。意識はすぐに霧散して、眠りに落ちるのだった。


(どーしよう……。俺、英語の成績十段階で三だった男なんだけど)


 ………………とても、余裕そうだ。




 ◇




 蓮の意識が表層に出て来たのは、圧迫感に苦しさを感じた時だった。

 何時にも増して騒がし音が耳に届いた。いつも包んでいたやわららかな世界の終焉である。


(痛い、痛い痛い痛い痛い____ッ!!!!!)


 赤んれんを抱いていた羊水は抜け、胎盤が剥がれた。子宮が縮み、赤子を産道へ追い出す。子供は自身の頭蓋を歪めながら、狭く暗い道を抜け光溢れる世界へ至った。


「ぉ、おぎゃーーーーーー!!!」


 こうして、蓮こと今生名テオが生まれ落ちた。

 



 テオは田舎も田舎。むしろ寒村のとある夫婦の第七子・五男として、この世に生を受けた。兄四人に姉二人の、前世にほんではあまり考えられない程の子だくさんである。


(貧乏人の子だくさんって奴だなぁ)


 目が開くようになってからテオはまじまじと父母兄弟を見遣った。全員に言えるのは痩せていて栄養が悪そうだという点だ。衣服もくたびれていて、解れ、修繕した後が多い。

 また水もそう豊かな土地ではないのだろう。


(相変わらず何て言ってるかわかんねぇー)


 でもまぁ、ぼちぼちやるかと、小さくテオは決心した。今生の転換期、およそ五年前。生後三ヶ月の話である。




 ◇




「こちらテオ、ただ今五歳です!」

「……なぁにやってんだぁ?」

「いや、別に……」


 故浩蓮こと、テオは生まれてから五年程の月日が流れていた。本来はここで乳幼児からの数々の羞恥プレイを記すべきなのだろうが、割愛しよう。元健全な大学生には嬉やら悲しいやらの涙なんか流したらしいが、物語的にはたいして面白い部分でもあるまい。省略。

 以前を思えば、小さく不自由な体に折り合いを付けながら、テオは生きてきた。


「まぁ、問題だらけだけどね……」


 テオは一人小さく呟いた。

 この世界の名前はイルフェナ。生の神インフェルナと死の神スペルナによって作り出された世界らしい。テオはテラ大陸の六分の一を治めているヴァーズン聖帝国の北部・土竜の翼山脈の脇にある村、フェアファル村に生まれた。

 風が強く吹きすさび、土地も痩せ気味で、水も豊かではない。精々羊毛産業だけが収入だが、質もブランドと言うには至っていない。そんな何もない村だ。人口は百を越えるか越えないかといった所。規模も小さく、大きな街どころか隣の町からの商人も一か月に一度来るか来ないか。

 現代日本に住んでいた頃の利便性を考えれば天と地ほどの差だ。


(おまけに、家族も多いんだよな~)


 父のライナーに、母のイルゼ。兄たちは上から、ヤン・レオ・ウド・カイ。姉は上がエラ、下がリタ。テオを加えて七人兄弟・九人家族だ。

 食糧も水も豊富なわけではないので、いつもテオ達は腹を空かせている。


「腹へった~」

「……テオ、早く雑草取りが終わらないと、おとうが怒るわよ?」

「は~~い」


 だらけ気味になっているテオにエラがやんわりと注意を促した。五才といえども、労働力として駆り出されているのだ。上の兄三人は羊を山にまで誘導して餌やりに行き、姉と未だ幼いテオ達が自宅用の作物を作っている。母のイルザは家事に勤しみ、父のライナーは何やら町まで出掛けている。


(なんかうまいものでも買ってくれればいいなぁ………)


 細々と生えている雑草を慣れた手つきで取りながら、のんきにそう考えていた。

 もうすぐ来る転換点ターニングポイントの足音を欠片たりとも感じることなく。




 ____世界には理不尽が溢れているなんて、気付きもせず。




「………………ただいま……」

「……おかえりなさい」

(ん?帰ってきたのか……て、他にも人がいるなぁ)


