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この街の門番、どう考えても強すぎる

作者: 朧まめノ
掲載日:2025/12/13

息抜きに作ったものです。あまり深く考えずに読んでいただけたら嬉しいです。

 その街の門番は、二人いた。


 古びた鎧に身を包み、年季の入った槍を手に、門の左右に立っている。

 片方は少しだけ体格のいい黒髪の男。


 もう片方は、村人の中に紛れれば二度と見分けがつかないような、平凡な顔の男だった。

 鎧はくすみ、槍も決して名のある武具ではない。


 旅人は素通りし、商人は軽く会釈をするだけ。

 どこにでもいる、ごく普通の門番⸻


 そのはずだった。

 だが、この街には妙な噂がある。


 “この街だけ、十年近く魔物被害が出ていない“


 理由は、誰も知らない。

 黒髪の門番Aが槍に体重を預け、ぼそりと呟いた。


「……しかし、この街は本当に静かだな」


 視線の先では、商人の馬車がゆっくりと通り過ぎ、子供たちが門の近くで遊んでいる。

 それを眺めながら、平凡な顔の門番Bは少しだけ目を細めた。


「平和っていうのも、大事な日常のひとつですよ」

「そういうものか」


 門番Aは短く返し、再び槍に体重を預ける。


(……やけに実感がこもってるな。元冒険者か、傭兵あたりか?)


 横顔を盗み見るが、相変わらず特徴のない、どこにでもいそうな顔だ。

 だが、その言葉には妙な説得力があった。


「毎日、何も起きないってことは」


 門番Bは続ける。


「誰かが、無理をしなくていいってことですから」

「……ふうん」


 門番Aはそれ以上深く突っ込まず、視線を前に戻した。


 ⸻そのときだった。

 空気が、わずかに震えた。


 門番Aが空を見上げる。


「……来るな」


 雲の切れ間から、巨大な影が姿を現す。

 黒褐色の翼。鋭い爪。うねる長い首。


 ドラゴンだ。


 街へ向かって、ゆっくりと高度を下げている。


「このまま入られると……被害が出ますね」


 門番Bはそう言いながら、槍を握り直した。

 表情は落ち着いている。困ったように、少しだけ眉を下げる程度だ。


「まだ距離あるぞ」

「ええ。でも……十分届きます」

「そうか」


 門番Aは、それ以上何も言わなかった。


 次の瞬間。

 門番Bは、助走もつけずに槍を投げた。


 ゴウッ⸻!!

 空気が裂ける音がした。


 投擲された槍は勢いを失うことなく、一直線に空を貫く。

 ドラゴンの視界に、突如として“死”が迫った。


『――ッ!?』


 咄嗟に身をひねる。


 槍は首のすぐ脇をかすめ、鱗に触れた。

 ぱら……ぱらぱら……

 自慢の硬質な鱗が、紙屑のように崩れ落ちる。


(い、一体なにが……!?)


 心臓が跳ね上がる。


 冷や汗が止まらない。

 そのとき、下から声が届いた。


「ドラゴン、聞こえるか」


 門番Aだった。

 城門の前で、槍も構えず、ただ空を見上げている。


「今のは警告だ」


 淡々と、事務的に。


「これ以上この街に入るなら……対策せざるを得ない」


 ⸻その言葉の重さを、ドラゴンは本能で理解した。


『……り、了解しました!』


 翼をばたつかせ、何度も頷く。


『すぐ退きます……!もう来ませんから……!』


 そう言い残し、ドラゴンは半泣きで進路を変え、全速力で逃げ去った

 静寂が戻る。


 門番Bは槍の残った柄を見て、少し首を傾げた。


「……鱗、思ったより脆かったですね」

「そういうもんか」


 門番Aは特に気にした様子もなく、門へ視線を戻す。


「まあ、入らなかったならいいだろ」

「ですね。平和が一番です」


 二人は何事もなかったかのように、元の位置へ戻った。


 ◇


 翌日。

 朝の街道に、異様な緊張感が走っていた。


 重装の戦士。

 老魔導士。

 精霊契約の弓使い。

 聖印を刻んだ聖騎士。


 ⸻間違いなく、S級パーティだった。


「……本当に、ここなのか?」

「間違いない」


 魔導士が低く答える。


「昨夜、ドラゴンの魔力反応が……この街の直上で、突然“消えた”」

「討伐報告も、被害もない」

「……おかしい。S級ドラゴンだぞ」


 四人は街門の前で足を止めた。

 そこに立っていたのは、古びた鎧に槍を持った門番が二人。


 ⸻どう見ても、モブ。


「……おはようございます」


 門番Bが、穏やかに挨拶した。


 その瞬間。

 魔導士の背筋に、ぞわりと寒気が走る。


(……魔力反応が……読めない?)


 いや、読めないのではない……できないのだ。


「昨夜、この街の上空にドラゴンは?」

「ええ。いましたね」


 過去形。あまりにも軽い。


「……討伐は?」

「いえ」


 黒髪の門番Aが答えた。


「入られたら困るので、帰ってもらった」


 沈黙。


「……帰って……?」

「どうやって?」


 門番Aは首を傾げる。


「警告しただけだが」


 魔導士は理解した。


 ⸻基準が、違う。


「……以前は、冒険者で?」

「いや。今は門番だ」

「平和こそが、大事な日常のひとつですから」


 その言葉に。

 S級パーティは確信した。


(……この二人は、触れてはならない”存在”だ)


 危機感を覚えた四人は深々と頭を下げ、早足で去った。

 門の前では、二人の門番がいつも通り立っている。


「今日は、静かですね」

「そういう日もある」


 ……実は。


 この街の門番二人の正体は、かつて世界を終わらせかけた魔王と、世界を救った勇者が、今世の人間に転生した姿である。


 その事実は、世界どころか⸻二人の門番自身すら、まだ知らない。

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