第24話「雷光の余韻と再出発の風」
雷鳴が去った後の静寂は、想像以上に重かった。
焦げた地面に立ち尽くしたまま、誰もが言葉を発せずにいた。ザイクの姿は、もうそこにはなかった。彼の最後の言葉――「この命で償ってみせる」――その強い決意だけが、痛いほど胸に残っていた。
ミラは、唇を噛みしめていた。彼を引き止める言葉は、間に合わなかった。何より、あの一瞬の爆発的な雷撃の衝撃が、彼の苦しみを物語っていた。
「……行かせてよかったのかしら」
ミラの震える声に、エリナは炎の剣を地面に突き立てるようにして言った。
「行かせたんじゃない。自分で、選んだのよ。……彼の意志だった」
誰よりも近くでザイクの暴走を受け止めた彼女は、そう言いながらもわずかに拳を握っていた。
リオは、仲間の姿を一人ひとり見回す。ミラの悲しみ、エリナの悔しさ、バルドの沈黙。そして、自分自身の胸に残った痛み。
(……僕は、本当に彼を救えたのだろうか)
癒しの力は、確かに雷の暴走を止めた。だが、それは一時しのぎに過ぎなかったのかもしれない。ザイクの中に眠る“獣”は、ただの魔力暴走ではなく、根源的な苦悩そのものだったのだ。
「……時間が経てば、また会えるさ」
沈黙を破ったのはバルドだった。岩壁に背を預けたまま、低く、しかしはっきりとした声で続ける。
「ザイクは、壊れちゃいねえ。自分を見つめる旅を選んだんだ。なら、信じてやるのが仲間ってもんだろ」
「……うん」
ミラが小さくうなずく。涙をこらえるように、空を仰いだ。
風が吹いた。
――まるで、新たな旅立ちを促すかのように。
◆ ◆ ◆
翌朝。岩山を越えた先には、風の民が守護するという“ルゼの台地”が広がっていた。遥か彼方に、風車のような巨大な結晶塔が見える。それが風の継承者の住まう“風見の神殿”だと、バルドが教えてくれた。
「行こう、みんな。僕たちの旅はまだ……終わっていない」
リオの言葉に、仲間たちはうなずく。
ザイクが抜けた穴は、大きい。だが、それでも歩き続けなければならない。彼が再び戻ってくる場所を、守り続けるためにも。
風が背を押す。
それはまるで、雷を越えた者たちへの祝福のように、やさしく、力強く吹き抜けていた。