 日も暮れ、宵闇がそろそろ迫りそうな頃、漸く見知らぬ人物たちを連れ立ってライナーが帰って来た。

 連れて来た偉そうな男は、目つきが悪く、ここらでは見ないでっぷりとした腹で、テオ達をジロジロと眺めてきた。他の男達は中々に筋骨隆々で、強面な容姿をしている。


(ろくでもなさそうな奴)


 人のことを棚に上げ、テオはそう評価した。

 顔色があまり良くなかったイルザの肌が、さっと白を通り越して青みを帯びる。悲嘆に暮れた眼差しで夫を見やるも、視線をそらすだけだった。


「お前たち、ちょっと来い」

「何だよ、親父」


 ぞろぞろと居間に集まった。年嵩の兄達が姉や幼い弟達を庇う形で男達の正面にでる。

 警戒して威嚇しているが、偉そうな男は気にせず成人男性の握り拳ぐらいの大きさの水晶球を取り出した。それを数少ない家具の一つの机に置き、順番に一人一人水晶球の上に掌を翳すように促した。

 三男のウドと五男テオの時だけ、水晶の内部が揺らぎ瞬いた。


「ふむ、娘さん達と鑑定石が光った者なら貰いましょう」

「だいたい……どのくらいに?」

「属性持ちは一人500銀貨、娘は一人100銀貨だ」

「……それで、いい」

「あ、あなた!!」

「仕方ないだろうっ!!!」


 子供を放って、大人たちだけで話は進む。退屈そうにカイは欠伸をする。ヤンとレオの顔が強張る。


(……何だ……俺、売られそう?)


 属性持ちというのはよく解らないが、先ほどの石が関連しているのは推測できた。娘というのは、テオの姉二人の事だろう。


(何で、何でだよ!?)


 親とは絶対的な庇護者にして尽くしてくれる者という考えが根底にある、テオは吠える。テオの心情を放ったまま、現状は情け無用に動く。屈強な男達の一人がテオの姉二人の腕を掴み、外に連れ出した。

 ウドは暴れようとした所を、後ろ手に片腕が締め上げられ引きずり出される。考え込んでいたテオはあっさりと抱き上げられてしまった。


「何で____?」


 縋るように両親を見遣っても、決まり悪そうに目線が逸らされた。

 ___本気で子供を売ろうとしているのだ。

 母親が泣き崩れるのが、遠くなる家の入り口から覗いた。『仕方が無い』という言葉ばかり繰り返した父は、件の男___奴隷商か金を受け取り、無関係だと言わんばかり扉を閉める。

 テオ達は奴隷商の荷車オリに積まれた。荷車はかなり大きく、テオ達と同じ様な境遇の人間が詰まっている。連れて来た男達は乱雑に仲に放り込むと、入り口は閉じられる。

 助けてくれる大人なんて誰もいない。

 絶望に打ち拉がれながらも、荷車は馬に引かれて旅立つ。ガタゴトと揺れて。




 ◇




(あれから何日過ぎたんだろう)


 空腹と渇きに苛まれつつ、自身の痛む左手___奴隷印が焼き付けられ皮膚___を撫でた。

 あの後取り押さえられ、奴隷の証___鎖と紬車がモチーフになっている___が刻まれた鉄を炎で焼き、押し付けた。まるで家畜みたいに。いや、すでにヒエラルキーにおいて人権すら認められていないのだから、家畜同然と言った方が正しいだろう。


(せめて……優しい人だといい)


 ぼんやりと纏まらない思考の末で、テオは願う。足掻くことを知らない魂に、優しい未来など幻想にすぎない。

 【観測者】の掌の上で人形が踊る。気付くか、狂うか、壊れるか。それはまだ誰も知らない。




 ◇




「アッ……ッツ……あぁああぁぁぁああああ!!!」

「ッ_____________!!」

「たすけて」

「やめ、や、やだ、やめ______!!」

「いたいいたいよ」

「かぁさま」

「かえりたいよう」

「死にたくないッ」

「ぁああぁぁぁあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ」

「あはははあはあはは」

「しにたい」


 薄暗い中、幾重もの悲鳴が洩れ、大気に溶ける。

 遠くからは非人道的な実験___スキルやアビリティ習得について___が繰り広げられていた。例えばスキル【火耐性:小】の会得には、どのような事をしたら得られるか。会得に至る時、属性差や魔力量・性差はあるか。

