６６話。悪魔支配者（デーモン・ルーラー）
【聖女ティア視点】
「さーっ、悪魔ども、来るなら来なさい！ ヘルメス様の留守を、私が守るのよ！」
私はさっそく村長宅に結界を張って、悪魔の襲撃に備えた。
シルヴィアも風竜機シルフィードを従えて守りを固める。風竜機はドラゴンを模したドラゴン以上の存在だけあって、頼もしいわ。
シルヴィアは足が不自由なふつうの女の子だから、私が守ってあげないとね。
「くふふっ！ 『それで妹を守ってくれてありがとう、ティア！』って、ヘルメス様に褒めてもらうのよ！」
「はぁ……ッ！？ そんなことになる訳ないでしょ？ この場で最高の戦力は、私の風竜機だもん。ティアが私を守るんじゃなくて、私がティアとこの村を守るのよ」
シルヴィアは頬を膨らませて、不満そうにしていた。
あぐぅ……
なぜかこの娘には嫌われているみたいで、付き合いづらい。
「うっ……シルヴィアちゃん、一緒にこの村を守るんだし、あんまりツンツンしないでもらえるとありがたいかなー、なんて……」
ヘルメス様の妹なので、私もあまり強気には出れない。
できれば、この機会に仲良くなっておきたいところなんだけど……
「ヘルメス様、ヘルメス様って、はしゃいでいるけど、あなたなんて、お兄ちゃんのこと何もわかっていないじゃないの」
「それは……実際にお話した機会は、少ない訳だし」
そんなことを言われても困ってしまう。
悔しいけど実の妹に比べたら、積み上げた歴史が違うわ。
「私はお兄ちゃんと、８年間も離れ離れで暮らすことになって、すごく寂しい思いをしてきたのよ。それなのに……」
シルヴィアから何か、妬ましそうな目を向けられて、私はたじろいでしまう。
彼女が何に怒っているのか、わからないわ。
「とにかく、お兄ちゃんのことを何もわかっていないティアに、これ以上、お兄ちゃんにつきまとって欲しくないの！」
「ぐっ……」
理不尽な物言いだけど、私はグッと我慢してこらえた。
Ｄランクに降格して、さんざん苦労した経験が生きていた。
ランディには、もっとキツイことを言われた訳だし。ランディには、多少は感謝しないとね。
「へぇ～、コイツがヘルメスの造った風竜機シルフィードか。さすがに、すげぇな……」
そのランディがやって来て口笛を吹く。
「あっ、ランディ。敵がやってくる気配はないの？」
「ああっ、その心配なら無用だぜ。もう既に来ているからな」
「はぁ……っ？」
「ヘルメスの妹も健気でかわいいじゃねぇか。兄貴の生まれ育った村を守りたいってか？」
「なっ……！」
シルヴィアは絶句した。彼女の表情が強張る。
「はっ、表情に出すぎだぜ、あんた。こんな単純なカマかけに引っかかるとはな」
ランディの軽口の意味がわからず、私は首をひねった。
えっ、何を言っているの？
「シルヴィア、この男は敵意を持っているぞ【竜巻】！」
風竜機シルフィードが、ランディを睨みつける。
その瞬間、ランディの立つ場所に、ごうごうと唸りをあげる竜巻が出現した。
「きゃあ！？ ちょ、ちょっと何するのよ！？ ランディは仲間なのよ！？」
吹き荒れる猛風に、私は目を開けていられなくなる。こんな魔法を受けては、さすがにＡランク冒険者といえど無事で済むハズが無いわ。
「仲間か。ハハハハハッ！ おめでたいなティア。バカなところは少しも直らねえ。そもそもなんで俺が、お前なんぞに近づいたと思ってやがる？」
「きゃあ！？」
ランディの笑い声と共に、竜巻が掻き消えた。ランディは服はボロボロになっていたが、特に怪我をした様子もなく平然としている。
右腕の袖が破れて、薔薇の形をした痣が見えていた。
「えっ……その痣は」
王宮を襲った老魔導師オデッセと、同じ形の痣だった。
「改めて自己紹介するぜ。俺は【薔薇の騎士】（ローゼン・ナイツ）のひとり。【悪魔支配者】のランディだ」
「はぁ！？ ちょ、ちょっと何の冗談よ、ランディ！？」
私はランディに喰ってかかった。
悪ふざけにしても、タチが悪いわ。
「冗談？ 世間知らずの聖女様は、まだ理解できねぇか？ 俺がお前の誘いを受けたのは、ヘルメスの正体と弱点を探って殺すためさ。そして、ようやくその舞台が整ったて訳だ」
ランディは皮肉げに肩をすくめた。
な、何を言っているのか、全然、訳がわからないわ……
「ヘルメスの正体はロイだ。そして、奴の弱点は妹やお前、そしてこの村だってことさ！」
