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第16章:予想外の提案


美咲はうつむいたまま、学院の廊下を歩いていた。誰かの視線を感じながらも、それを避けるように歩みを進める。噂はすぐに広まり、言葉を直接聞かずとも、何を囁かれているのかは分かっていた。


「落ちた貴族。」

「最強のピラミッドを失った者。」

「裏切り者の妹。」


美咲は拳を強く握りしめ、立ち止まらなかった。今は、気にしている場合じゃない。


教室に入ると、いつもの席に座り、誰とも目を合わせずにノートを開いた。だが、目は文字を追っていても、心は昨日の訓練場でのアレックスの言葉に囚われたままだった。


「君の願いは、きっと叶わないよ――」


怒りが胸の奥で燃え上がる。しかしその下には、痛みがあった。


そのとき、頭の上に軽い手の感触が走った。


体がビクッと反応し、怒りを抑えながら振り返ると――そこにいたのは。


「――あんたっ!?」

驚きの声を上げる美咲。そこには静かな目をしたアレックスが立っていた。


アレックスは何も言わず、じっと美咲を見つめる。


だが次の瞬間、何かに圧されるように息をつき、顔を右に向けた。見ると、ミナが席からじっと睨んでいた。ぷくっと頬を膨らませて。


「……チッ、わかったよ。」

アレックスは再び美咲の方を見て言った。

「昨日のことは悪かった。謝るよ。言いすぎた。」


美咲の目が見開かれる。

アレックスが、謝っている――?


「君のピラミッド、そしてミナのも。興味深い点があった。君は全力を出していなかった。出せなかったんじゃない。出したくなかったんだ。彼女を傷つけたくなかったから。」


美咲は視線をそらし、無意識に手首に触れる。


「君が召喚した『黒龍くろんりゅう』――あれは光を吸収する力を持つ。でも同時に、吸収した光を反射することもできる。もしそのエネルギーをうまく制御できれば、防御にも、反撃にも使える。君とミナがチームを組めば……相当危険な存在になる。」


教室内が静まり返る。周囲の生徒たちは聞いていないふりをしながらも、耳はそちらに向けていた。


「それに――」

アレックスは続けた。

「君が召喚したあの存在は、一体だけじゃない。君のピラミッドは召喚型の神獣から来ている。分かったんだ。俺は……ああいう神獣を何体も倒してきたから。もしかしたら、君のそれも、その中の一体だったかもしれない。」


美咲は目を大きく見開いた。


「あんたが……あの神獣たちを倒したの……?」


アレックスは誇らしげでもなく、淡々と頷いた。


「そうだ。全部が攻撃的ってわけじゃなかったけど、大半はそうだった。信じてくれ……もし君がランク1や2のエリート神獣に遭遇したら、必ず群れで現れる。一体じゃないんだ。逆に、ランク3以上になると、奴らは互いに戦うほど強い。一体だけで現れる。でもそれが、より危険だという証拠さ。」


その時、ミナが立ち上がった。目には決意が宿っていた。


「美咲。私とチームを組んでほしい。強くなるためだけじゃない。お兄ちゃんがなぜ出て行ったのか……それを知るためにも。一緒に……橘家の名誉を取り戻したい。」


美咲は唾を飲み込んだ。断りたかった。誰の助けも必要ないと、言いたかった。


だがその瞬間、アレックスがそっとミナを後ろから抱きしめた。顎を彼女の頭に乗せ、優しくぽんぽんと頭を撫でる。


「よく考えて。」

アレックスは静かに言った。

「たとえ君が断っても、ミナは安全だ。だって彼女はもう、俺の婚約者だ。俺が生きている限り、ミナは死なない。」


ミナは顔を真っ赤にし、いたずらっぽく笑って美咲を見た。


「だからアレックスもチームの一員ってことね!ダメって言っても無駄よ!」


美咲は妹を見つめた。その顔は……嬉しそうだった。怖がっていない。何年ぶりかに見る表情だった。


気にしてないふりをしたが、ほんの少しだけ……口元が緩んだ。


「……考えとく。」

顔をそらしながら、そう答えた。


ちょうどその時、教室の扉が開いた。

いつものように元気いっぱいな夢子先生が入ってきた。


「はいはーい! 今日は神獣の種類と魔法階級について学びまーす! 教科書42ページを開いてね!」


生徒たちが慌てて準備を始める中、美咲は最後にもう一度だけ、ミナとアレックスに視線を送った。


――もしかしたら、誰かと一緒にいるのも、悪くないかもしれない。


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