74話。幼馴染がルーチェを救う
アスモデウスが爆発し、巨大な火柱となった。
炎の照り返しを受けた超竜機神は、活動限界を迎えて4体に分離する。
『やりしまたぁああああ! 敵機の消滅を確認! 私たちの勝利ですぅううッ!』
作戦司令室からお祭り騒ぎのような歓声が聞こえてきた。
『はわぁあああっ! ロイ様、やりましたね! わたくしたちの愛が奇跡を起こしたんです!』
『私とお兄ちゃんの愛の絆が勝利を呼んだんだよ!』
レナ王女とシルヴィアが、はしゃいでいる。
両親の仇であるランディを倒すことは、俺の悲願だった。だが、とても浮かれた気分にはなれない。
俺の膝の上のルーチェが、血を吐いていたからだ。
「ルーチェ!? すぐに工房に戻って治療を!」
俺は激しく動揺した。ルーチェに無理をさせすぎてしまったことを、いまさらながらに後悔するがもう遅い。
作戦司令室でもルーチェの異変に気づいて、悲鳴が上がる。
「……マスター、申し訳ありません。私はここまでのようです」
ルーチェは俺にもたれかかりながら、すまなそうに告げた。目の焦点が合っていなかった。
「この血……まさか、身体が悪いのをずっと隠していたのか!?」
そうとしか考えられなかった。
天使の力を限界まで使っただけでなく、元々、内臓に先天的疾患を抱えていたのだ。そうでなければ、こんな量の吐血はあり得ない。
検査は入念にしていたつもりだったが、俺は医学の専門家ではない。本人の申告がなかったため、見落としてしまったらしい。
「はい。元々、私は半年くらいしか、生きられないモノと覚悟していました。それなら工房の培養液の中ではなく、マスターの隣で思い出をたくさん作って死にたかったのです」
「ぐっ……」
俺は二の句が継げなかった。
確かにルーチェの身体に欠陥があることに気づいたら、俺は彼女を培養液の外には決して出さなかっただろう。
「マスターとシルヴィアと、一緒に食べた王都のクレープがおいしかったです……最後に、マスターたちを守れて、私は幸せでした」
ルーチェは微笑んだ。
その顔が、8年前に死んだ母さんに重なった。
俺は強くなったハズなのに、また母さんを守れなかった。
ルーチェの自己犠牲の精神は、天使に昇格した母さんの魂を受け継いでいるからだろう。
「ルーチェ、まだ諦めるな。ちゃんと治療をすれば……ッ!」
元々、生きているのが奇跡であるホムンクルスだ。具体的に身体のどこに異常があるかわからない以上、ルーチェが助かる見込みはゼロに等しい。
それでも、俺は足掻かずにはいられない。
俺は空間転移で錬金術工房に戻るべく【クリティオス】を取り出す。
「待ってくださいマスター。どうか旅立つ時は、マスターの腕の中で……」
「ルーチェ……」
死期を悟ったルーチェは、それを静かに拒否した。
「わかった。それがルーチェの最後の願いなら」
『ロイ、もしかしてルーチェが大変なの!? お願い、ハッチを開けて!』
ティアが何やら腕を振り上げて叫んでいた。
いや、待て。そうだ、まだ最後の希望が残っている。
藁にもすがる気持ちで、俺はハッチを開けた。
「頼むティア、ルーチェを助けてくれ!」
「うん、もちろんよ!」
すぐに、聖竜機バハムートの手に乗ったティアが飛び込んでくる。
「ルーチェ! あなたのおかげで助かったのよ。まだお別れなんて、したくないわ!」
ティアはルーチェの顔に手を添えた。
「聖竜機バハムート、力を貸してちょうだい 【オール・ヒール】!」
聖竜機の回路を通じて、何倍にも効果が高められた回復魔法が、ルーチェに注がれた。
怪我人を1000人単位で、全快させることもできるような聖なる輝きが満ちる。
「……だめなのか?」
しかし、ルーチェの吐血は止まらない。
「それなら……ロイ、【ドラウプニルの指輪】を!」
「何? まさか、さらに回復魔法の効果を高めるつもりなのか?」
指輪なら、ルーチェが持っている最後のひとつが残っている。
「だけど、想定をはるかに超える魔法の増幅は、術者に大きな負担をかける。そんなことをしたら、ティアもタダじゃすまないぞ。下手をしたら、ショック死する可能性すら……」
「ぐぅ……! だ、だけど、今ここでやらなきゃ、多分、一生後悔するわ。お願い、やらせてロイ!」
真摯な瞳でティアは俺を見つめた。
まさに聖女と呼ぶにふさわしい顔つきに見えた。賭けるしかない。
「……わかった。頼む、ティア」
「ありがとう! あなたが力を貸してくれるなら、きっと私はなんだってできるわ!」
指輪をルーチェから外して、ティアに手渡す。
「お願い指輪よ、ルーチェを助けて!」
光が爆発した。それこそ、天使が降臨したかと思うような高密度な回復魔法の輝き。
祈る気持ちで、俺はふたりの少女を見守る。
「あっ……」
ルーチェが目を開いた。
死人のように白くなっていたルーチェの顔に、血色が戻る。
「……ティア、あなたは後先、考えな過ぎだと思います」
「「ルーチェ!?」」
俺とティアの驚きの声が重なった。
ルーチェが静かに身を起こす。
「信じられません……主に招かれたと思ったのですが……」
「戻ってきてくれたのね!」
ティアがルーチェに抱き着いた。
「ルーチェ、良かった。本当に大丈夫なのか? すぐに検査を」
「はい、マスター、ずっと堪えていた痛みが引いています。嘘、みたいです……」
「ずっと痛みに耐えていたのか。そんなこと、まったく気づかなかった。これからは、頼むから隠し事はしないでくれよ」
「はい。マスターもティアに正体を明かした訳ですしね」
ルーチェは微笑んだ。無垢な少女のようにも、俺を見守る母親のようにも見える不思議な笑顔だった。
同時に、ティアがその場に糸の切れた操り人形のように崩れた。
「おい、ティア!?」
俺はティアを抱き起こす。
「……マスター、大丈夫です。ティアは力を使い果たして、気を失っただけのようです」
ティアの顔を覗こんだルーチェが告げた。
「そ、そうか……良かった」
まさか、あれだけ魔法増幅の重ねがけをして、気絶するだけで済んだのか?
……もしかすると、ティアは聖女としてスゴイ才能を秘めているのかも知れない。
『お兄ちゃん、大丈夫なの!?』
『ロイ様、救護班の準備、完了しましたわ!』
シルヴィアとレナ王女が通信を送ってきた。
「ああっ、大丈夫だ。ルーチェも、ティアも無事だ」
ようやく、勝ったという実感と喜びが湧いてきた。
誰ひとり欠けることなく、俺たちは帰ることができるんだ。
雲が切れて晴れ間から、明るい日差しが機神ドラグーンに注がれていた。
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