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後編

「ようマリィ、依頼が入ったぜ」


「……」


「おーい、マリィ? 聞こえてるか?」


「……はっ!? あ、ごめんごめん! 依頼?」


「そうだよ、今回はちょっと面倒だからシャンとしててくれよ? ま、お前なら大丈夫だと思ってるけどな」


「分かったよ、ほんとにごめんね?」


「良いって。俺達は二人で一つなんだ、お互いカバーし合えば問題ねえって」


 あれから半月程経ったとある日の夜更け、俺の部屋にて。

 結局のところ答えは未だに出ないままだがマリィとはほぼ前の状態と同じ程度に気安く話せる関係に戻っていた。

 ただ一つ問題があるのを除けば、だが。


 今の会話でも分かる通り、マリィがどこか上の空になりがちになっているのだ。

 原因は……まあ、その半月前の事が尾を引いてるのだと思う、それ以外にはいつも前向きなコイツからは考えられない。


「うん、ありがとね。それで、内容は?」


「今回は王宮直々だ。隣国との国境まで『隣国王宮に対して友好の証として贈るドラゴンの卵の輸送』をしてほしいとさ」


「王宮直々……珍しいね」


「隣国との関係性を確たるものにする為に確実に運べる冒険者パーティとして『最強コンビ』の俺達が選ばれたらしい、極秘だったからまず俺一人が秘密裏に呼ばれたって」


「なるほど……うん、分かった。輸送方法は?」


「馬車だとさ。無詠唱魔法の使える俺が手網を引いてマリィが馬車の中で卵の入ったケースを保護、この形で行くらしい」


「りょーかい!」


 少し心配だが気にしていてもキリが無い、半月ダメだった事に引っ張られていてもどうしようもないからな。

 それはさておき今回かなり大きめの依頼が入った事もありこうして街が寝静まった夜にこっそりと会議をしていたりする。

 二人きりの夜というのが不思議と何ともむず痒く、それでいて心地良く感じてしまうのが俺の心を謎目かせ、それでいて高揚させてしまうが嫌……では無い、まあ真面目な話をしているから表には出さないが。


 今まで無かった感情というだけあり、妙に落ち着かないのを誤魔化し咳払いし振り払う。


「どしたの? 風邪?」


「いやねーよそれは、俺は風の子と呼ばれるくらい元気なんだぞ? ……ちょっと考え事してたんだ、気にすんな」


「えー? 何考えてたのかな〜気になっちゃうな〜」


「だーやめろやめろ! ニヤニヤしながら手をワキワキさせて近付いてくるな! お前は変態オヤジか!」


「変態オヤジとは失敬な〜、私はちょーっとイタズラしたくなっちゃっただけなんだもんっ」


「もんっじゃねーよ! 可愛く言ったってやらせませんよ! ハウス!」


 それが結果として話を区切らせ空気を緩くしてくれたのでまあ結果オーライという事にしておくが。




 



「では、宜しく頼みますよ。報酬は弾ませてもらいますからね」


「任せてください!」


「必ず成功させます」


 そして任務当日。

 まだ日が昇る少し前に王城まで出向きそこで任務を知る数少ない一人のお偉いさんと合流、事情は分かっていないものの重要任務の為と言われ念には念をで数人腕利きの兵士が部屋の外を護衛していたりするので任務の重要度が知れる。


 なんでも隣国に贈る理由は戦力強化らしく、成功すれば即専門のブリーダーも送り込むとか。

 その為送り込まれる卵は二つだ、野生のドラゴンが生息しておらず文化の馴染みが少ない国に管理下とはいえドラゴンを繁殖、育成、ブリーダーも育成させる文化を作るとは思い切っている。