 周囲の国と戦争を繰り返しているヴァーズン聖帝国にとっては有用な実験ではある。国民は如何にして、スキル習得のマニュアルが組まれてるかなど知る由もない。その陰に隠されて行われている国の血生臭い実験とその犠牲を。


(これって、『人生詰んじゃってる』って奴だよな……)


 テオは辛うじてだが、生きていた。

 奴隷商から国の実験施設に売り払われて、三年の月日が過ぎていた。全身は注射や打撲・火傷・刀傷で、傷つき、切り刻まれている。

 姉二人は属性持ちで無かった為、実験施設に行く前に降ろされ、おそらくだが娼館に売り払われたのだろう。兄のウドは此処に放り込まれて、三か月ほどでその生涯を閉じた。研究者による無理な実験に気が狂い、自らの舌を噛んで死んだ。

 徐々に失われていく体温や血の匂いや苦悶に、テオは恐怖した。生きてるのは、苦しい。でも、死にたくないッ!!苦しいそん終焉ほど、怖いモノはない。


どうして、どうして………俺なんだよ!

俺が何をした?

なんで転生したのに、俺は”幸せ”じゃないんだよ!!

普通、幸せな第二の人生が送れるんじゃないのかよ!!!


 何度、そう叫んだろうか。何度、助けを乞っただろうか。奇跡も、正義の味方も、ここには存在しない。

目覚める度に、絶望し、目を瞑る度に、『明日は目覚めなければいい』と願うのだ。神経をすり減らし、簡単に入れ替わる命に恐怖しなが、何とか今日という日まで、続いた。


「被献体10245、出ろ」

「…………」


 研究者の助手が被献体10245___テオを連れ出す。ここの研究者にとって奴隷など消耗品に過ぎない。個体識別番号が名となり、死ぬまで使い潰される。

 逃げることを考えても無駄だ。そもそも逃げれるだけの力量も体力も精神力も既にテオから喪われている。また奴隷印が刻まれている限り、どこの大陸に行こうとも、真っ当に生きれるはずがない。日陰の身になっても、生きれるだけの才能も技術も持ち合わせていないテオが、外で生きれるわけがない。


(助けて)


 願ったところで、誰も助けて何かくれない。それでも願わずにはいられない。

 手を引き連れた助手は怪し気な機具や薬が置かれている実験室の固定台に、テオの手足を繋いだ。


「今日は電撃耐性の実験をしましょう」

「大ですか?」

「う〜ん、悩みますねぇ」

「……小からやって行った方が被検体の損傷が少なくてすむ」

「ヴェルナーは優しいですねぇ」


 まるで明日の天気を話すかのごとく軽い調子で喋っているのが、この狂った研究所はこにわの主の魔術師だ。それに顔色一つ変えないのが、魔術師の助手。言葉数少ないのがテオを連れ出した、もう一人の助手である。

 人が虫けらを殺すかのごとく、奴隷達をいたぶりその命を奪った中心人物だ。


「うん、電撃小から始めて一撃ごとに出力をあげていきましょう」

「前の検体との比較ですか?」

「では、始めましょう」

「……分かりました」


 男達の話し合いは終わり、テオの願いとは裏腹に実験が開始された。

 助手の一人がテオに近寄る。弱い電撃は詠唱破棄し、間を置かずにテオを襲う。


「あぁぁあああぁああああ!!!」


 痛みに悲鳴が木霊し、痙攣ししばし間が空くものの、次々と電撃が肌を焼く。激痛が神経を抜け、脳髄にいたる。その繰り返しが三度目になるころには、テオの中から痛覚が上手く動かなくなった。意識が薄れ、死の足音が近くなる。


(俺の第二の人生はこれで終わりか……)


 次があるかは分からないが、もういい。そう思って、テオは瞳を閉じた。


「おや、加減を失敗してしまいましたね」

「あぁ、死んでしまいました」

「結果はどのくらいになりましたか?」

「【雷耐性:中】ですね」

「中々【雷無効化】の能力に至らないですね」

「……本日の実験はこれで終了ですか」


 死体の処理を下男に言いつけ、研究者は部屋を後にする。

 ___こうして、テオこと胡浩蓮の第二の人生が終わった。




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