第36話「継承の灯、断罪せし刻」
雷鳴が、大地を揺るがした。
「雷刃閃ッ!!」
ザイクの叫びとともに、稲妻が天空を裂き、断罪者の胸部を貫いた。
炸裂する閃光。衝撃に、黒の仮面が僅かにひび割れる。
「反応──解析不能。干渉源……追加対象──警戒強化」
断罪者は即座に態勢を立て直すも、その動きには先程までの余裕がなかった。
「ようやく届いたか……」
ザイクはリオに目を向け、ニッと笑う。
「遅れて悪かったな。だが──やるべきことは決まってる」
「……ありがとう、ザイク」
リオの目に、再び力が灯る。
だがその身体は限界に近く、膝が今にも崩れそうだった。
「こっちは任せろ、今は魔力を整えろ。お前の“灯”が必要なんだ」
ザイクは再び前へ躍り出ると、断罪者の背後へと回り込む。
エリナもまた、火花を纏いながら構えを取る。
「リオ、あんたの魔法がなきゃ……私たちは戦えない!」
その言葉に、リオは強く頷いた。
深く息を吸い、杖を胸元で組むように構える。
「……癒しの光よ、命の調律をもたらせ──」
聖域展開・癒光陣《ルーメン=セラフィア》!
黄金の紋章が地面に広がり、波のように仲間たちへと癒しを送る。
ザイクの傷が浅くなり、エリナの炎がさらに力強さを増す。
「再生干渉、検出。排除優先度……変更。対象──癒しの継承者」
断罪者の眼孔がリオにロックされる。
だが、そこへ割って入ったのはザイクだった。
「おっと、相手はこっちだ!」
重たく振るわれた雷槍が、断罪者の腕を吹き飛ばす。
しかし、次の瞬間には再構成が始まり、傷は消えていた。
「クソッ、まるで不死身かよ!」
「ただ回復してるんじゃない……“構造ごと”作り直してるんだ」
リオの声が冷静に響く。
「再構成という言葉の意味を、文字通り体現している。なら……それを、上書きするしかない」
「上書き……?」
「否定じゃない。“肯定”の力で、塗り替える!」
リオは杖を振り上げる。
その先端に、白金の光が凝縮されていく。
「僕は……この世界の未来を、選ぶ!」
聖光斬《ルクス=ヴェルティス》──!!
奔流する光刃が、断罪者の胸へと収束する。
エリナの焔閃撃、ザイクの雷刃閃も同時に重なった。
三位一体の攻撃。
「反応──限界突破。構成情報、崩壊開始──」
断罪者の身体に、再構成の兆しが現れない。
「今だ、畳み掛けるッ!!」
ザイクが雷をまとった拳を叩き込み、エリナが連撃を浴びせる。
最後に、リオが大地へと杖を突き立てた。
「癒しは命の肯定。希望は、僕たちの中にある──!」
《ルーメン=セラフィア》の光が、崩壊寸前の断罪者を包み込んだ。
仮面が砕け、無機質な声が震える。
「命令……未完遂……再構成不能……システム、強制終了──」
光の中で、断罪者の姿が音もなく崩れ落ちた。
──沈黙。
吹き荒れていた風が止み、空に光が戻る。
黒い瘴気も、幻のように霧散していった。
「……勝った、のか?」
ザイクが肩で息をしながら、そう呟く。
エリナも膝をつきながら、笑みを浮かべた。
「やったね……リオ」
リオは、ただ杖に身を預けるようにして、静かに頷いた。
だが、その時──空が“震えた”。
低く、鈍い音が天地を満たし、空に亀裂のようなものが走る。
「これは……?」
「まだ、終わってないのか……?」
リオの心に、どこか遠くから声が響いた。
《断罪は未完了──命令者は“なお在りて”》
《継承者たちよ。次なる試練が、貴殿らを待つ》
風が吹き抜ける。
空は静かだったが、その奥に“何か”が潜んでいる気配が確かにあった。
「……行こう。次へ」
リオは、杖を握りしめたまま、静かに歩き出した。
彼らの旅はまだ──終わってはいなかった。




