表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/53

2-1 ホワイトファング

24/6/21に1-1の追加を再び行いました。

読んでいただけると嬉しいです。


 セビアの村を襲った竜禍を退けたリット、そしてミライはその功績をミスルト王国第二王子シグルドによって讃えられ、ホワイトファングへと招かれた。

 元より旅立ちの日だと決めていた為、ミライは二つ返事で了承し、功労者であるリットの方が着いて行くという奇妙な形で旅は始まった。


 生まれ育った村からの巣立ち。

 村人達はミライを、そして村を救った恩人であるリットを引き留めようとしたが、遠く彼方を目指すミライを見て笑顔で送り出した。

 後の処理の為に数人の戦士を村に残して戦士団は反転しホワイトファングを目指す。


 ただただ続く平原の、変わり映えのない景色であってもミライにとっては未知の世界。

 使命感と冒険心がミライを刺激して、ホワイトファングへの数日間の道のりはとても和やかに、そしてあっという間に過ぎていった。


 そうして旅の最初の目的地へと到着する。

 ホワイトファング。

 その名が付いた理由は街を見れば一目で分かるだろう。

 壁のように切り立った暗褐色の高い崖の頂上に建てられた白い建造物は天を突くように長く縦に伸び、まるで大地が空へと牙を剥いているよう。

 崖の麓には放射状に城下町が広がって、馬に乗った一行の進む道もそこへと続いている。


「あれがホワイトファング。美しいだろう」

「あれがお城……!初めて見たよ!」


 馬上から身を取り出して、嘆息と共に城を眺めるミライの反応に対して得意げに胸を張るシグルド。

 しかし反対にリットは身じろぎひとつせず、黙りこくってただ正面を向いていた。


「リット緊張しすぎ!いい加減馬に慣れなよ!」

「僕は逆に何故君達は平気なのか聞きたいね。怖すぎるだろ……」

「偉大な戦士も乗馬は苦手か!ハハハ!馬に緊張が伝わるから力を抜け!」

「出来たら苦労しないっての……!」


 ここ数日のリットを悩ませ続けていたもの……乗馬。

 【WoS】にもマウントとして様々な騎乗動物が存在したのだが、それらはあくまで定められた行動を取る動物の形をした乗用車のような物。

 その感覚が残っているからこそリットは自分の意思を汲み取った上で進路を勝手に決める馬というものに馴染めずにいた。


「最初は威風堂々とした乗りざまだったのだかなぁ」

「すぐにアワアワしだしたもんね!」

「笑うなよ!?」


 馬すら鼻で笑う屈辱に、リット歯を食いしばる。

 しかしそれからもあと少しで開放される。

 リットを何より悩ませるものはその移動速度を活かしてホワイトファングへの道を着々と進み、町の入り口へと差し掛かる。


 ホワイトファング城下町。その端はリット達と同じように馬で旅をしてきた者や荷馬車に商品を満杯にしてやって来た商人の姿が多く見える。


「そういえばホワイトファングって城の名前だろ?街はなんて名前なんだ?」

「そのままホワイトファングだな。分かりやすいだろう?」

「でもそれって変じゃないか?いや、ここの常識に疎い僕の事だから見当違いの事言ってるかもしれないけどさ」


 リットの疑問にシグルドやミライが答えるというのはこの数日幾度となく繰り返されて来たやり取りだ。

 いち早くこの世界の事を知りたいというリットに対して2人や戦士団の面々は奇妙に感じる質問にも答え続けていたので、リットの知識欲は貪欲に大きくなり続けていた。


「きっと考えるのが面倒であったのだろうな。祖先より受け継がれてきたものぐさの血がそう告げている」

「王族の城って事か。じゃあ結構凄い場所なのかい?」

「あぁ、ミスルト中興の祖である鋼王プロロ・ソウルによって築かれた歴史と価値ある地だ。お前と同じ純血の〈鋼の民〉であったそうだ」

「……〈プレイヤー〉か。まさかハンドルネームで偉業が伝わるとは思わないだろうな……」


 遠い過去のプレイヤーが残した足跡に複雑な心境のリットに構わずミライは歴史のロマンに胸を躍らせている。


「へぇー!そういえばシグルドのそのガントレットはその王様の物?リットがそうじゃないかって言ってた」

「ほう!よく見ているな!これはまさにそのプロロ王の使っていた武器だ!これで数多の敵を打ち砕いたのよ!」


 一行は更に町の中心へと近づいて、景色もそれに合わせて変化してゆく。

 煉瓦造りのしっかりとした建物が増えて、通行人は都市内で生活する徒歩の者が多くなる。

 歩く道も剥き出しの地面から整備された石畳へと変わって馬の歩く音も硬質でリズミカルなタップダンスのような音へと変わる。


「その中興ってのはどれくらい前の事なんだ?そもそも僕はこの国の歴史を知らないんだ」

「歴史自体は古い国なんだが竜禍に脅かされ続けた時代が長くてな。それを解決したのがプロロ王だ。およそ500年前の事だったか」

「500……転移にもそんなにバラツキがあるものか」


 リットの呟きは馬の足音に消え、街の営みの賑わいが往来を満たす。

 それだけではない賑わいも爆発的に多くなっている事にリットはふと気付く。

 それは歓声、羨望に満ちた視線。

 ふと横を見れば笑顔で手を振るシグルドの姿が目に入り、これは戦士団の帰還を讃える物だと理解する。


「それ以来王家は〈鋼の民〉の血を誇りとしている。我らは戦士の末裔だとな。その誇りと、こうして向けられる民からの期待に応える事こそ我が使命だと日々自分に言い聞かせているよ」


 そう言ってシグルドは祖先が建てた城を見る。

 近づく程にその大きさは見る者を圧倒し、建材に刻まれた傷のひとつひとつが歴史を想起させる厳かなその姿。

 城門は開け放たれて主を迎え、警備に立つ兵士達も敬意を持って出迎える。

 独特の厳かさに包まれた道を行くのは城というひとつの生命体に飲み込まれるような感覚をリットに覚えさせた。


「そんな凄い人に気安く話しかけて良いものかと改めて実感してしまうよ」

「気にするな、俺がそう頼んだのだから。それに戦士シグルドの友として対等である事に異は唱えさせんよ」


 こうして辿り着いたのは城の真正面。

 庭園などの華やかさはひとつも無く、堅固さを誇示するその様は城砦のそれ。

 自らを戦士と戒めるミスルトの王家に相応しい城と言えた。


「ようこそ我が城へ。リット、ミライ。歓迎しよう」


よろしければ感想、評価、ブックマークなどいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