第34話「審判の使徒、降臨」
突如、空が裂けた。
真昼の陽光を呑み込むように、黒い亀裂が虚空を走り、そこから降り立ったのは、一体の《断罪者》——。機械と神性が融合したような異質な存在は、六枚の光の翼を広げ、静かに降下してくる。
「……また、裂け目か!?」
エリナが剣を構え、ミラは警戒するように後退する。その隣でリオは杖を強く握りしめ、魔力の流れを整えた。
「この気配……普通じゃない……!」
バルドが地を踏み鳴らす。空気そのものが重く、張りつめている。断罪者は地に降り立つと、無感情な声を放つ。
「世界の再構成命令に反し、継承の力を行使する者たち——排除を開始する」
淡々と告げられたその言葉に、全員が目を見開く。
「再構成命令……? いったい誰が、何のために……!」
リオが問いかけるも、断罪者に返答はない。ただ、六枚の翼が淡く輝き、周囲の空気が振動を始める。
「くるぞ……!」
ミラが氷の魔力を構え、エリナは即座に前に出て剣で牽制。断罪者の第一の攻撃は、光の刃による薙ぎ払いだった。
「聖光斬《ルクス=ヴェルティス》——!」
バルドが地面を隆起させて盾を作り、エリナとミラを庇う。しかし斬撃は地の壁ごと一閃し、後方の大樹をも一撃でなぎ倒した。
「っ……なんて威力……!」
「支援魔法、展開する!」
リオが杖を天に掲げる。
「《ルミナ・グレース》!」
仲間全員の防御と魔力を強化する光が降り注ぎ、同時に傷の治癒も始まる。リオの魔力は温かく優しいが、内に強靭な意志を宿していた。
「援護は任せて! みんなは攻めに集中して!」
「言われなくても!」
エリナが突撃。断罪者の前に跳躍し、炎を纏った斬撃を浴びせる。
「《紅蓮連牙》!」
しかし、断罪者は無表情のままその攻撃を受け止め、手から無数の光の矢を放つ。ミラが即座に対応し、冷気の盾でエリナを庇った。
「させないわ、氷晶盾《グラシエル=シェル》!」
戦場は混迷を極めていく。
一行の連携は優れていた。だが、それを上回る精度で断罪者は攻撃と防御を繰り返し、徐々に仲間たちは押され始める。
「このままじゃ……っ!」
バルドが拳で地を打ち、地脈から力を引き出すが、それすらも断罪者の光の壁に阻まれる。
「ならば——!」
リオが前に出た。
杖を掲げ、魔力を収束する。
「聖域展開・癒光陣《ルーメン=セラフィア》!」
地面に広がる魔法陣が、仲間全員を包み、再生と結界の力が交錯する。その瞬間、リオの背後に金色の輪が浮かび上がり、聖なる加護が顕現する。
「癒しの賢者の血を継ぐ者か……抹消優先度、上昇」
断罪者の目がリオに向く。
次の瞬間——
光の翼が一斉にリオへ向かって放たれた。
「リオ、下がれ!!」
ミラが叫ぶ。しかしリオは一歩も引かず、杖を強く握る。
「下がれない。ここで守れなきゃ、継承の意味がない!」
——杖に魔力が集中する。
「《セレスティア・ブレス》!」
神聖な光が弾け、断罪者の攻撃を拡散させる。しかしそれでも全ては防げず、リオの身体に一閃の光が直撃した。
「……ッ!」
リオの身体が吹き飛び、地に転がる。
「リオォッ!」
ミラとエリナが叫び、即座に駆け寄るが、断罪者は容赦なく次の攻撃の構えを取る。
「回復、まだ……!」
「……僕は、大丈夫。まだ……動ける……!」
リオは血を吐きながらも、必死に立ち上がった。
杖を支えに、よろめきながらも再び戦線へ戻る。
「ここで止める。……止めなきゃいけない!」
その瞳には、決して折れない意志が宿っていた。
断罪者が再び、光を構えた。
——戦いは、これからが本番だった。




