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#9

 二月十四日――

 ついに迎えたバレンタインデー。


 結局、わたくしは昨夜は緊張して眠れませんでした……

 そろそろ来栖が起こしにくる時間になるのかしら……


「お嬢様?」


 ぼんやりしながらも返事をする。


「失礼いたします。お嬢様、まだ眠っていらしたのですね?」

「み、見ないで! 恥ずかしいじゃない!」


 寝起きの顔を彼に見られたくないので、お布団で隠した。

 来栖はいつも通りシャッとカーテンを開け、タッセルで束ね、房かけでまとめている。


「いい加減に起きなさい」

「ふぇーん……ごめんなさい……」


 これがいつもの彼とわたくしの朝の光景。

 来栖以外でもほぼ同じようなやり取りをしているけれど、彼だと何故か落ち着く。


 本日はバレンタインデー当日ということもあり、男性陣は何時(いつ)もよりそわそわしているはずなのに、来栖は常に冷静。

 わたくしはバタバタと支度をしている時、彼は廊下で待っていてもらう。


 本日のわたくしは大人っぽくかつ可愛らしい服を選んだ。

 来栖に感謝の気持ちを頑張って伝えるのよ!



 ◆◇◆



 ついにきてほしくない日になってしまった……


 現在、お嬢様はお支度中のため、溜め息をつきながら廊下で待機している俺。

 彼女は眠れなかったのか何時もより眠そうに感じられた。


 昨年は午後のティータイムの頃にバレンタインの贈り物をいただいたから……

 いや、今年も同じ時間帯になるとは限らない。

 渡されるタイミングが掴めないからそわそわしている者が多いのは事実だ。


「来栖? 支度が済みましたわよ?」

「はい。では、参りましょう」

「今日はバレンタインデーですので、わたくしからこの屋敷の男性陣に渡したいものがございますの」


 お嬢様と居間へ向かう時、そのようなことを口にした。


 警戒開始のカウントダウンの始まりにすぎない――



 ◇◆◇



 屋敷内にいる男性陣の様子が落ち着かないわ。

 わたくしは午前のティータイムと昼食時は避けたので、毎年恒例になってしまいましたが、午後のティータイムである十五時に渡すことにした。

 事前に玄関ホールに集まるよう朝食時に伝えたので、各専属執事から伝わっているはずよ。


「意外と集まりましたね……」

「ほぼ全員じゃないのかしら?」

「そうですね」


 メイドがわたくしに声をかける。

 彼女はチョコレートを大きな白い箱に入れてわたくしの部屋から玄関ホールに持ってきてくれたのだ。


「お父様、何時もありがとうございます。わたくしと彼女で作ったので、召し上がってください」

「有紗、ありがとう!」


 まずはお父様が真っ先に駆けつけ、その次に彼の専属執事が続く。

 なるべくクマのシール付きの容器を避けてメイドが渡してくれた。



 ◆◇◆



 やはり、バレンタインの贈り物を渡すのはティータイムだったか……

 お嬢様の指示で男性の使用人には一通り声をかけてきたので、ほぼ全員いるだろう。


 彼女は一人ひとり相手の目を見て話しながら丸い容器を手渡していた。

 その容器の中に彼女らが作ったチョコレートが入っているのだろう。


 トップバッターは旦那様なのは仕方がないが、一番最後に並ぶ。

 順番は何番目でもよかったのだが、お嬢様にとっては俺は最後に渡したいと思ったからだ。



 ◇◆◇



 なかなか来栖がこない。

 彼はわたくしの話を忘れてしまったのかしら?

 そう思っていたやさき、ようやく彼の姿が現れた。


「来栖さんがきたので、わたしは失礼しますね。お嬢様、頑張ってください!」

「ありがとうございます!」


 わたくしたちは小声で話し、チョコレートを受け取った男性陣から感想を訊きながら、メイドは箱を持ってこの場を去る。


「あ、あの……」

「はい?」

「こ、これ、わたくしと先ほどまでいたメイドが作ったものです。い、何時(いつ)もご迷惑ばかりおかけになっていますが、ありがとうございます。貴方はわたくしにとって大切な人です。何時(いつ)でもいいので、召し上がってください」

「ありがとうございます。お嬢様」


 わたくしはまとまりはなかったけれど、来栖の目を見て、なんとか伝えたいことは伝えられた。


 チョコレートを受け取った彼の手は少し震えている。

 蓋をおそるおそる開け、その香りを確かめるかのように中身とわたくしを交互に見たが、すぐにゴミ箱の方へ向かう。


「……え……?」


 来栖はわたくしとメイドが一生懸命作ったマーブル模様のチョコを食べずに数個捨てて……いた。

 それを見たわたくしはショックを受け、その場に立ち尽くす。


「お嬢様、どうされたのですか?」


 彼は全く表情を変えずに訊いてきたため、わたくしは勢い余ってピシッと彼の頬を叩いてしまった。


「……せっかく……頑張って作ったのに!」


 本当は来栖が喜ぶ顔が見たかった。

 ただそれだけなのに、どうして……

 思わず涙がこぼれる。


「お嬢様!?」

「……もう……知らない!」


 (たと)え、変なものでもなんでも食べてしまうわたくしでも自分で作ったものに毒なんて入れないわ!

 相手の口に入るものならば当然よ!


 もう貴方に対して、口は利きたくないわ!


 わたくしは彼を玄関ホールに残して、足早に自室へ向かった。

2026/02/14 本投稿


※ Next 2026/02/14 22時20分頃更新にて更新予定。

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― 新着の感想 ―
すれ違いきちゃった…(ToT) 来栖くんそりゃないよ〜〜!せめて、貰ってから自分の部屋に入ってからじゃないと… なんか感じとったのかな?
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