第9章:ようこそ、天竜帝国魔法学園へ
天竜帝国魔法学園の巨大な正門がゆっくりと開き、浮遊する木々、小さな魔法生物、風に合わせて色が変わる花々に彩られた広大な庭園を横切る石畳の道が現れた。魔獣に引かれた馬車の行列や、荷物を持って歩く生徒たちが、この世界で最も名高い学園へと次々と到着していた。未来の英雄、魔導士、調教師、そして戦略家たちのための場所である。
新入生たちは、期待と緊張、あるいはただの好奇心を胸に、魔法で宙に浮かぶ金文字の看板の下をくぐった。
「第九十六期 帝国魔法学園・天竜へようこそ」
――ようこそ、第96期生の皆さん――
本校舎の前では、生徒たちがいくつかのグループに分かれて集まり、教官から基本的な説明が入った浮遊するオーブを受け取っていた。さらに、彼らは初めての重要な選択を与えられた。
「自分の制服を選びなさい」
天竜学園は他の一般的な学園とは異なり、生徒一人ひとりが自分の好み、戦闘スタイル、文化、あるいはファッションセンスに基づいて制服を自由にデザインできる。ただし、一つだけ絶対条件があった――白い竜が黒い月に巻き付いた校章を、どこか目立つ場所に付けること。
多くの生徒がエレガントで魔法的、または落ち着いたデザインを選ぶ中、結果は…多種多様だった。
ある高貴な雰囲気を持つ少女は、袖にルーン文字が刻まれたゴシック・ヴィクトリアン風のドレスを選んだ。火山地帯出身の少年は、炎石をあしらったノースリーブのローブを着ていた。砂漠出身の生徒は、ヴェールと浮遊するリボン付きの軽装をまとっていた。
そして、アレックスが現れた。
風にたなびく白・緑・赤の髪。彼はまるで遠足にでも来たかのような余裕のある足取りでキャンパスを歩いた。制服はシンプルながら目を引いた。黒のジャケットは内側が深紅で開けっ放し、細身の黒ズボン、革のブーツ、そして首にぶら下げた錆びた金属のホイッスル。
背中には、歩くたびにほんのりと光を放つ糸で縫われた校章。
彼の姿に、何人もの女子生徒が振り返った。その見た目の異国感、そしてすでに学園に広まっていた「森の事件」の噂のせいだ。
「見て!ピラミッドも使わずにクラス3の神獣を二体倒したっていうあの子よ!」
「しかも戦場で女の子にプロポーズしたって聞いたよ!」
「それで、OKされたらしい!」
囁き声と視線が飛び交う中、アレックスは大あくび。彼の関心は日陰で昼寝する場所を見つけることだった。
一方、包帯で胴を覆い、プライドも傷ついたレイジは堂々と歩いていた。彼の制服は現代風の侍スタイルで、電気エネルギーを放つ金属プレートが輝いていた。
「ちっ…あいつ、気に食わねえな」
そう呟きながら、木陰でくつろぐアレックスを睨みつける。
そのすぐ後ろを歩いていたのは、栗色のツインテールを揺らしながらラベンダー色のドレスに金の装飾、そしてロングブーツを履いたタチバナ・ミナ。顔はあの日以来ずっと赤く、アレックスと目が合うたびに視線をそらしていた。
「…もう私のこと忘れてる?それとも、からかっただけ…?」
そう思った瞬間、アレックスが木陰から振り向いて、にっこりと笑った。
「よう!俺の婚約者!朝飯は食べた?」
「そ、そんなこと言わないでよここでっ…!」
ミナは制服の袖で顔を隠し、周囲の生徒たちの視線と囁きがさらに強まる中で身を縮めた。
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大講堂では、長い黒髪と銀の瞳を持つ女性が自然な優雅さでステージに現れた。帝国魔導師の伝統衣装を身にまとい、黄金の竜の装飾が施されている。彼女こそが学園長、ミカガミ・サツキであった。
「学生の皆さん」
彼女の澄んだ声が響く。
「ようこそ、天竜帝国魔法学園へ。ここはあなたたちの家であり、戦場であり、成長の祭壇です。ただの魔法使いとしてではなく、世界を支える柱となる存在として、あなたたちはここで鍛えられます」
照明が落ち、空中に大陸の地図が映し出される。そこには神獣の出現が続く赤いエリアが点在していた。
「血なき英雄など存在しない。努力なき栄光など、ありえない。ここでは試練が待ち受けています。そして、いくつかの魂は敗れるでしょう。しかし、それを乗り越えた時…世界はあなたの名を知ることになります」
拍手が巻き起こる。感動に震える者もいれば、不安げにうつむく者もいた。
だがアレックスは、歓迎マニュアルを枕にして椅子で寝心地を整えていた。
「食堂にデザートあるといいな…」
舞台袖では、彼の担当に任命された教官・ユメコが、演説中に寝ている彼を見て深いため息をついた。
「はぁ…こいつを私が鍛えるって…?」
サツキは上から小声で答えた。観衆の拍手が響く中、静かに呟く。
「頑張ってね、ユメコ。あの子はただの異常ではない…私たち全員への試練よ」
こうして、天竜学園での学生生活が始まった。
だが、アレックスがいる以上、「普通」な日々はきっと訪れない――。