71話。3体合体。聖竜剣バハムート
「来たれ、地獄の門【ハデス・ゲート】!」
機械仕掛けの悪魔【アスモデウス】の眼前に、巨大な黒い穴が出現した。
「なにぃいいいッ!?」
海竜機神の放った【氷海のブレス】は、その穴に吸い込まれて無効化されてしまう。
周囲の空気まで、底なし沼のような黒い穴に引き寄せられ、木々がしなった。
「はぅ!? なんなのよぉお!?」
ティアが近くの岩にしがみついて、吸い込まれそうになるのを堪えている。
「マスター、あれは別次元に通じる穴のようです」
「まさか……」
「ハハハハハッ! 今のを喰らったら、さすがにタダじゃすまなかったからな。俺も奥の手を使わせてもらったぜ」
黒い穴が消え去る。あとには、無傷のアスモデウスがそびえ立っていた。
『うぅううううっ……! ロイ様、すみません。今ので、ほとんどの魔力を使い果たしてしまいましたわ』
レナ王女が荒い息を吐いている。
無理もない。S級ダンジョンの攻略で、かなりの体力、魔力を使ったあとでの決戦だ。
もう【氷海のブレス】は使えそうにない。
「ヘルメス! いや、ロイと呼ぼうか? 【クリティオス】だけに飽き足らず、【人造聖剣】に【人造聖女】。父なる神の領域をここまで踏み荒らすとは、やるじゃねぇか? 悪魔にだって、こんな不遜なマネはできねぇよ」
ランディが楽しげな声を出した。
「お前が【神の血を引く者】なら、外法の探求者として、良いお仲間になれたかも知れねぇな?」
「……ふざけるな。すべては、お前を倒すために手に入れた力だ」
俺は歯軋りして、アスモデウスを睨みつける。
「ソイツは光栄だな。だが、お前の才能を危険視した【薔薇十字団】の見立ては当たっていたって訳だ。お前の才能は、いずれこの世界のバランスを狂わせ、世界を破滅に向かわせるだろう。そんなヤツを刈り取るのが、この俺の役目って訳さ」
斜に構えたような口調で、ランディは告げた。
「人の域を超えたお前の才能は、危険過ぎる。今回は見逃す訳にはいかねぇな。お前の妹やこの国も含めて、ヘルメスに関わった者は、俺がきれいサッパリ掃除してやる。それで、世はこともなしだ」
「……まさか、俺だけじゃなくて、この国を滅ぼすつもりか?」
王宮を外国の使節ごと破壊しようとしたコイツらならやりかねない。
「機神の開発データなんてモンが残っていたら、危ねえだろ? 特に俺たちが肩入れしている皇帝陛下は臆病でな。ヘルメスのおかげで急成長したアーディルハイド王国には、地上から消えてもらいたいんだとよ!」
クソッ、俺が負ければ、みんな殺されるということか……
「ハハハハハッ! バカな権力者は御しやすくてイイぜ。おかげで、【薔薇十字団】の幹部どもも世界の支配者を気取っていられるって訳だ!」
「勝手なことばかり言いやがって。お前の思い通りになると思うなよランディ!」
「ハッ! 最大の攻撃が通じなかったお前に、何ができる?」
ランディはすでに勝利を確信して、余裕だった。
「ロイ、お願い! 聖竜機と……私と合体して!」
その時、俺たちのやり取りを黙って見ていたティアが叫んだ。
もうヘルメスの正体はバレてしまっていた。
「あの力──【因果逆転斬】なら、ランディに勝てるわ!」
確かにそれなら、可能性はある。あれは防御も回避も不可能な攻撃だ。
なにより、ティアを主に据えた聖竜機は、以前よりもパワーアップしていた。
「ロイはもう私のことなんて嫌いかも知れない。でも、私はこの村を……お父さんを、なによりロイを失いたくないの!」
ティアは真摯な表情で、俺を見上げた。
「おじさんたちを、ティアを失いたくないのは俺も同じだ」
「ロイ! やっぱり、あなたはロイなのね!?」
俺はボイスチェンジャーなしで、ティアに語りかけた。
ティアは雷に打たれたように身を震わせる。
「ごめんなさい。ロイはずっと私を守ってくれていたのに。私はあなたをバカにして、わがままばかり……!」
「いいんだ。家族を失った俺を、ティアが救ってくれた。そんなティアを俺は好きになったんだからな」
「えっ!? こんな私のことを、今でも好きでいてくれるの……?」
怯えた子犬のようにティアは、俺に尋ねる。
「もちろんだ。大切な幼馴染としてな……」
ティアは命がけで、シルヴィアを守ってくれた。
もはや傲慢な聖女としての面影はティアにはない。かつての無邪気さ、優しさが戻ってきていた。
「幼馴染!? ありがとう。それが聞けただけで、十分よ。私はこれからも、ずっとロイの幼馴染でいられるのね!?」
「ああ……っ!」
ティアは大粒の涙をこぼした。
『これは!? 聖竜機とドラグーンの【竜融合】の成功率が上昇しています!』
作戦司令室の少女オペレーターが、歓喜の声を上げた。
『合体成功率、15%、32%、45%……! な、なおも上昇中! すさまじい数値です!』
俺とティアの信頼関係が深まったため、合体成功率が爆増していた。
『合体成功率100%! 今までに無い数値です!』
もはや、俺たちの間に隠し事はない。
その上で信頼関係を結べたのなら、俺たちは、きっともう一度、やり直せると思う。
弱さも愚かさもすべて見せ合った俺たちなら。
「よし、やるぞティア!」
「うん!」
「「【竜融合】! ゴォォオオ! 【聖竜剣バハムート】!」」
俺とティアの魂の叫びが重なった。