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誘拐事件の始まり

「はぁ……疲れた」

 討伐が終わって屋敷に帰った瞬間ため息をした結果、頭に鈍い音が鳴った。

「いっだっ……」

「あれくらいで疲れるなバカ息子!疲れるくらいならまだ鍛錬が足りないな!」

 がはは!と大きな口を開けて笑っているのは、俺の父さんのレオナルド・ガレッティ。王国の第3騎士団の団長を務めている。

「お帰り父さん、ノエル。今日は一段と大変だったみたいだね」

「兄さん」

 俺の兄のカイン・ガレッティ。父曰く、優しすぎるのと体は強くないというか平均的のため、母と共に領主経営の方を担当している。

 だから俺は、半ば強制的に父さんについていくことになった。

 でも俺には領主経営は向いていないし、人より体力、魔力もあることは自負している。

「ああ、そういえば。ノエルに会いたいと言って第2王太子が来ていたよ。一応客間の方で待機してもらっているけど」

 この国の第2王子のセドリック・ブリスター。

 少し困った顔の兄さんを見るに、突然来たんだろう。まあ、セドリックは思い立ったらすぐに行動するタイプだししょうがない。

「セドか。分かった、今行く」

「幼馴染だとしても、粗相のないようにね」

「うん」

「父さんは、報告書、出してね?」

 兄さんの黒い笑顔は、父さんの逃げ足を阻止するのに充分な効果を発揮していた。



「ノエル!遅い!」

 疲れて帰ってきた人間に対しての言葉にしては常識がないな。セドリックは、客間のソファにどんと構えて、出されたお菓子を食べていた。そんなにお菓子を食べると太るぞと言ったことがあったけど、運動しているから大丈夫だと自慢げに言っていた。

「勝手に来たのはセドの方じゃん。俺は今帰ってきたところだし」

 そう言いながらドサッとソファに掛ける。おかれた紅茶を一気に飲む。マナーは悪いけど疲れているんだ。

「明日俺と一緒に王都へ行こう」

「え?」

 街に、行くのは構わないけどなんで明日?しかも今日言ってくる。第2王子だとしても、常識がなさすぎないか。

「ちょっと行きたいところがあるんだ」

 少し赤らめながらつぶやくその顔は完全に恋をしているような顔で、納得した。

 セドリックの婚約者は、幼馴染でよく知っているけど完全な政略結婚であることは知っている。

 だからなのか、セドリックの瞳に映る女性はみな美しく見えるらしい。

 セドリックの婚約者は結構美人だとは思うけどな……。

「でも、第2王子が王都に行くのって結構難しいだろ」

 わざと、セドリックの肩書を言ってみる。少しでも、自分は王族で王都の民の見本でなければならないということを忘れないために。

「だからノエルに頼んでいるじゃないか。騎士団長の息子で優秀なノエルに」

 またか。婚約者にこってり怒られた腹いせで王都に行きたいと言われたことが何度かある。元はといえば、まじめに勉強をしてこないセドリックがいけないと思うのだが。それを言うと、また機嫌が悪くなる。この態度でも王族で気を使わなければいけない。

「いいよ」

 ぱあっと晴れた顔を見て、こいつは幸せそうだなと感じる。

 俺には婚約者がいないからその鬱憤もわからない。

 兄さんには婚約者はいるし、単純に顔と家柄を見て寄ってくる女性に興味がない。

 多分俺には、一生愛なんて感情を知らずに生きていくんだろうな。





 その日の夜、父さんには報告した方がいいと思って執務室に来た。

 何かあっても大丈夫だとは思うが、最近闇オークションのために子供の誘拐が増えている。何かあった場合は痕跡を残すこと。

 これらを条件に明日行くことを許可された。

 


 

 

 翌日の昼頃、俺たちは街の中心にある噴水にいた。護衛は俺一人と言いつつ王子側には影はいる。

 まあ大丈夫か。

 セドリックは心なしかニヤニヤが止まらない様だった。恋に恋している感じか。

 街は週末だからなのか、いつもより賑わっているような気がした。そんな中、目当ての店を見つけたのか勢いよく走っていくセドリック。俺が追いついたときには、花屋の前で同い年くらいの少女と仲睦まじい様子で話していた。

「あ、ノエル!紹介するよ。彼女はリーナ」

「初めまして!リーナです!」

 一目見て分かった。この少女はセドリックの好みだ。天真爛漫で純粋な平民の少女。でもなんか、目を逸らすことができない。

 セドリックとリーナが仲良く話している雰囲気が俺には少し居心地が悪くて、空の景色を見ていた。ちらっと観察してみれば、どこから見ても王族だと分かる見た目をしているセドリックに、それでもいたって普通に接しているリーナの笑顔がとても眩しかった。

 2人がまた会う約束を取り付けた時には、もう太陽が隠れだして橙色の空だった。

 俺たちは完全に日が傾く前に帰るため、少し速足で城に向かって帰ろうとした。

 でも、人混みが多くなってきたのかなかなか城に帰れない。

 仕方がなく、路地裏近くの通路へ入り帰ることになった。

 これなら人は少ないし、走れば大丈夫だろう。

 

 暗い通路が多くなってきた。

「まずいな……早く帰ろう」

 セドリックにも焦りの表情が見える。

 少し、走る足を速めたその瞬間。

「うわ!?」

 前を走っていたセドリックが急にいなくなった。どうやら路地裏の中にいた人に引かれたらしい。そう思って近づくと「う……!?」いきなり腕を引かれ、口を布で縛られた。

「ん!?」

 そのまま担がれ連れられて行く。合流した男の肩にはセドリックがいた。同じく口を布で縛られている。誘拐だ。

 暴れようにも手首はもう縛られていて肩に担がれているせいで何もできない。苦し紛れに出した痕跡の魔法をつける。

 ドンッ。いきなり下ろされて抵抗しようにも足を縛られ、首に何か注射、その上麻袋に入れられて何も見えなくなった。

 意識が遠のいていく。セドリックは……ああ、父さんに怒られるなこれ……そう思いながら俺の目の前は暗くなった。


 ガコンッ!


 突然大きな揺れを感じ、目を開けた。目の前は真っ暗で、まだ麻袋の中に入っていることがわかる。俺と同じように入っている子供の泣き声や呂律の回らない声がかすかに聞こえる。

 遠くの方で男女の声も聞こえた。セドリックは大丈夫だろうか……?

 隠しナイフで拘束を切り、少しだけ麻袋に穴を開ける。目の前には大量の麻袋がモゾモゾと動いている様子があった。きっとこの中には子供が入っていて、振動とともに目覚めた子供が多くいるに違いない。

 麻袋から出ようとした時、小さいアリのような大群がカサカサと馬車の中に入ってきて、中に見張として座っていた男へ覆い被さっているのが見えた。

「うわなんだ!?やめろ!やめろぉおおお!」

 男は馬車のドアを激しく開けて外に急いで出た。今ならドアも開いている。もしかしたら出られるかもしれない。

 そう思い麻袋から出ようとしたら、またも強い衝撃が馬車を襲い、俺は麻袋の中で激しく頭をぶつけた。


 そのまま気を失う寸前、透き通った女性の笑い声が聞こえた。


 それはピクニックしてるかのような微笑ましさで、この暗闇の状況から1番程遠い錯覚を覚えた。



よろしくお願いします!

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