 何はともあれ、本国と隣国二つの今後の情勢を担う任務だ。

 気合いの入り方も違ってくるというものだ。


「……くれぐれも貴方達だとはバレない様に」


「……それで俺とコイツはこういう格好なんですか」


 俺は事前に銀髪になる簡易変装術式とメガネ、マリィは赤髪のツインテールウィッグにワインレッドの伊達コンタクトを装着している。

 俺達は強いのは良いが隠密作戦となると少々知名度が弊害になるのでたまにこういう変装でバレない様にしている。

 俺が変装術式でマリィがウィッグなのは……男用のウィッグは派手なのばかりでどうにも用意出来なかったんだ……ったく、もう少し地味なものがあれば良いものを。


「知名度がありますからね、王宮にその噂が伝わるくらいには」


「ほえ〜……私達意外と有名?」


「意外どころじゃないっての……とにかくバレない様に細心の注意を払います。それではそろそろ出立の時刻なので……行くぞマリィ」


「あ、うん」


 お偉いさんに深々と頭を下げ、跨り馬車を走らせる。

 まだ昇らない朝陽の代わりに、俺の炎魔法だけが夜闇を照らし出していた。



 





 乗ってきているのは小型の馬車とあり速度は普通の馬車と比べても想像通りの鈍行だがこれもまた良いと思えるのがこの任務の良いところだろう。

 大きな任務とはいえ邪魔立ての無い二人旅、久々にしばらくの間相棒と二人きりで過ごせる心地良さに思い切り身を委ねられるのは幸運だ。


「なあマリィ」


「なぁに?」


「久々だよな、こうして二人きりで旅するの」


「ふ、ふたっ……も、も〜何言ってるの? 旅って言っても見知った土地じゃない」


「良いんだよ、それでも。俺はお前と旅をするのが何よりも好きなんだ。気心の知れた、心の通じ合える唯一無二の心友で相棒との旅がさ」


「……クラウスって鈍感だけど言う事ストレートだよね」


「そうか? ……ま、お前にだからストレートに物事伝えても大丈夫だって思ってるからかもな。お前と……後はあのキザ野郎以外にはそうそうこんな言い方しねーよ」


「あはは、ありがとね。……うん、クラウスのそういうところがやっぱり……」


「ん、どうした?」


「へ!? いや、なんでもないっ」


「お、おうそうか……」


 ちょっとだけ前までとは距離感が変わった様にも感じるが、まあ何にせよマリィとの二人での旅はいつだって世界一心地好いものだ。

 以心伝心の仲として過ごしてきただけあって、無言の時間ですら何もしていないのに相手の気持ちだけはちゃんと伝わってリラックス出来る、それ以外何一つ喧騒も雑音も無い空間というのはそれ以上に至福と言えるものが無い程だ。


