70話。レナ王女と再び合体する。究極の氷魔法
アスモデウスの大剣を受け止めた機神ドラグーンの両腕が砕け散った。
「うぉおおおおッ! ルーチェ、【時間回帰】!」
「了解です」
俺の膝の上に乗ったルーチェが、【時間回帰】能力で、ドラグーンの両腕を瞬時に復元する。
本日、2度目の【時間回帰】行使だ。
ルーチェが霊体となって、ティアを救いに駆けつけてくれたことは、すでに把握していた。
地上のすべてに遍在するという天使としての感知能力で、ルーチェはランディの裏切りとティアの危機を察したのだ。
だが、天使としての力を使ったためか、ルーチェは死人のように血色が悪くなっていた。
魂と肉体の結合に、不具合が起きているのかも知れない。
「がぁああああか!? て、てめぇええ!」
機神ドラグーンの左手──人造聖剣【ホーリー・ファング】を、アスモデウスに思い切り突き立てる。
アスモデウスは大剣でガードしたが、刀身をへし折って装甲を貫いた。ヤツはたたらを踏んで後退する。
同時に【ホーリー・ファング】が、腐食したかのようにボロっと崩れた。
「なにぃ!?」
「……マスター、敵機を覆う黒いオーラの効果です。触れた物質や魔法を分解してしまうようです」
計器類を見つめるルーチェが、驚愕の分析を口にする。
なんだ、それは。【空間歪曲コート】を超える攻防一体の防御兵装じゃないか。
「ちぃ! まさか、こうも早く戻ってくるとは予想外だったが。機体性能の差は、歴然だと理解したか?」
ランディが見下したような笑い声を上げる。
「……答えろ。お前が8年前に俺の両親を殺した男か?」
地上との通信が回復した際、シルヴィアからそのことを教えられた。
シルヴィアはあれほど嫌っていたティアを助けて欲しいと懇願してきた。無論、それは俺の望むところだ。
コイツには、もう誰ひとりとして殺させはしない。
「ハハハハハッ! その通りだ。これは8年前の続きって訳だ。言っておくが、俺が完成させた【アスモデウス】は最強の機体だ。お前がどう足掻こうが、勝ち目はねぇ。もう守ってくれる母親もいねぇしな」
「そうかな。やっと会えたな。お前をぶっ倒して、シルヴィアの足を治す。俺はすべてを取り戻すんだ!」
母さんなら、ルーチェに姿形を変えてここにいる。
8年前、母さんのおかげで俺は生き延びた。
今度は俺がシルヴィアやルーチェ、そしてティアを守り抜いてみせる。
「ロイ様! わたくしと合体を!」
レナ王女が海竜機と共に、空間転移してきた。
空間に激震が走ると同時に、海竜機の巨体が大地を踏みしめる。
「よし、やるぞレナ!」
「はぃい!」
今の俺には頼れる仲間がいる。
こんなヤツに決して負けはしない。
『「【竜融合】! ゴォォオオ! 海竜機神リヴァイアサン!」』
機神ドラグーンと海竜機が天に飛び上がる。
海竜機がパーツに分解され、ドラグーンの追加武装や追加装甲としてドッキングした。
「うぉおおおおお──ッ!【海竜機神リヴァイアサン】!」
2機が合体し、蒼く輝くボディの海竜機神リヴァイアサンとなる。機体に絶大な魔力がみなぎった。
「マスター、【氷海のブレス】なら計算上、敵機の防御兵装を突破して、ダメージを与えられそうです」
『こちら作戦司令室です! こちらでも敵の分析をしていますが、ルーチェさんと同意見です!』
ルーチェと作戦司令室の少女オペレーターが、同じことを告げてきた。
【ホーリー・ファング】がヤツにダメージを与えられたことからも、敵の防御は完璧ではないことがわかる。
「ロイ様、行きます! 全魔力、投入!」
レナ王女が膨大な魔力を海竜機神に送り込んでくれる。
出し惜しみはしない。初手から最強の技で勝負だ。
「砕けろぉおおおお【氷海のブレス】!」
絶対零度のドラゴンブレスが、海竜機神の口腔から撃ち出された。
触れれば、すべての物質の分子結合を崩壊させてしまう、究極の氷魔法だ。