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第13章:決意の光

第13章:決意の光


アレックスはミナの隣にしゃがみ込み、迷いのない目で彼女を見つめた。


「言った通りにやってごらん」

彼はそっと囁いた。

「自分を信じて…僕はもう信じてるから」


ミナは喉に詰まった鼓動を感じながらごくりと唾を飲み込んだ。

まだ怖かった。まだ脚が震えていた。でも――その言葉は、火花のように心を灯した。


「…うん」

彼女は小さく答え、ゆっくりと立ち上がった。


周囲に浮かぶ小さな光の球たちは、まだ震え、弱々しかった。

まるで彼女と同じ気持ちを抱えているようだった。


けれど――


ミナは顔を上げた。

そして、微笑んだ。


それは不安げな笑みではなかった。

無理に作った笑みでもなかった。

純粋で、勇敢で、決意に満ちた笑顔だった。


フィールドの向こうで、ミサキは眉をひそめた。


「その顔…?」


今まで見たことのない表情だった。


ユメコは目を細め、興味深そうにアレックスへと数歩近づいた。


「彼女に何を言ったの?」

腕を組みながら問いかける。


アレックスはただ静かに微笑んだ。


「見ればわかりますよ」


ミサキは舌打ちした。


「クロンリュウ、やっちゃいなさい!」


ドラゴンジャガーが咆哮し、稲妻のごとき速さと獣の怒りで再びミナへと襲いかかる。


だがミナは動かなかった。

後退しなかった。

ただ――待った。


そして衝突の直前、彼女は右手を高く掲げた。

光の球たちが優雅に彼女の周囲を旋回し始める。


「光のウォール・オブ・ライト


衝撃と同時に、黄金の壁が現れた。

クロンリュウがそれにぶつかると、前のように壁が吸収されそうに見えた――だが今回は違った。


崩れなかった。


クロンリュウが引っかき、咆哮し、噛みついても――壁はびくともしなかった。

それはただのエネルギーではなく、「意志」だった。


「なっ…」

ミサキがつぶやく。


ユメコは片眉を上げる。


「これ…同じ盾なの?」


「いいえ」

アレックスは落ち着いて答える。

「これは、彼女の『想い』を映す盾です」


ユメコはアレックスを横目で見た。彼は視線をミナから逸らさず、続けた。


「入学試験のとき、ミナを見て『可愛いな』って思ったんだ。だから少し観察してみた。すると、もっと面白いものが見えてきた」


「何が見えたの?」


「彼女は『世界のために命を懸けたい』ってタイプじゃない」

アレックスは率直に言った。

「彼女がここにいるのは、姉のそばにいたいから。姉の夢――シンジュウを倒して家の名誉を取り戻す夢を、支えたいからだ」


ユメコは黙って聞いていた。


「彼女の魔法は感情に反応する。自分を疑えば疑うほど、光球は弱くなる。でも信じると決めた瞬間――その力は花開く」


「ミサキも、ある意味で同じだ」


「ミサキも?」


「彼女の使役獣・クロンリュウは、ミサキ自身の自信に比例して強くなる。でもね…『自信過剰』は時に命取りになるんだ」

アレックスはちらりとユメコを見た。

「特に、地球の運命が“世界を飲み込めると思ってる十代”の手に委ねられている今の時代にはね」


ユメコは口元に小さな笑みを浮かべた。


「面白い考え方ね」


戦場では、ミナが一歩前へと踏み出した。

背後にはまだ光の壁が輝いている。


彼女の光球はより力強く回転し、熱を帯びていた。


もう守っているだけじゃない。


――彼女は、攻撃していた。


腕を振るたび、一つずつの光球が矢のように放たれ、クロンリュウの死角を次々と突いていく。

驚いたように、クロンリュウが後退する。


ミサキは歯を食いしばった。


「…何してんのよ、あの子!」


ミナは答えなかった。

ただ、姉の方を見上げた。


「ミサキ…私はあなたほど強くない。

でも、それでも――一緒に戦いたいの」


最後の光球が今までにない強い輝きを放つ。


ミサキが一歩下がった。


遠くから見ていたアレックスが、ほとんど独り言のように呟いた。


「そうだ、ミナ…その調子だ」


@@@


クロンリュウはもう攻撃していなかった。

睨みつけているだけだった。

だが、その目には――恐れがあった。


ミナが最後の一歩を踏み出す。

右手を前に差し出し、目を閉じる。


「…今度は、私が…守る番」


彼女の手のひらから、蝶が生まれた。

それは光の蝶だった。

淡く、優しく、だが確かな存在感を放っていた。


「これは…」ユメコが目を細める。

「初めて見る魔法ね」


蝶はふわりと浮かび、クロンリュウの目の前で羽ばたいた。

その瞬間、全てが止まったかのようだった。


空気、音、心臓の鼓動さえも。


蝶が触れると、クロンリュウの体から力が抜けたように見えた。

ゆっくりとその場に膝をつき、苦しげにうめいた。


「…効いてる?」ミサキが唖然とした声でつぶやく。


アレックスが答える。

「“浄化”の魔法ですね。彼女の中にあった恐れが光の蝶となり、相手の“怒り”を溶かしているんです」


蝶がクロンリュウの額にとまり、やがて光と共に消えていった。

クロンリュウはその場で崩れ落ち、ゆっくりと消滅していった。


試合終了のホイッスルが鳴った。


数秒の静寂の後、観客席から拍手が巻き起こる。

最初はまばらだったが、やがて全体に広がっていった。


ミナはその場にへたり込み、肩で息をした。

だが、その顔は達成感と安堵に満ちていた。


ミサキが静かに歩み寄る。

そして、ミナの前で立ち止まり、しばらく黙って見下ろした。


「…バカじゃないの」


ミナが顔を上げた。


「こんな危ない戦い方して…!」


ミサキは叫びかけて、言葉を詰まらせた。

そして、ため息をついた。


「でも、少しだけ…かっこよかったわよ」


ミナの目に涙がにじんだ。


「ありがとう…お姉ちゃん」


ミサキは照れ隠しのように顔を背けながら手を差し出した。

ミナがその手を取ると、二人はゆっくりと立ち上がった。


少し離れた場所で見ていたアレックスも、静かに笑っていた。


すると、ユメコが彼の肩をポンと叩く。


「まさか…彼女をここまで導くなんて思わなかったわ。驚いた」


アレックスは肩をすくめた。


「僕はただ、彼女がすでに持ってた光を信じただけです」


「…なるほどね」


ユメコは意味深な微笑みを残して去っていった。


ミナとミサキが手をつなぎながらこちらへ向かってくる。

ミナの笑顔は、今までで一番輝いていた。


アレックスはそっと呟いた。


「この世界で君たちの光が、誰かの希望になりますように」



---


(つづく)


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