 そんな空間も最近は多少ばかりご無沙汰だっただけに、尚更話も弾んでしまう。

 本来ならば重要任務中だからともう少し肩肘を張った空気感を出さないといけないのだろうが……俺達にそんなのは似合わないからな。


「ずっとこんな感じで、いられたら良いのにね」


「だな。今日ばかりは平和でいたいもんだ」


 いつもならもっと好戦派ではあるが今日はさっきも話していた通り大切な一日なんだ、このまま任務を終えたいんだが……



「…………はぁ。そうとも言ってられないらしい」


 どうにも今日はツイてない日らしい。

 あと少しで国境というところの森林地帯、面倒な事にここを抜けないと国境には辿り着けないという謎構造をしている。

 そこまで深い訳ではないからいつもは問題無く通り抜けられていたのだが……どうしてこういう日に限ってなんだか。


 目の前に潜伏していたであろう盗賊集団が飛び出して馬車を囲んだ。


「死にたくなきゃ荷物をぜんぶ置いていきな」


「……この人が運んでるのは私とその私物くらいなもんだよ? 他には何も無いし、金品になるものも無いけれど」


「ちょっとした旅をしているだけなんだ、通してくれないか?」


「だったらその私物と馬車も置いていきな」


「それは無理な相談だな、何せこの私物は大切な物ではあるが金にはならない。渡すメリットが無さ過ぎる」


「折角ボスが慈悲を与えてくれてるってーのによォ……そりゃねえんじゃねえの〜?」


「そうだそうだ!」


「そんな事で引き下がる訳にはいかないんだよ。アタシの勘が告げてるのさ……その箱からは金の匂いがする」


 ……どうにかして説得してお帰り願いたかったが無理そうだな。

 金にならないは嘘じゃ無いんだがな……勿論、貴重過ぎるという意味でだが。

 中途半端な勘を発動させるボスと呼ばれる女に内心呆れつつ馬車を降りる。


「仕方ない……やるぞマリィ」


「……本当は話し合いたいんだけどね」


 俺とマリィはそれぞれメリケンサック、ロングソードを構える。

 俺がインファイト専門、マリィが中長距離専門でそれぞれ長所を活かしつつ弱点を消して無敵だったのだ。


「へぇ、やろうってのかい?」


「こちとら十人いるんだぞ! 勝てっこねーよ!」


「それはどうかな」


「やっちまいなアンタら!」


 問答無用で飛びかかってくる盗賊を交わしながら手加減して尚且つしっかり気絶させられる様に拳を叩き込む。

 相棒と背中合わせで戦うのも久々だ。


「へぶっ」


「ぐえっ」


「あひんっ」


「うぶぇあ!」


 マリィも真正面から来る敵に対して峰打ちでしっかりとしばらく立てない様にするカウンターを決めている、うんいつも通りだ。


「オイオイコイツら強くないか!?」


「な、なんなのさアンタ達……!?」


「てーか俺、この特徴的な紅いメリケンサックと蒼いロングソードに見覚えあるんだけど……どこで見たんだっけ……」


「ええいそんなのどうでも良い!! とにかく何とかして倒すんだよ!」


「無茶言わんでくださいよ! こんなアホみたいに強いのにどうしろって……うぎゃっ!?」


「あー……今なら警邏隊に引き渡すだけで許してやるがどうだ?」


「諦めた方が良いと思うよ。私達強いから」


 ボスに関しては正直これと言って動いてないし、これ以上やっても無駄に怪我させるだけだ。

 だったらさっさと降伏させるのが得策だろう、と提案をしてみる。


「ボス、流石に無理ッスよ! ここは大人しく諦めましょうよ!」


「ぐぅっ……な、なら私物も馬も良い! その女だけ渡せ! それならどうだ!? お、女なら山の数程いるはずだ! そんな女の一人くらいいなくなっても」


「ボスゥー!?」


「……ッ」


「今……なんつった?」


 しかしボスの女の発言でそんな事どうでも良くなった。

 今コイツは言ってはならない事を言った、それだけが俺の目前へと叩き付けられたその事実だけしか見えなくなった。


「……く、クラウス?」


「だ……だからそんな女如きいくらでも……」


「ふざけるなよ……! マリィは俺の大切な存在なんだよ! 生まれてからずっと一緒に育ってきて一緒にコンビ組んで、言いたい事も何でも言い合えて、心の底から信頼してて、二人でならやれない事は無いって……! 大切な、唯一無二の相棒なんだよ!」


 気付けば言葉が自然と口から零れていた。

 今までならそんな挑発にも似た言葉なんて一蹴していただろう、だが何故だか今は言い返さないと気が済まなかった。

 そして心の内に、感じた事の無い感情が芽生えて――いや、もしかしたらずっと想っていた事なのかも知れない。

 でもずっとその感情をどう言い表せば良いか分からなかった、それだけなのかも知れない。


 だが分かったんだ、俺の中でモヤモヤしていた事の答えが、もう一人の幼馴染に真剣に相談する程の気持ちになっていた答えが。

 もしもマリィが俺の前からいなくなったらとコイツに言われた事が脳裏に過ぎった瞬間に、俺の感情は爆発した。


 本当なら躊躇していたその言葉は、皮肉にも激昂している俺の口から躊躇無く零れ落ちていた。


「そんで世界一愛してる女なんだよ!!」


「ええ!?」


「ああ今まで気付かなかった俺がバカみたいだがな、マリィは一生俺の傍にいてほしいんだよ! 俺の前からいなくならないで欲しいんだ! ずっと隣にいて、たまに旅をして、幸せに暮らしたいんだ! だからなあ……俺の大切な女は世界で一人しかいねえんだよ!!」


「わっ……わっ……そんないくら盗賊と言っても人の前でそそそそんな……」


 感情任せの勢いとはいえ言った、言い切ってしまった。

 この後の答えがどうなるとも分からない中でこんなドストレートに言ってしまった事に、一つ深呼吸を着いて少し冷静になりまずいと思いつつも戻れないと腹を括って一歩前に出る。


