#7
昼食を食べ終えたわたくしは使用した食器と先ほど百円ショップで購入してきた蓋つきの丸いケース(一つはシールつき)をワゴンに乗せてキッチンへ向かっていた。
何故、使った食器を持っているのかといいますと……
来栖が「昼食後にキッチンを使用するのでしょう? 使用した食器は調理器具と一緒にきれいにご自分で洗っておいてください」と言われたから。
おそらくあの時の彼の口元はそれを思いついたということだったのよ!
それにワゴンの高さが来栖の身長に合わせているせいか無駄に高すぎるわ!
「お、お嬢様? 何故、食器をワゴンに?」
「来栖が「キッチンを使うなら自分で使った食器は洗え」と言われたのよ」
「あぁ……ついでにということですね……」
メイドはやれやれと肩を竦めながら答えた。
わたくしはバレンタインのチョコレートを作るためにキッチンにきているのに……
ワゴンは作業の邪魔にならない位置に置く。
「お嬢様! 日が暮れないうちにチョコレートを作り始めましょう!」
「はい!」
まずは手を洗い、使用する調理器具を取り出し、ケトルに水を入れて沸騰させる。
購入してきたブラックチョコレートはわたくしが、ホワイトチョコレートはメイドが包丁で角から斜めに大きく切っていく。
「こんな感じかしら?」
「そうです! 上手ですね! それをさらに細かく刻んでいきます」
え? もっと細かく刻まなければならないの?
彼女曰く、細かければ細かいほど湯せんでいい感じで溶かすことができるらしい。
「結構な重労働ですわね……」
「そうですよ……結構な量を刻むので……」
次にケトルに入ったお湯を温度計でおよそ五十から五十五度くらいかどうか確認して大きなボウルに入れる。
刻んだチョコレートが入ったボウルを入れ、チョコレートにまんべんなく熱が入るように湯せんで溶かす。
「溶けたかどうか分からなくなったら、チョコをたらすようにするとダマが残っていないか分かりますよ」
「ちょっと分かりづらいですわ……どうかしら?」
「うーん……もう少しですね……チョコが滑らかになったら、すぐに湯せんからはずしてくださいね」
流石、メイドね……
自分で見るより慣れている人に訊いた方が早いですわ。
彼女はすでにホワイトチョコレートの湯せんが終わっていた。
チョコレートを作り慣れているせいかわたくしには理解が追いつきませんわ……
テンパリングという工程に入る。
その工程は室内の温度管理が重要らしい。
「チョコの温度を確認しますね……ちょうどいい温度です。一旦そのボウルを持っててもらってもいいですか?」
「いいですわよ?」
彼女はいそいそと湯せんしていたボウルを取り、冷水を入れて持ってきた。
そのボウルをわたくしが持っているチョコレートのボウルの下に置く。
「チョコを三十から三十二度まで下げます。下がったらココアを入れてください」
「ココアを入れましたら?」
「ココアが残らないようにしっかり混ぜてください。そして、右回り左回りそれぞれ二十回ずつ、ボウルの底を剥がすイメージで。わたしもここまで追いつきますので、少々お待ちを……」
メイドは手早くホワイトチョコレートのテンパリングを行う。
最初は同じだが、冷水に当てたり外したりしながら混ぜている。
あ、ボウルの底を剥がすイメージとはこのことなのね……
今度はまた温かいお湯を準備しているわ。
今度はチョコレートの温度を上げるのかしらね……
「ふぅ……やっと追いついた……ホワイトチョコもちょうどいい温度になりましたよ」
型にオーブンシート敷き、わたくしがテンパリングをしたブラックチョコレートをその上に流し入れ、表面をトントンと平らにならす。
「そうしたら、ところどころにスプーンでわたしがテンパリングしたホワイトチョコを落としたり、竹串でスーッとマーブル模様を描いていきまーす」
二人で協力してホワイトチョコレートで模様を描いていく。
それがなくなったら再びトントンと表面を平らにならし、冷蔵庫へ――
「三十分から一時間冷やして固めますね」
「わたくし、食器を洗わなくては……」
「あ、お嬢様は来栖さんからの課題が残っていますからね……」
「ええ。今からやりますわ」
わたくしはその待機時間でワゴンに乗せたままにしていた自分が使った食器の他に先ほどまで使用した調理器具をたっぷりの泡でしっかりと洗った。
これで来栖からの文句はないでしょう。
2026/02/14 本投稿
※ Next 2026/02/14 12時30分頃予約更新にて更新予定。




