#6
わたくしたちはバレンタインの買い出しを終え、屋敷に到着した。
「ただ今、戻りました」
「有紗、お帰りなさい」
「お帰りなさいませ。お嬢様」
玄関にはお母様とその専属執事が出迎えてくれる。
メイドは使用人用の玄関があるため、そこから出入りしているのだ。
メイドとの外出は短い時間だったけれど、とても楽しかったわ。
そういえば、来栖の姿が見当たらないわね……
彼は昼食の支度をするため、キッチンにいるのかしら?
◆◇◆
お嬢様とメイドの尾行ミッションが終了した。
今は使用人用の玄関の前にいるのだが、メイドが靴の履き替えをしている。
ここで俺が入ってきたらバレる可能性があるため、こうして待機しているのだ。
「ミルクチョコレート……自分で食べる分だけ、買っておけばよかったな……」
そんなことを呟いている間に彼女の姿がない。
ふう……ようやく玄関に入れる。
靴を履き替え、速やかに自室へ向かい、燕尾服に着替えた。
しかし、キッチンに二人がいるとも限らないのだが、本日の昼食はどうしようか……彼女からリクエストがなかったから簡易なものにするしかない。
◇◆◇
わたくしとメイドはキッチンに向かった。
まずは来栖がいたら追い出さなくてはなりませんわ!
「失礼します。あれ? 来栖さんの姿がないですね……」
「本当ね……」
キッチンの扉を開くと、電気はついていなく、彼の姿が見当たらなかった。
来栖がここにいないということは……もうすでに仕込みが終わっているということかしら?
今度は足音が近づき、キッチンの前で一旦止まり、扉が開かれる。
わたくしは足元からゆっくりと視線をあげていった。
やっぱり彼だった。
わたくしと来栖は視線がぶつかる。
身長差があるせいか見下されている感じが否めない。
「お嬢様。お帰りになられていたのですね?」
「ええ。昼食の仕上げにしては早くないかしら?」
「いいえ。お嬢様のリクエストがございませんので、まだ仕込みすらしておりません。本日の昼食は少し簡易なものになってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「……あっ……ええ、構いませんわ」
昼食と晩餐は来栖か料理人が作るので、リクエストが必要なのに、本日の昼食のことをすっかり忘れていましたわ……
「すぐに仕込みを済ませますので、少々お待ちくださいませ」
わたくしは彼の指示に従い、メイドとキッチンから出ていく。
「お嬢様、ケースのデコレーションするなら今ですよ!」
「ええ。シンプルなケースから可愛いケースに仕上げてきますわ」
わたくしは一旦メイドと別れ、自室に戻った。
先ほど百円ショップで買ってきた蓋つきの丸いケースを手に取り、クマのシールを貼っていく――
仕上げに蓋にもクマのシールを貼って完成した。
さて、クマの容器を受け取った来栖は喜んでくれるかしら?
キッチンから出た時の彼は全く怒っている素振りすら見せなかったけれど、口元は何か分かっているような……そんな感じだった。
◆◇◆
俺は他人から怪しまれないよう、行動するのは得意なのだが、それは夜間に限られる。
実は昼間にそのような行動をしたことがなく……お嬢様たちにはバレていないと思うのだが……
「さて、昼食の支度をしなければ」
仕込みが遅れている言い訳が昼食のリクエストを訊くことを忘れたことにしてよかった。(実際は尾行していたから)
彼女は簡易なものでもいいと答えたので、パスタとスープ、サラダの仕込みをし始める――
彼女らがバレンタインのチョコレートを作るのは昼食後になる。
ここからはお嬢様とメイドがキッチンを使うため、俺は大人しく引っ込むとしよう。
2026/02/12 本投稿




