63話。 幼馴染に再びパーティに勧誘される
「ロイ……? あんたもこの村にやって来たの!?」
村に入ろうとした時、ティアが気づいて声をかけてきた。
「……はぁ、まだ荷物持ちなんてやってるのね? ふっ、感謝なさい。あんたのことをヘルメス様に推薦しておいてあげたわ!」
俺のパンパンに膨れ上がったバックパックを見て、ティアが得意げに告げた。
「ヘルメス様は考えてくれるですって! ただの錬金術オタクのあんたが、あのヘルメス様の助手になれるかも知れないのよ! 村一番の大出世だわ!」
「……そ、それはありがたいんだけど。俺はレナ王女の荷物持ちだからさ」
俺はやんわりと断ろうとする。
気持ちはありがたいんだけど……
俺が俺の助手になるなんて、あり得ない。
「はぁ!? ロイの造った【ドラウプニルの指輪】と、まったく同じ物をルーチェも持っていたのよ! 私も助かったし……要するに、あんたにもそれなりに才能があるってことでしょ!? なら、それにふさわしい地位につかなきゃダメじゃないの!?」
何やら顔を真っ赤にして、ティアは叫んだ。
あっ、そうか、エーリュシオン教国の戦いではルーチェも【ドラウプニルの指輪】を使った。
ティアはルーチェがそれを自分で製作したとでも思ったのだろう。
「……ティアが俺のことを褒めてくれるなんて、びっくりだな」
「ふんっ! い、一応、ロイのおかげで助かった訳だし! それより、ちょっと気になることがあって……」
ティアは何やら言葉を濁すが、意を決して言った。
「ま、まさかとは思うけど……首筋を見せてちょうだい!」
やっぱり、来たか。
ここで断る素振りを見せるのは悪手だな。
「変なことを聞くんだな。別に良いけど」
俺はティアに首筋を見せてやった。
ティアは俺にずいっと顔を寄せて、じっくり観察する。
「えっ……ホクロがない!?」
「ホクロ? そう言えば、いつの間にか、無くなっていたみたいだ」
俺とヘルメスの身体的特徴の共通点を見つけられてしまったので、俺は慌てて外科手術でホクロを取り除いていた。
「ほっ! やっぱり、ロイとヘルメス様は別人だったわね……って、ことはやっぱりあんたは、嘘をついていたんじゃないの!? 責任を取って私とパーティを組み直しなさい!」
「はぁ!? い、いや、だからなんでそんな話になるんだよ!?」
「いろいろあって、ロイがヘルメス様なんじゃないかと、ここ数日、また悶々としていたのよ! あんたってば、S級の実力者のクセに荷物持ちをやってたりして、訳がわからないわよ!」
「……嘘をついたのは悪かったけど。何で今更、俺とそんなにパーティを組みたがるんだよ!? それに荷物持ちは好きでやっているんだ!」
俺は絶叫してのけ反った。
「そ、それは……あんたって実は有能だし、やさしいし……ふたりでがんばってヘルメス様に一緒に認められたいなぁ。なんて……」
「はぁ? よく聞こえなかった。なんだって?」
ティアが恥ずかしそうにボソボソ言ったので、俺は聞き返した。
「私の話を聞き逃すなんて、あんたバカァ!? ぐぐぐぅっ! よ、要するに、聖女である私があんたの価値を認めてやっているのよ! 感謝しなさい!」
な、なんで、ティアはこんなに偉そうなんだ……?
「今回のエーリュシオン教国への旅で、わたしってば、ぜんぜん、ヘルメス様のお役に立てなかったわ! もう一度、鍛え直すのよ!」
「いや、前にも言ったけど、俺はレナ王女のパーティメンバーだし……」
「そのレナ王女からは荷物持ちとしてこき使われているんでしょ? レナ王女はヘルメス様に夢中だから、いくら尽くして無意味よ!」
「それは、ティアもまったく同じなんだが……」
俺は思わず脱力してしまう。
「ふん! 一時期、レナ王女があんたに気のある素振りを見せていたから、勘違いしちゃったのね! で、でも、私はこれからはロイのことを対等なパートナーとして、付き合っていきたいな……なんて。レナ王女みたいに、ロイをこき使ったりはしないわ!」
指を突きつけて、ティアは捲し立てた。
「こ、これからはちゃんと報酬も五分五分……ううん、ロイの方が実力は上だから、あんたの取り分は7で良いわ! だから、戻って来なさい!」
破格の条件提示だった。でも、もう俺の答えは決まっていた。
「悪いけど、ティアにはもうランディっていう相棒がいるんだろ? 俺もレナ王女の荷物持ちが性に合ってるんだ」
「ランディ? えっ、でも、私はロイの方が……いいのに……」
またティアの声が尻窄みになって、後半がよく聞き取れなかった。
「ロイ様ぁああ、お帰りいなさいませ! じゃ、なかった……! コホン、よくやってきましたわロイさん。村長宅に、荷物を運び込んでください」
甘ったるい声を出して走り寄ってきたレナ王女が、ティアの存在に気づいて口調を変えた。
俺はレナ王女に虐げられているという設定だった。
「はい、姫さま!」
俺は腰を90度の角度に曲げて、レナ王女の奴隷のように振る舞う。
この姿を見れば、ロイがヘルメスなどと思う者はいないだろう。
「レナ王女!? ちょっとなんなの! ロイは、私のモノよ! ロイに命令して良いのは、私だけなんだからねぇ!」
ティアが変なキレ方をしていた。
なんだ、それは……
「はぁ!? 命令して良いって、ロイさんのことを何だと思っているんですか!? 彼はわたくしのパーティメンバー、わたくしのモノですわ!」
「はぁ、なんですって!?」
俺の所有権を巡って、ふたりの少女は争いだした。
俺は黙ってその場を立ち去る。
「はぁ、俺は誰のモノでもありません……」




