第8話 「雷鳴の予兆」後編
黄金の光が霧散し、雷が静まりゆく中――
そこに立っていたのは、一人の少年だった。
銀の髪は肩まで流れ、陽の光を受けてほのかに青みを帯びる。
前髪は右側に少し流れ、鋭く光る琥珀色の瞳が木々の隙間から差す光をまっすぐに捉えていた。
彼の肌はやや浅黒く、しなやかな筋肉を宿した細身の体躯。
黒と蒼を基調とした戦衣は軽装ながら機能的で、肩から胸にかけて開いた部分には、雷の痕のような紋が脈動している。
それは、かつて賢者が力を託した証――雷紋だった。
静かに目を細め、少年は言った。
「……名乗るほどの者じゃない。だが、“雷の末裔”であることに偽りはない」
その声は低く、落ち着いていながらも、どこか張り詰めた緊張を帯びていた。
「……じゃあ、あんたが村の周りをうろついてた“光る狼”ってわけね?」
エリナが一歩踏み出す。
「なぜこんなところに? そしてなぜ、獣の姿をしていた?」
リオの問いに、少年――ザイクは一拍置いて答えた。
「……俺の力は不安定だ。人の姿でいれば、感情の起伏で雷を撒き散らしてしまう。だから、意図的に“獣の形”をとっていた」
「……制御できないほどの力。なるほど、“賢者の末裔”らしい悩みね」
ミラが静かに呟く。
「けれど、それが原因で村を怯えさせていたのも事実よ?」
エリナの言葉に、ザイクはわずかに視線を落とした。
「……それも分かっている。けれど……俺は、“目覚めた”感覚を感じた。だから、この地に来たんだ」
「魔菌……?」
リオが小さく問いかける。
「……ああ。瘴気が、目に見えない霧のように拡がっていた。俺の雷が反応して、狼の姿でも近づけなかった」
「それで……わたしたちを試したの?」
ミラが問いかけると、ザイクはわずかに頷いた。
「瘴気を打ち払う力を持っているのか、見極める必要があった。……結果は、十分だ」
その言葉に、リオは笑みを浮かべ、手を差し出した。
「じゃあ……改めて。僕たちと一緒に、来てくれないか?」
「……いいのか? 俺はまだ、力のすべてを制御できているわけじゃない」
「不完全な力を持つのは、僕たちも同じだ。だから、支え合えばいい」
リオの言葉に、ザイクはわずかに目を見開いた。
その目には、ほんの僅かだが、“安堵”の色が宿っていた。
「……わかった。俺はザイク。“雷の継承者”として、使命を果たす」
差し出された手を握り返す。
「ふん、まあいいわ。仲間になるなら、ちゃんとしなさいよね」
エリナがそっぽを向きながらも、どこか嬉しそうに腕を組む。
「歓迎するわ。雷の末裔」
ミラの穏やかな笑みに、ザイクはわずかに口元を緩めた。
こうして――四人目の継承者が加わった。
新たな力、新たな絆が芽吹いた瞬間だった。
そして、旅は次なる舞台――帝都メルグランへと進む。
その都市の影で、また一つ、“封印されたはずの魔菌”が、静かに蠢いていた。