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8話。ヘルメスに振られた幼馴染が突撃してくる

「ああっ! やっぱりロイ様は最高のパートナーです! さすがは史上最強の錬金術師ですわ!」

「ぶぅううう!? レナ王女、さっきから胸が俺の腕に当たって! 離れてください……!」


 俺たちはB級ダンジョンをクリアして意気揚々と、街に戻ってきた。

 レナ王女はなぜか俺に寄り添って、ピッタリと密着してくる。街の人たち、特に冒険者からの嫉妬混じりの視線が痛い。


「くそぉおおお! なんでEランクのロイが、俺たちの憧れのレナ王女と!」


 なんて憎悪の声がチラホラ聞こえてきた。

 悪目立ちしているので、レナ王女には離れてもらう。


「今回俺はちょっとバフ魔法で、レナ王女の能力値を底上げしただけですよ」


 いつもティアにやってあげていたことだった。

 俺がまともに使える魔法は、これだけだからな。


「ご謙遜を。史上最高のスタッフである【クリティオス・カスタム】から放たれるバフ魔法は、天の福音のようでしたわ! 身体が嘘のように軽くなって。こんなに簡単にダンジョンをクリアできたのは、初めてです!」

「レナ王女がひとりで魔物を蹴散らしてくれたおかげで、俺も助かりました」

「ふふっ、前衛を完璧にこなせるのは、この究極の防具【ディストーション・アーマー】のおかげです。ロイ様のお力なくしては、わたくしはSランク冒険者になどなれませんでしたわ」


 今までコンビを組んでいたティアは聖女。聖魔法に特化した後衛職だったため、俺はバフだけでなく、敵を引き付けるタンク役までこなさなければならなかった。


 レナ王女は前衛をこなせる魔法剣士であるため、俺はバフだけに集中できた。

 なんともありがたいことだ。


「その鎧はかなりの魔力を消費します。使いこなせるのは、レナ王女だからですよ」

「ありがとうございます! ロイ様から贈られたこの究極の鎧にふさわしい冒険者になれるように、日々精進してきました。お褒めいただき、光栄ですわ」

「そうですか……て、照れるな」


 こんな風に褒められたことはなかったので、赤面してしまう。

 ティアは俺がちょっとでもミスをしたり、うまくいかないことがあると容赦なく罵声を浴びせてきた。


 それが無い。しかも、俺の貢献を褒めてくれる。

 それで、心がこんなにも晴れやかになるとは思わなかった。

 無自覚だったけど、今まではだいぶストレスフルな環境にいたんだな……


「大好きなロイ様のお役に立てるように、わたくしは、もっもともっと精進いたします!」


 微笑むレナ王女が天使すぎる……っ!


「そんな。レナ王女に荷物運びまで手伝ってもらって恐縮です」


 俺とレナ王女のバックパックには、大量の戦利品がぎっしり詰まっていた。

 魔物の角や爪、毛皮は、薬や武具などの素材となる。これを冒険者ギルドに持っていけば、換金してくれるのだ。


「……戦利品を一緒に運ぶのは、当然かと思いますが?」


 レナ王女はキョトンと小首を傾げた。


「いえ、ふつうはパーティの最下層の人間が、荷物運びや換金といった雑務をやらされるものですよ。上位パーティの中には、荷物運び専門のメンバーを雇うところもありますが……」


 【荷物運び】は、最底辺のクラスだと蔑まれている。俺は冒険者ギルドに、【荷物運び】として登録していた。

 正体を隠す以上、錬金術師を名乗る訳にはいかないからだ。

 【Eランク】で【荷物運び】となれば、軽んじられるのは必定だった。


「そうなんですか? わたくしはずっとソロで活動していたから、知らなかったです。よろしければ、先輩冒険者のロイ様から、もっともっと学びたいです!」

「ええっ!? 俺なんかが、Sランク冒険者のレナ王女に教えることなんて、何もありませんよ」


 レナ王女は2年前に冒険者になって、破竹の勢いでSランクまで登り詰めた真の天才だ。


「そんな。わたくしなど、ロイ様に比べれば、世間知らずの小娘に過ぎませんわ。今まで、お父様から『悪い虫がつくと困るから、ソロで活動しろ!』と言われてソロ冒険者をして参りましたので、Sランクと言っても知らないことの方が多いのです」


 多分、国王陛下としてはレナ王女がソロ活動に限界を感じて、そうそうに冒険者を辞めることも期待していたのだろうな。


「魔法界の革命児とまで謳われるロイ様から、少しでも多くのモノを学ばせていただければ、うれしいです。よろしければ、今夜はふたりっきりで、ゆっくりと語らいませんか? どうか、無学なわたくしをお導きください」


 レナ王女は、はにかみながら再びピッタリと身体を寄せてきた。

 甘い吐息が俺の首にかかって、体温が急上昇してしまう。


「い、いえ、でも未婚の男女が、夜に同じ部屋にいるのは……姫様との間に、何か間違いあっては困りますし」

「わたくしたちは婚約するのですから、良いではありませんか?」


 そ、それは俺との間に、間違いがあってもOKということだろうか?

 思わず、生唾を飲み込んでしまう。


「ティア様がいたから自重してきましたが、わたくしはロイ様と、ずっとこうなりたかったのですよ?」


 レナ王女は瞳を潤ませて、唇を寄せてきた。

 えっ、こ、これって、まさか……

 その時だった。


「見つけたわよ、レナ王女! よくも、よくも! 私を差し置いてヘルメス様と婚約しようだなんて、絶対に許せないぃいいい!」


 髪を振り乱し、般若の形相となったティアが爆走してきた。


「ティア!?」

「ロイ!? えっ、なんであんたたち、白昼堂々、イチャついているのよ!?」


 ティアは憔悴しているようで、目の下にクマができていた。

 しかし、怒りのオーラは、ギラギラと強烈に噴き上がっている。


「……ティア、もしかして、ヘルメスに婚約破棄されたショックで、休めていないのか?」


 俺はつい口走ってしまった。


「ぐっ!? な、なななんで、そのことを、あんたが知っているのよ!」


 ティアは頭をかきむしって絶叫した。

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