第17章:五つのクラス
「はい、教科書を53ページ開いてください!」
ユメコは元気よく告げながら、わずかに光る魔法マーカーで黒板に文字を書き始めた。
「今日は、天竜帝国魔法学園における魔導士のクラスについて話します!」
教室内は、ざわめきながらも次第に静まり、何人かの生徒は自分がどのクラスになるのかと期待に胸を膨らませていた。
ユメコは自信満々に振り返った。
「クラスは色によって分かれています。魔法の種類とピラミッドのスタイルに応じた分類です。では、説明します。」
ホワイトクラス:支援魔法、エレメンタル魔法、理論知識に特化。魔法学の基盤を担い、生まれながらの戦略家が多い。
ブルークラス:魔法武器の召喚士。剣、槍、大鎌、弓など、ピラミッドからエネルギーを通して具現化する。
レッドクラス:クリーチャー召喚士。精霊、獣、ドラゴン、神秘的な存在を召喚する。最も不安定だが、爆発的な潜在能力を持つ。
ブラッククラス:魔導鎧を纏い、近接戦闘を得意とする。最前線の盾であり槍である。
ゴールドクラス:(声色を変えて)秘密のクラス。レベル4以上のピラミッドに適合した者のみが選ばれ、別途特別訓練を受ける。
生徒たちは互いに視線を交わし、興奮したり、緊張したりしていた。
ユメコは続けた。
「今日から、自分のクラスを見極め、異なるクラスの仲間と組むよう努力してください。異なるスタイルのシナジーこそが、チームを強くします!」
「先生、ピラミッドについては?」
前列の生徒が質問した。
「良い質問ですね。」
ユメコは微笑んだ。
「一年生はカテゴリー1、1エリート、もしくは2のピラミッドのみ与えられます。ですが、二年生以上は成績と功績に応じ、より高ランクのピラミッドを申請できます。」
その時、教室に妙な音が響いた。小さな寝息だった。
後ろを振り向くと──
アレックスが腕を枕にして熟睡していた。開いた魔法の教科書は、ただの枕代わりにされているようだった。
ユメコは驚きもせずにため息をついた。
「ミナ、お願いできる?」
ミナは苦笑しながら立ち上がり、アレックスの席へ向かった。そっと彼の髪を撫で、耳元で囁く。
「アレックス、起きて。授業、始まってるよ。」
アレックスは片目を開け、次いでゆっくりともう片方も開き、寝ぼけたまま体を起こした。
ユメコは腕を組みながら問いかけた。
「目が覚めたところで、アレックス。今、授業で何を話していたか答えてもらえる?」
教室中が静まり返る。
アレックスはぼんやりと前を見つめながら、淡々と答えた。
「色によるクラス分け。ホワイト、支援と理論。ブルー、武器召喚。レッド、クリーチャー召喚。ブラック、近接戦。ゴールド、秘密。異なるクラスで組むのが推奨。
一年生はカテゴリー1~2。二年生以降は功績で上位ピラミッド申請可。」
静寂。
ユメコは数度瞬きをした後、ふっと微笑んだ。
「……正解です。」
ミナは小さく笑いながら席に戻った。
ミサキは横目でアレックスを見て、驚きと呆れが入り混じった表情を浮かべた。
(寝ながら、どうして全部覚えてるのよ……)
ユメコは気を取り直して言った。
「それでは、全員起きていることだし……今から魔導クラスを判定する実技テストに移ります。二人一組の仮チームを作り、訓練場へ移動!」
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訓練場は、いつものように賑やかだった。
一年生たちが、ユメコの監督のもとで魔法技術を練習していた。
その中、アレックスはどこか上の空で歩き、訓練など眼中にない様子だった。
その時──
一陣の魔力の風がアレックスの頬をかすめ、直後、彼のすぐ目の前に誰かが勢いよく着地した。
土煙が舞い上がる。
「気をつけろ、ボウズ!」
鋭い声が響いた。
銀髪を高いポニーテールにまとめた、威圧感のある二年生の女子だった。
彼女の制服は、暗赤色のぴったりとしたスーツ型。金属の装飾が施されており、近接戦闘を得意とするブラッククラスの証だった。
アレックスは彼女の怒鳴り声に全く動じず、じっと見つめた。
そして無言で手を伸ばし──制服の縁を触った。
「なっ、何してんのよ!」
彼女は顔を真っ赤にして飛び退いた。
「いや、ちょっと……この素材、変わってるなと思って。」
アレックスは真剣な顔で縫い目を眺めながら呟いた。
「ち、ちょっと!魔導具でもあるまいし、勝手に触らないでよ!それって、セクハラだよ!」
彼女は叫びながら後退した。
「え?」
アレックスは無表情で首をかしげた。
「そんな大げさな……素材に興味があっただけだ。」
羞恥と怒りに燃えた彼女は、ブラッククラスのピラミッドを起動。
黄金と白を基調にした重装甲メカのような魔導鎧を展開し、怒りのまま拳を振り下ろした。
轟音。
地面が砕け、破片が宙を舞った。
「アレックス!」
遠くからミナが叫び、ミサキも驚きで立ち上がった。
しかし──
煙の中から現れたアレックスは、傷一つ負わず、制服すら乱れていなかった。
「……今のは、ちょっと面白かった。」
彼はぼそりと呟く。
ざわめく訓練場。
誰もが彼の異常な耐久力に驚愕していた。
その時、学院のスタッフたちが慌ただしく駆け込んできた。
「アレックス、一年生。そして、シラヌイ・アリサ、二年生!」
代表者が声を張り上げた。
「校長ミカガミ・サツキより、至急の召喚命令です。二名に、極秘任務が与えられます!」
場が凍りつく。
ミナもミサキも、言葉を失った。
アレックスは肩をすくめ、シラヌイ・アリサに向き直った。
「まだ殴る?それとも、一緒に歩く?」
「ば、ばかっ……!」
アリサは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
──こうして、誰も予想していなかった形で、アレックスは重大な任務へと巻き込まれていくのであった。