「ひぃっ……」


「あ……ああ! 思い出したぁ! く、クラウスとマリィってこの国最強と謳われてる無敵のコンビじゃ……」


「思い出した様だな? じゃあ死ぬかぶっ殺されるのどっちが良い?」


「ぼ、ボスは差し出すから命だけは!!」


「ちょ、流石にやりすぎっ」


「……フン、お前ら雑魚はそのままお縄に付いとけ。この女だけは……もう一発ゥ!」


「おごぉ!?」


「これで勘弁しといてやる……マリィ、縛るぞ」


「あ、う、うん……」


 色々やらかしてしまった八つ当たりなんかも込めた一発だから骨は数本折れただろうが生きてはいるだろ、うん。

 俺はそっぽを向きながらマリィと盗賊達を縛っていくのだった。



 



 



「……ねぇ、クラウス」


「なんだ?」


 その日の夜。

 盗賊達は警邏隊に渡したものの少し時間を食ってしまったので森を抜けた先にある近くの宿で一泊する事となった。

 宿の主が気を無駄に利かして同じ部屋にされてしまったのは幸か不幸かといったところだが、それよりも改めてこの気持ちに決着を付けられる場面があるのであればそれはそれで良いのだろうと少しヤケクソ気味になりながらも応える。


「……その、盗賊達に言い放ったあの言葉」


「まあ……そうなるよな」


「嘘じゃない……? 私を気遣っての発言とかじゃ……」


「……ねーよ。あの時、お前が俺の目の前からいなくなったらと思ったら……その、胸が苦しくなって。お前の、マリィの笑顔を一生隣で見ていたいと思ったこの気持ちが『恋』なんだって本能的に気付いたんだ。この心地良さもきっと、マリィを好きでいるから、異性として愛しているから出来た気持ちなんだって、さ」


 顔が真っ赤になる。

 昼の出来事は恥ずかしさより怒りの方が先行していたから問題無かったが、こう面と向かって言うとどうしても照れが来てしまう。

 だがそれで引っ込みの付く感情でない事もまた、分かっていた。


 言ったあの瞬間から、心の奥底が熱く燃えたぎって。

 押さえ付けるにはあまりにも大き過ぎるそれは、波の様に押し寄せてきて。


「なあ……マリィはどうなんだよ。俺の事、どう思ってる?」


 答えを聞くのは少し怖い、がここで聞かない選択肢は無かった。

 聞かなかったら一生後悔する、そう断言出来る確信すらあった。

 だから目を逸らさず答えを待つ。


「もう……気付くの遅いよっ」


「私もね、少し前からクラウスを見ると顔が熱くなったり胸がドキドキしたりしてね。だからおんなじ様に相談してみたんだ……そしたら、それは恋なんじゃないかって」


「……っ」


 まさかマリィまでアイツに相談していたとは。

 いや、それよりも今なんて言った? 恋……だと……? 

 意識するとますます目を逸らせなくなっていた。


「考えてみて、クラウスが目の前からいなくなったらって思ったら凄く怖くなっちゃって……同時にずっと二人でいたいって思って」


「じゃあ……」


「うん。私もクラウスの事が好き。愛してる。ずっと隣にいたから気付くのが遅れちゃったけど……この気持ちは本物だよ」


 そうか……マリィの様子がおかしかったのは、こういう事だったのか。

 それが分かると、俺はマリィを抱き締めていた。


「様子がちょっと前からおかしかったから心配してたんだぞ……まさかこれが答えだとは思わなかったけど安心した。大好きだ、愛してるよマリィ」


「うん……」


 それは新しく加わる関係性の始まりで。

 

 多分付き合い方はそこまで大きく変わる事は無いんだろう。

 これまで通り、俺達は幼馴染で、相棒で――


「ね、キス……しよ?」


「ああ……」


 だが、それでいて少しだけ、少しずつ、変わっていくのだろう。



 俺達は――世界一幸せな恋人なのだから。



 



 



 その後、任務を終えた俺達がアイツから「ようやくくっ付いたのかよ、世話の掛かる幼馴染達だよ全く」と言われながら祝福されたり街の人々から生暖かい視線を感じる様になったり、マリィが既に挙式の予定を組もうとしていたりとある意味ドタバタとした日常を送る事になるのだが……それはまた別の物語で話すとしよう。


 今はただ、この幸せに身を委ねていたいから。


fin

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