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第23章:深淵の誘惑

地下牢の壁に染み出す湿気が、呼吸するたびに重くのしかかる。天井から一滴の水が落ち、沈黙を破るかのように響いた。


アレックスは黒い石の構造物に鎖で繋がれ、そこからは邪悪なエネルギーがうなりを上げていた。隣にはアリサが座っていた。彼女は数分前から黙っていたが、その視線は彼に注がれ続けていた。彼の表情は読み取れない。怒りも、悲しみも、諦めもない。ただ、あの無関心な表情だけがあった。


再び、引きずるような足音が空気を満たした。黒いローブを纏った男が戻ってきた。彼の表情は落ち着いており、自信に満ちていた。まるで全てが計画通りに進んでいるかのように。


「考えはまとまったか?」彼は穏やかな声で尋ねた。「世界は変わりつつある、アレックス。古い秩序の腐敗にしがみつくか、それとも我々と共に新たに生まれ変わるか?」


アレックスは眉を上げ、まるでその質問を待っていたかのように答えた。


「一つ聞きたい」彼は気軽な声で言った。「本当の狙いは何だ?それに、あんた自身はどうなんだ?確か、帝国の兵士だったよな?三年生の連中をこの村の失踪事件の調査に連れてきたのも、計画の一部だったのか?彼らをブラックシンジュウの一員にするつもりだったのか?」


男は一瞬立ち止まった。その笑みが、ほんの一瞬だけ揺らいだ。


「見かけによらず、賢いようだな」彼は言った。


「馬鹿に見せるのは努力が要るんだ」アレックスは片方の口角を上げて答えた。


ザラスは鼻で軽く笑い、近くのテーブルへと歩いた。彼は赤いシンボルで覆われた黒い球体を手に取り、それを片手で持ち上げた。


「計画は至って単純だ」彼は話し始めた。「この場所、この地下は、かつて白シンジュウの信仰の聖域だった。意味は分かるだろう?」


アレックスは頷いた。アリサはそうではなかった。


「この場所は、母シンジュウの主要な根の一つの上にある。純粋なエネルギーの導管だ…新たなシンジュウの世代を孵化させるのに最適な場所だ。知性を持ち、人間の魂に従順な…適切に形作れば、だがな」


アリサは恐怖に目を見開いた。


「学生たちを…?」彼女は言った。


「原材料に」ザラスは答えた。「長期的には重要ではない。彼らの魂は再生の糧となる。この村は始まりに過ぎない。ここから、根は大陸全土に広がる。旧世界は崩壊し、人類は元の本質と融合し…完璧に、強く、純粋に生まれ変わるのだ」


沈黙が耐え難いものとなった。


「そして、お前、アレックス…お前はその全てを燃え上がらせる火花となる」


青年は黙って視線を落とした。驚いた様子はなく、ただ…考え込んでいるようだった。


アリサは顔を向け、彼を睨みつけた。


「それでも加わるつもりなの?彼らが何をしたか、何を見たか知っていて?皆を裏切り、何千人もの命を危険に晒すの?」


アレックスは彼女を見なかった。彼の目は床に刻まれた石のシンボルに固定されていた。


「裏切りについて軽々しく語るべきじゃない」彼は囁いた。「時には、君を獅子の前に投げ出すのは、守ると言っていた者たちだ」


「それで正当化できるの?私たちは兵士よ、アレックス!義務があるのよ!」


黒衣の男は楽しげにその光景を見ていた。彼の笑みは広がり、そしてアレックスを見た。


「彼女が邪魔をするなら、排除することもできる。煩わしさが一つ減る。お前が決めろ」


沈黙を破ったのは、アレックスの笑い声だった。


「アリサを殺す?」彼は繰り返し、まるでその考えが本当に面白いかのように笑った。「あり得ないな。彼女は可愛すぎるし…その責任感の強さなら、いい第二夫人になりそうだ」


地下牢は静まり返った。


ザラスは瞬きをし、困惑した。


「何だと…?」


アリサは突然顔を赤らめた。


「何言ってるのよ、バカ!誰があんたの妻になるってのよ!」


アレックスはついに顔を上げた。彼の目は鮮やかな赤で輝いていた。


「それはそうと…」彼はゆっくりと立ち上がりながら言った。「囚人にインフラを見せるなんて、馬鹿なことだ。たとえ彼らが縛られているように見えても」


「何…?」


アレックスの鎖が乾いた音を立てて弾け飛んだ。彼の腕からは肉の鎌のような鋭い爪が現れ、赤い炎に包まれていた。その炎はまるで生きているかのように震えていた。


ザラスは一歩後退した。


「どうして…?!」


「抑制の印を完全には受け入れなかった」アレックスは爪を動かしながら言った。「鎖をかけた奴は集中力が足りなかった。多分、俺が自ら閉じ込められたいと思っているとは思わなかったんだろう」


瞬きの間に、アレックスは黒衣の男の前に現れ、その爪は男の首の数ミリ手前で止まった。


「演説ありがとう。多くのことが明確になったよ」


「お、お前が我々に逆らっても、何も得られない!お前は我々の一員だ!」


アレックスは彼の目を見つめ、その穏やかな表情の裏に、怪物のような何かが垣間見えた。


「俺は誰のものでもない」


そして素早く、彼を超人的な力で壁に叩きつけた。


衝撃は凄まじく、男はよろめきながら立ち上がったが、もはや笑ってはいなかった。


アレックスはアリサの元に戻り、素早い動作で彼女を縛っていた鎖を破壊した。


彼女は安堵、怒り、



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