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やさしい悪魔  作者: 黒月 祐
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悪魔との対話。

普通ならば恐ろしいはずだが…

藤田の一件以来、悪魔はよくウチに現れるようになっていた。


「酷い事するヤツだな」そう言って悪魔は少し考え込んでいる。

最近では慣れてしまい、悪魔があまり怖くなくなっていた。

当たり前のように現れるし、堂々と座り込んでくつろいでいる。

「あ、あの…ツノとか無いの…?あと…は…羽とか…」

「なんだ!?それは!バカにしているのか!」

「いえ…だって…その…悪魔でしょ?」

「自分で自分の事を悪魔と言った覚えはないが、まあ良い。お前の味方である事は確かだ」

「お前には私が付いている。そこは安心して良い。私がお前を護ってやる。」

なんて心強いんだろう。やはり悪魔の加護は偉大だ。護ってやるなんて堂々と言える人はそうは居ない。

自分に自信の持てなかった私がこの悪魔にどれだけ勇気付けられた事だろう。

私には悪魔の味方が付いている。失敗なんてするはずない、負けるはずがない。

悪魔に貰った勇気で今までなら踏み出せなかった一歩を何度も踏み出す事が出来た。

自分に自信を持つ事が出来た。失敗を恐れず前に進む事が今なら出来る。


「おい!ここの道路工事はどうなてんだよ!そこの棒振り!早くしろよ!」

「公的な許可のもとに公共の道路工事を行っています。安全の為、従って下さい」

この前もピシャリと言ってやった。悪魔が味方じゃないと言えないな。


「あの男、藤田ってヤツ…性格が歪んでやがるな…」少し面倒そうに悪魔が言った。

「ホント酷いよ…結局、私の例のB級映画の吹き替えの仕事だってダメになったのは藤田のせいらしいです…ホント酷いよ…」

「私の仕事がダメだったとか、声が合わないとかならまだ諦めもつくんだけど…事務所のみんなも元気無くしてしまって…いえ、その…被害は私だけじゃないんだけど…」

「何?他にもあるのか?」悪魔は呆れたように言った。

「そうなの、実はうちの男性の声優さんで地上波のバラエティーのナレーションのオファーがあったらしいの、それもダメになってしまって…曙絡みの番組なので多分藤田だろうって…」

「………」悪魔は頬を人差し指で掻きながら黙っている…

「地上波のナレーションなんて、とってもすごい事なの、その男性の声優さんだってうちのエース級の人で仕事だって素晴らしい人なのに…」

「……………」悪魔は黙っている…

「うちの事務所がさ、藤田のリクエストに応えて言いなりになっていたら、あいつの都合に合わせて嫌な仕事を受けてさえいれば状況は今とは違ったかもしれない、うちの社長が藤田には逆らうなと言っていればきっとみんなの仕事も潰されなかったかも知れない!でも、私は(お前たちにアダルトのCVなんてやらせない!)って言ってくれた社長や田中さんに付いて行きたい!こんな状況でも藤田なんかに一歩も引かない社長に付いて行く!バイト増やしたって良いんだ!甘っちょろいって言われても良い!だけど、臆病者とは言わせない!絶対に藤田なんかに屈しない!」


私はくやし涙を流していた…


「強くなったな…水菜…」悪魔は優しく微笑んでいる…心なしか、少し悪魔の姿が薄くなっている…


「…物語を聴かせよう…」


そう言って悪魔は私の方へと向き直り静かに語り始めた…


「昔々、遥か昔、戦で領土を奪い合う戦国時代の話だ。それはそれは無敵の軍神が居てな、その軍神は狙った領土は必ず落としたそうだ。圧倒的な力を持って制圧し、徹底的に相手を叩き潰す。その戦力武力は他を震えあがらせ、その軍神に逆らうなどあってはならぬ事だった。何故なら絶対に敵わないからだ。その強さは天地雲泥、圧倒的破壊力、圧倒的兵力数、そして軍神には一切の容赦は無く、命乞いは通用しない冷酷無慈悲と言われる鬼のような軍神であった。ただし…その軍神が領土を狙うにはある決まりがあったのだ。つまり、自分の都合で侵略行為をする事は無かったのだよ。いくら地の利があったとて、ある決まりを外れていなけばその軍神は領土を侵さなかった。」


「…え?…そんな強いのに?決まりって何?」私には全く分からなかった…


続けて悪魔は話してくれた。


「その軍神は民が幸せを感じている領土は侵さなかったのだよ。」


その一言に鳥肌が立った…


「悪魔と呼ばれた軍神は民が未来、つまり将来に絶望している領土だけを侵略しては解放していったのだよ。領主が名君であれば手は出さない。暴君であれば容赦はしない。民の幸せを踏み躙るような領主を許さなかったのだよ。」


悪魔は続けた。


「軍神が領土を征圧して暴君とされる領主の首を切る際、必ずと言って良い同じ言葉で命乞いをした。


命だけはお助け下さい!これからは心を入れ替えます!貴方様に逆ら気などございません!

何でもご命令に従います!どうかご慈悲を!


軍神は決まった言葉で応えた。


お前の行動が正しかったのであれば、私はお前の前には居ないであろう。

お前の信じる神が何故私に剣を持たせお前の首に当てているか、その理由を考えろ。



どうだ?面白い話だろう?」


私は絶句した…


神と悪魔の境目ってどこ?

いや、元々悪魔は天使だ。あれ?違ったかな…

悪魔がジメジメした暗い場所で悪さをしているなんて人間の勝手なイメージなのかも知れない。

現に私は悪魔から沢山の勇気と力を貰った。

そして私は悪魔の話してくれた軍神に1票!領主だろうがなんだろうが民の将来を踏み躙るなんて絶対に許せない!大手だろうとなんだろうとみんなで頑張ってる仕事を踏み躙るなんて絶対に許せない!


「あんなヤツに絶対負けない!来たれ!軍神!」


私は悪魔の前で元気にガッツポーズで叫んでいた。



その時、深夜に珍しく田中さんからの電話が鳴った。

「はーい、田中さん。どうしました?こんな遅く…」



「…み、水菜…遅くにすまん…ふ…ふ、藤田が…」
















あくまでフィクションです。

実在する名称、会社名、人物等とは一切関係ありません。

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