#4
俺は旦那様に「はい、畏まりました」と答えるしかなかった。
いくら鈍感(?)な俺でも何かがおかしいと感じ始めている。
バレンタインデーの準備が楽しみなお嬢様に対して警戒してしまう自分が――
これがその……よく恋愛ドラマとかに出てくる「すれ違い」というものなのだろうか……?
「来栖くん、どうしたのかい?」
「い、いえ。特には問題ございません」
興味津々な表情をしている旦那様から問われてしまった。
旦那様には何も関係ないのにな。
「本当か?」
「ええ。本当ですよ?」
「なんだ。つまらないな……」
あ、あのー……旦那様?
何がつまるかつまらないかが問題なんだ?
俺はお嬢様に対して恋愛感情は全く持っていないのだが……
ただ一つだけ言えることは「令嬢と執事」の関係なのは事実である。
その時、お嬢様が「お父様、冷めないうちに朝食を召し上がりましょう」と声をかけた。
◇◆◇
朝食を終えたわたくしは部屋に戻り、外出の準備をしている。
メイドと一緒に外出する機会なんてないので、同性同士の外出ってどのような感じなのかしら?
わたくしはどんな時も来栖と一緒に出かけていたからとても楽しみ! と言っても明日のバレンタインの買い出しだけなのですが。
しかし、本日の朝食の席でお父様と彼が話していたことが少し気がかりだったの。
来栖は表面上では冷静にしているけれど、わたくしが悪食なものだから、正直言って呆れていたり、迷惑なご令嬢だと思っているのかもしれないわ。
わたくしはそう思われてもいい。
彼はわたくしに支えていた執事たちとは違う。
わたくしが無茶なお願いをしたら「いい加減にしてください!」と怒って屋敷を出ていったけれど、来栖はそのようなお願いでも分かっていたかのように器用にこなしてしまうの。
彼はわたくしにとって大切な人だからこそ、感謝の気持ちを伝えたいの。
そう思ったやさき、部屋の扉が叩かれる音がする。
この音は……メイドが叩いた音!
「お嬢様、お支度はお済みですか?」
「は、はい。ただ今!」
はうっ!? もうこんな時間? 行かなくちゃ!
◆◇◆
朝食を終え、それぞれの専属とともに部屋に戻っていく中、お嬢様はそそくさと部屋に戻ってしまった。
俺も怪しまれないよう席を離れ、部屋に向かうふりをするしかない。
本日の彼女の予定は何もないため、専属として、お嬢様とメイドの尾行をするしかない。
彼女の身に何か起きても対応できるようにするために――
燕尾服にコートだと流石に目立ってしまうので、あたたかいタートルネックとスラックスとコートというほぼ私服に着替える。
貴重品はサコッシュに入れ、メガネをかけていたら確実にバレるので、机に置く。
メガネをかけないと何も見えないということはない。
俺が執務の時に使っているのは伊達メガネ。
視力がよくないからではなく、変装用として使用しているのだ。(プライベートや暗殺者の時は裸眼で行動している)
「二人にはバレないよう追わなくてはな……」
これは確実にバレないよう、尾行をしなければならないな……
そういう時に幼馴染みの探偵を雇いたいと思った瞬間だった。
◇◆◇
わたくしとメイドはバレンタインの材料を購入するために近くのスーパーにきている。
「材料は昨日お伝えしたように板チョコが二種類とココアの三つだけです。ココアは少ししか使いませんよ」
チョコレートはブラックとホワイトの二種類を使用して、ココアパウダー(彼女はココアで代用して作ったと言っていた)が必要だと聞いていた。
「チョコレートは結構な金額になりますわね……」
「今はカカオも取れにくくなっていて、チョコレートの価格が高くなっているそうですよ……」
今って物価が高いので、チョコレートだけでも相当な金額になりそうですわね……
でも、美味しく作るには高くても仕方がないですわ。
「あとはラッピングも準備しなければならないのでは?」
「ええ。わたしが立てた予算が越えそうですが、男性陣に喜んでもらうには予算を越えても仕方がないです! あとは正方形のケースとラッピングも用意しなければなりません!」
「百円ショップに売られているのではないのかしら?」
「お、お嬢様の口から百均が出てくるとは!?」
メイドはわたくしが百円ショップと言ったら流石に驚いていますわ。
今の百円ショップは「あの見た目で百円なの?」というものもいろいろあるという話をよく耳にするので、彼女に提案してみた。
「……あ、百均でもアリかも……行ってみましょう!」
「はい!」
わたくしたちはレジで板チョコレートとココアの代金を支払い、スーパーをあとにした。
2026/02/08 本投稿
2026/02/09 加筆




