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3-1 蠢動する悪意

更新再開。

投稿時間を色々試したいのでバラつきますが、22時30までには投稿されるようにしたいと思います。


 ミスルトの王都トエリコは常冬ながら、それ故に堅固に冷気を防ぐ家屋の造りにより暮らす者達に安寧をもたらす。

 ミスルト最大の人口を誇る都市に多く建ち並ぶ家屋のその中でも特に高い地位にあるものが住まうこの屋敷はミスルト内にここまで快適な場所はそうないだろうという贅の限りを尽くした最高のもの。

 建材からしてこだわり抜いて、居住性も考えた断熱構造。

 雲のようなクッションに体の芯から温まる飲み物が快適さを提供する。

 有力貴族が集まったこの部屋では金銭も……命をも多く動かす事になる様々な謀が動かされてきた。


「それで、今頃シグルド王子は死んでいる頃ですかな」

「ははは、王子などと言ってやる義理もないでしょう。反逆者シグルド、が正しい呼び名でしょうな」


 恰幅の良い貴族が酒を片手に放ったその言葉、こんな場所でしか話せないような後ろ暗い所のある発言を当然のように受け止めた貴族は更に不敬な意図を重ねて言葉を返す。

 

「おや、それは前の筋書きではありませんこと?今は確か……」

「そんな事は些事。物語など勝者が好きに決める事が出来るのですから、今はただ時を待ちましょう。ミスルトに春が訪れるその時を」


 驕り高ぶった物言いを当然のように受け入れて、杯を掲げて遠くない未来に訪れる春……自分達にとっての益を待ち望む。


「しかしトカゲの信奉者達も案外と話が分かる連中でしたなぁ。もっと狂った連中かと」

「結局は同じ人間という事でしょう。ここはひとつ、わたくし達が貴族らしく上手く使って差し上げませんと」

「流石、都市連合のたかり屋を見事に御した方は言うことが違う」

「全く呆れた者達です。見返りもなくあれを寄越せこれを寄越せと欲深い……」


 ミスルトと都市連合の同盟関係は対ドラゲンティアの姿勢で結ばれたもの。

 実際に国境を接する都市連合へと支援の物資を送るのはミスルト側の担う負担だった筈なのだが。

 戦場から遠く離れたミスルト貴族の中には無駄金を払わされている感覚になっている者もいる始末。

 竜禍からも遠ざかり、過酷な自然環境であっても〈鋼の民〉由来の魔力で育つ植物で食料供給の安定を得た彼らは少しばかり平和ボケしすぎていたのだ。

 いや、そのように()()されたと言うべきか。


「それもあと少しの辛抱。都市連合の連中の吠え面を見れないのは些か残念……しかし妾腹のシグルドを次に見る時はどんな顔をした首になっているのか、いやはやワタシ自身が戦士として切り落としてやりたい程ですなぁ!」

「流石!本物の戦士は違いますわね!偽物にはない華やかさがありますもの!」


 下卑た笑いが室内を満たす。

 酒に、輝かしいと信じ切った未来に陶酔し切った者達の饗宴は続く……


◆◆◆


 ミスルトの南には巨大で広大な山脈がある。

 竜すらも飛行出来ないその自然の要衝によりミスルトは直接ドラゲンティアと事を構えずに済んでいるのだが、当然過酷な自然は恩恵だけでなく試練も平等に与える。


 まずは常冬となる程に吹き荒ぶ冷気。

 山より降りてくる魔力の風は環境を改変し、ミスルトの国土の半分程を常冬と化している。

 そして飢えた獣達。

 魔力を浴びた獣は尋常な存在ではない。

 そんな生物達が容易に狩れる人間というご馳走を見逃す筈もなく、常冬の領域には人の血の跡が絶えなかったという。


 ひとつ、ミスルトに悪意が一滴が落とされた。

 ソレは雪原というキャンバスを滑る朱の絵の具。

 僅かに雪を溶かしながら波打ち、流れる粘体の塊。

 その只中に雪とは違う白が流れているのを見つけるだろう。

 頭骨。太い角と厳しい牙を持ったそれは竜のもの。

 しかし俯瞰してその全体像を見れば認識は変わる。


 流れているのではない、頭骨が流れを作っているのだ。

 粘体の表面のさざなみは頭骨を中心として放たれており、その位置は常に一定。


 それは紛れもなく竜なのだ。

 朱の粘体はかつて竜だったものではない。

 これは竜そのもの、今なお生きている竜の姿。


 蕩け、流れ、波打つ粘体。

 それは腐り落ち、しかし死する事のなかった肉のなれ果て。

 頭骨の中に揺蕩う脳と繋がり魂は未だ肉のうち。


 竜禍の再誕、それが今なされたのだ。


 その竜は山峰を覆う雪の下、岩の裂け目のさらに奥。

 厳重に秘された玄室に封じられていた。

 遥かな昔、壮絶な戦いの末に半身を分たれ、しかし死ぬ事のないその身は封じられ悠久の時を封印の中で過ごした。

 暗闇の中で肉は溶け落ち正気は崩れてただ1人。

 体を蝕む苦痛と不快だけがそこにあり、自らの肉のスープに沈んだ頭骨の中で憎しみが増え続ける。


 故に封印が悪意ある者によって解かれた時、それは声なき歓喜を叫んだ。

 ただ流れるままに外を目指して雪原へと這い出た。


 感覚器官は溶けきって五感など存在しない身であるが理解したのだ。

 自由だと。


本編で開示するタイミングを流した設定を供養しようのコーナー!!


ミスルト中興の祖と語られる転移者プロロ。

彼は当時、南の常冬の地にある小国ミスルトを群雄割拠の北方国家の軍勢から守り、更には打って出る事である程度寒さが和らぐ土地を得る事でミスルトを強くした。


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