第19章:気まずい旅路
魔法の馬車の内部は、外から見るよりも広かった。壁は保護のルーンで強化されており、空気には柔らかな香の匂いが漂っていた。豪華さにもかかわらず、雰囲気は緊張に満ちていた。
アレックスは窓際に座り、頭をガラスに寄せながら流れる景色を眺めていた。アリサは彼の正面に座り、腕を組んで、彼に絶え間なく視線を送っていた。
数分間、沈黙が続いた。ただ風の音と魔法の馬たちのリズミカルな足音だけが空気を満たしていた。
「なんであんたなの?」アリサが突然尋ね、沈黙を破った。
アレックスは彼女に視線を向けたが、表情を変えなかった。
「どうして学園長はあんたを選んだの? “規律の欠如”がなければ、この任務はあんただけのものだったって言ってた。こんな任務を当然のように与えられるなんて、あんたみたいな奴の何が特別なの?」
アレックスはあくびをし、ポケットから小さな光る石を取り出して指の間で回した。
「いい髪型だね。」唐突に答えた。「いつもそんな感じなの? それとも誰かを impress するため?」
「はっ?!」アリサは驚きと苛立ちで目を瞬かせた。「変なことで質問をはぐらかさないで!」
「ああ、自分のためにしてるのか。そういうの、好きだな。自分のスタイルを持ってる女の子。」アレックスは手に頭を乗せた。「でも正直、毛先にゴールドを入れたらもっと似合うと思う。」
「本気で言ってるのよ!」アリサは拳を握りしめながら叫んだ。「学園長は理由もなく人を選ばない。あんたって一体何者なの、アレックス!」
アレックスはただ肩をすくめた。
「眠い学生さ。そして今は、気が強い可愛い子と一緒に任務中。冗談みたいだろ?」
アリサは鼻を鳴らし、顔を窓の方へ向けた。剣の柄を握りしめながら小声で呟いた。
「何にも敬意を払わないんだから……」
さらに数分の沈黙の後、馬車が急に止まった。
「今度は何よ?」アリサは窓から外を覗いた。
御者──落ち着いた雰囲気の、帝国の服を着た男──が座席から降りて、ドアの方へ歩み寄った。
「ここで馬車の道は終わりです。」彼はしっかりした声で言った。「ここから先は徒歩で進んでください。村を囲む森は深く、魔法の霧が馬車の機構に干渉します。北の小道を行けば、徒歩で一時間少々でしょう。幸運を。」
アレックスが先に馬車を降り、腕を伸ばした。
「ほら、もう面白くなってきただろ。チームワークを鍛えるには、良いハイキングに限るね。」
「忍耐力を失うだけかもね……」アリサは眉をひそめながら降りた。
二人の前には、濃い霧に部分的に覆われた細い道が続いていた。周囲は静かで、不気味だった。二人は視線を交わした──というより、アリサが警戒心たっぷりに彼を見つめ、アレックスはただ微笑んだ。
「行こうぜ、相棒。森が俺たちを待ってる。」
こうして二人は、未知へと旅立った。
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森は、彼らが一歩踏み出すごとに包み込んでくるようだった。魔法の霧が木々の間を静かな生き物のように滑り込み、数メートル先さえも見えなくしていた。濃い木の葉を通して、わずかな光しか差し込まず、まるで命そのものが息をひそめているかのような、不自然な静けさが支配していた。
アリサは前を歩いていた。剣を腰に下げ、片手を柄に添えて、どんな音にも注意を払っていた。アレックスはポケットに手を突っ込み、緊張感のないメロディーを口笛で吹きながら歩いていた。
「口笛、やめてくれない?」アリサが振り返りながら言った。「任務に集中して。」
アレックスは立ち止まり、片眉を上げた。
「どの任務? あんたが学園長の話を遮ったせいで、なんでここに来たのかすら分かってないんだけど。分かってるのは、四人の生徒と軍の魔導士が消えたってことだけ。そして、あんたは人の話を聞かないってことも。」
アリサは眉をひそめ、完全に振り返った。
「それでも関係ない! 私たちの役目は調査よ! ここに送られたのには理由があるはず!」
「じゃあ、技術的には集中を切らしてないな。」アレックスはだるそうに笑った。「知らないことに集中なんてできないからね。」
「……っ!」アリサは歯を食いしばり、怒りを抑えながら言った。「とにかく歩き続けて。村はもうすぐよ。」
再び沈黙が訪れた。だが今回は、よりはっきりとした緊張感を孕んでいた。
彼らがさらに森の奥へ進むにつれ、奇妙な兆候が見え始めた。折れた枝、人間には大きすぎる泥の足跡、鋭いもので引っかいたような木の傷跡──。
アレックスはしゃがみ込んで、足跡の一つを観察した。
「これは、普通の第二級シンジュウのものじゃない。少なくとも、単独のやつじゃない。」
「どうして分かるの?」アリサが近づいて尋ねた。
「こいつらは分かりやすい痕跡を残す。でもこの辺りには、三種類は違う足跡がある。」アレックスは立ち上がり、周囲を見渡した。「もう任務じゃない。俺たちは、こいつらの縄張りに入ってる。」
アリサは木々を見上げながら、剣をさらに強く握った。
「だったら、ここで何が起きたのか突き止めなきゃ……私たちも同じ目に遭う前に。」
二人は再び歩き始めた。森の静寂だけが彼らの同行者だった──そして、霧の中で何かが彼らを見つめていた。