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エピローグ

 翌日の早朝、地平線の向こうから登り始めた白い朝日に照らされて、銃を持った自衛官たちが函館空港の警備を行っていた。

 激しい銃撃戦によりあちこちが破壊された函館空港。ガラスは砕け、管制塔は焦げ、数箇所で発生した火災は、未だ完全に鎮火できていない。

 だが、MiG-25戦闘機を格納していた格納庫だけは、滑走路の脇に無傷のまま佇んでいた。

 空港内では、大損害を受けた第28普通科連隊に代わって、第11師団の主力と、第7師団から派遣された戦車中隊が警備に当たっており、瓦礫と死体が残された滑走路上には戦車や装甲車が展開し、函館空港は物々しい雰囲気に包まれている。

 警察官や消防隊員が、自衛隊衛生科隊員の指揮下で救命や消火活動に当たっており、鳴り響くパトカーや救急車のサイレン音は、やかましいほどだ。

 だが、それらの音は、函館空港の敵が完全に排除され、空港内が安全になったことを意味していた。

 空港を出入りする自衛隊のトラックや装甲車と、それを撮影する報道機関のカメラマン。

 空を見上げれば、航空自衛隊の戦闘機、陸上自衛隊のヘリコプターが悠然と飛行しており、北海道上空の制空権を確保している。

 もしソ連軍が現実的に行動可能な全戦力を投じて戦闘機の奪還を企図したとしても、それを阻止できるほどの戦力を、自衛隊は整えていた。

 それに、空港内には戦闘跡地の視察に来た各国の駐在武官をはじめ、スーツ姿の中央情報局(CIA)エージェントなどが押し寄せている。いくらソ連でも、攻撃を行えばタダでは済まない。

 自衛隊の勝利。

 それは、誰の目から見ても明らかだった。

 長い夜を経て、すっかり姿の変わった函館空港を、徐々に強くなっていく朝日が力強く照らす。

「高山巡査部長」

 消防隊員が駆け足で運ぶ担架に乗せられた壮年の警察官に、その隣に付き添う若い婦警が声をかけた。

「どうしたんだべ?」

 担架に横たわって応急処置を受ける壮年の警察官、高山巡査部長は、そう聞き返す。

 婦警、清水巡査は、少し逡巡した。

「……なぜ巡査部長は、あそこまで戦えたんですか? 怖くはなかったんですか?」

 その問いに、高山巡査部長は、少し驚いた表情になって、ふっと笑みを浮かべた。

 彼の瞳は、ここでは無い別の場所を見ているかのようだった。

 今は亡き仲間を。遠く冷たい大地を。消えた歴史を。

「怖かったよ。でも」

 高山巡査部長は、小さく息を吸った。

「俺は戦争を知っているから」

「え?」

「俺は、戦争を知っている」




 終

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