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口裂け女

作者: 芋姫

大学のグループ実習であぶれていた私に初めて声をかけてくれたのは、彼だった。


同じ学科で目立つ人気者だから、休みがちの私も良く知っていた。


しかしその時の私は彼と距離を置かざるを得ない状況だった。


思わず一、二歩・・と後ずさってしまった。


彼はおしゃれなのか寝ぐせなのか、しょっちゅうヘアスタイルを変えてくる。


たまたまその日はがっちりめのスタイルでキープする為なのか、”ポマード”をつけていたから近寄れなかったのだ。


******



またある日のこと。


図書館で課題に必要な本を探している時、偶然彼とはちあわせて声をかけられた。


「よぅ。」 それから少しだけ立ち話をして、彼は帰り際にそうだ、と言ってポケットから飴を取り出して私にくれようとした。


・・・・・べっこう飴。 よりによって。


私は反射的に走って逃げた。逃げてしまった。


あと少し逃げるのが遅ければ、彼の手から飴を奪い取り、マスクをはぎ取って大きな口で,

飴をばりばりと食べてしまうところであった。


そのくらい危険な匂いだ。


嫌われた。 絶対。 嫌われてしまった。 大きなマスクをいつも絶対に外さず、クラスでも浮いている私に彼だけはいつも他の皆と同じように接してくれた。 それなのに。


でも、言えない。「理由」は言えない。 


口が裂けても。




******


次の日。


私は学校を休んでしまった。 


***********************


**********************************************


「やっぱり本当に口裂け女かもな。」


「マジかよ。」キャンパス内にある喫煙所で俺たちは煙草を吸いながら話していた。


「漫画じゃあるまいし。・・・まあ、お前のいう事、全部否定するつもりはないけど。」


親友のひとりが煙を吐きながら言う。「でもよ~、入学当初から変わってたよな。ずっとマスク外さないし。あいつの素顔見た事ある奴、誰もいないんじゃないか?」


別の親友が言う。実のところ、大学内でもその事はかなり前から噂になっていた。そこで事実を検証すべく、俺に白羽の矢が当たったというわけだ。


最初はめちゃくちゃ怖かった。正直、なんで俺が!?という感じだった。しかし、退屈していたのでちょっとした刺激がほしかったのかもしれない。なんとなく引き受けてしまった。


そして、ここだけの話だが、実はすでに・・・俺は彼女の素顔を見ている。 


もうだいぶ前である。


それは今よりもっと噂が広がる前の入学して間もない頃であった。


中庭のベンチで一人で座っている彼女を見つけたので、壁に隠れて様子をうかがった。


マスク美人の彼女が本当はどんな顔なのか、すごく気になった。 その日は天気が悪く小雨が降っていたので辺りには誰もいなかった。 屋根のあるベンチで彼女はコソコソと飲み物を飲んでいた。・・・その時にマスクの上半分を一瞬だけずらしたのだ。


・・・・・・・・・・。


なんだろう。例えるならそう、”蛇”であった。 蛇が口を開けた時みたいだった。蛇の横顔。


正面から見たわけではないし、横顔で一瞬の事だったので、特に恐怖は感じなかったのが正直なところである。


俺はそのことを誰にも打ち明けなかった。


が、思ったより噂は広まり、あれよあれよという間になぜか、この俺が検証するはめになってしまったのである。


そして・・証拠集めをするうちに、やはり「気のせいではなかったのだ」と確信する。


しかし、中庭でのことは誰にも言えない。 口が裂けても。


もし、言ったら彼女はどんなに傷つくだろう。 そんな思いはさせたくない。絶対に。


彼女と関わるうち、しだいに俺は・・・。




・・・あれ以来、彼女は大学に全く来なくなってしまった。辞めたという話は聞かないが、もう逢えないのだろうか?


そして、そんな事になったらさみしい・・なんて。


俺は口が裂けても言えなかった。

























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