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第10話

 函館駐屯地を出発した第一、第二中隊の200名強と61式戦車が函館空港に到着したのは、最初にヘリが撃墜されてから20分後のことだった。

 ソ連軍特殊部隊の襲撃にも関わらず現場に留まっていた少数のマスコミ関係者を61式戦車の勇ましいエンジン音で蹴散らし、避難誘導に当たる警察官の制止を無視して、自衛隊は滑走路へと突入する。

 滑走路では未だ戦闘が続いており、残り数名にまで減った警察官たちが、ソ連軍戦闘員による猛射撃を前に拳銃で必死の抵抗を行なっていた。

 警察の壊滅が時間の問題なのは、誰の目から見ても明らかだ。

 だが、ソ連軍戦闘員たちは、まだ妨害する警察官らを殲滅できておらず、MiG-25のある格納庫への突入にも成功していない。

 ギリギリのところで、自衛隊は間に合った。

「作戦開始!」

 小型トラックに乗り込んだ第二中隊長が、力強い声で号令を出す。

 それと同時に61式戦車の90ミリ砲が火を吹き、放たれた砲弾が、地表スレスレの場所でホバリングするソ連軍ヘリに直撃、それを木っ端微塵に吹き飛ばした。

 ヘリの破片が滑走路上に撒き散らされ、ソ連兵たちは俄かに動揺する。

 隊員たちを満載したトラックやジープは、滑走路上に停止して次弾装填を急ぐ戦車を追い越すと、散開して滑走路上で停車する。

 車内の自衛官たちは、部品の落下防止のため黒いテープを巻いた64式小銃を構えて次々と降車すると、戦闘を開始した。

 61式戦車の主砲が次の目標を探して動き、主砲同軸機銃の7.62ミリ機銃が咆哮する。

 反応が遅れたソ連兵の一人が戦車の主砲同軸機銃に頭部を吹き飛ばされたものの、数秒としないうちに冷静さを取り戻した戦闘員たちは、物陰に隠れて激しい機銃の弾幕をやり過ごす。

 経験豊富なヴィンペルの戦闘員たちは、即座に自衛隊への対処を開始した。

 戦闘員の一人がRPG-7を射撃し、機関銃で火力支援を行う61式戦車を沈黙させる。61式戦車は炎に包まれて擱座した。

 さらにソ連兵たちは、滑走路上に展開して交戦を開始した自衛官たちへと、容赦無く弾丸を撃ち込む。

 市街地戦には馴染まない迷彩服一型を着た自衛官たちを発見することは、ソ連兵たちにとって、そこまで難しくない。

 そもそも、予算等の都合から射撃訓練もろくにできていなかった自衛隊に対し、ソ連軍の精鋭部隊であるヴィンペルの戦闘員たちの射撃は極めて正確だ。

 臨時の本部を用意して、無線で各部隊へと指示を飛ばしていた第一中隊長と第二中隊長は、一瞬にして狙撃され斃れる。

 頭の上半分を吹き飛ばされた二人の遺体は、無惨にも滑走路上に転がった。

 さらに、各小隊長、機関銃手、無線手などの重要な隊員たちへと、次々に弾丸が撃ち込まれていく。

 負傷者を治療する余裕も、遺体を回収する余裕もない。

「小隊長! 誰か! 衛生を連れてきてくれ! 小隊長が撃たれた! 重傷だ!」

「痛い! 痛い!」

「手榴弾だ! 気をつけろ!」

 被弾して、鮮血と臓腑を撒き散らしながら斃れる隊員もいれば、手榴弾に四肢を吹き飛ばされつつ即死する隊員もいる。

 指揮官の喪失で、自衛隊は混乱状態に陥りながらも、圧倒的な数の利を生かして、少しずつヴィンペルの戦闘員たちを殲滅していった。

 64式小銃が火を吹き、ソ連兵の隠れる物陰へと手榴弾が投げ込まれる。

 やかましい発砲音と爆発音が鳴り響いた。

 せめてMiG-25の破壊だけでも達成しようとしたのか、一人のソ連兵が物陰から飛び出して格納庫へと走り出す。

「突撃! 前に進め! MiG-25を爆破させるな!」

 一人の自衛官が怒号を飛ばして走り出し、即座に胸元を三発ほど撃たれて即死する。

 だが、彼に続いて立ち上がり走り出した数名の陸士は、生き残ったソ連兵の正確な射撃に数を減らしながらも肉薄攻撃を敢行し、最後の一人が、慌てて後退しようとした戦闘員の腹部へと、腰の銃剣ホルダーから抜いた64式銃剣を突き立てた。

「Черт.(クソッ!)」

 戦闘員はそう言って腰の拳銃を抜くと、自身の心臓に刃を突き立てた自衛官の首筋に弾倉一個分の拳銃弾を全て撃ち込む。

 首を引きちぎられた自衛官の頭部が、地面に転がる。

 直後、62式軽機関銃の弾幕が、腹部を突き刺されたソ連兵の頭部を吹き飛ばした。

 組み合ったまま事切れた、首のない二つの遺体の横を、銃を構えた自衛官たちが駆け抜けていく。

 激しい戦闘で、ついに最後の一人にまで減らされたヴィンペルの戦闘員は、迫り来る自衛官たちに銃を乱射して数名を射殺すると、最後の一発を、自身の頭部に対し正確に撃ち込んだ。



 かくして、函館空港での戦闘は、日本の勝利に終わった。


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