59話。聖竜機バハムートの召喚
「ま、待て! 貴様のことを話そうとしたのは、悪かった……ッ! だから、ぶぎゃあああ!?」
変形したアザゼルから、ラムザ枢機卿の断末魔らしき悲鳴が響いてきた。
「まさか、口封じに殺されたのか……!?」
しかも、今『貴様のこと』とラムザ枢機卿は言った。つまり、今、アザゼルに魔力を注ぎ込んでいるのは、あの男なのか?
「はじめから、裏切ったら殺すつもりでおったのじゃな。【薔薇十字団】、悪辣な連中じゃ」
教皇グリゼルダが苦々しく告げる。
『ヘルメス様、大変です! 国境に悪魔の群れが押し寄せてきて。今、わたくしとシルヴィアさんが、海竜機と風竜機で迎撃していますわ!』
さらに、レナ王女から切羽詰まった通信が入った。
「こちらも、【薔薇十字団】の機体と交戦中だ。やっぱり、悪魔の出現には奴らが噛んでいたか!?」
『えっ!? まさか、わたくしたちを分断して各個撃破しようという作戦でしょうか?』
間違いなくそうだ。
レナ王女たちを呼び寄せれば、ラクス村は壊滅。王国は大変な被害を受けるだろう。
逆に、この堕天使アザゼルを放置して、レナ王女たちの元に駆けつけるのも危険た。こいつは、『目前の敵をすべて殲滅する』と言った。
多分、狙いは俺たちだけじゃない。教皇グリゼルダを暗殺しようとしたことからして、大聖堂にも攻撃を仕掛ける可能性がある。
だが、【竜融合】なしで、この堕天使アザゼルと果たして渡り合えるだろうか。
「戦闘開始」
アザゼルの手から無数の光弾が発射された。
俺は【空間歪曲コート】で、それを弾こうとするも……
「ぐわぁあああああ!?」
「ぬきゃあああああ!?」
歪曲空間を瞬間移動で飛び越えて、光弾が機神ドラグーンに突き刺さった。
オリハルコン装甲に穴が空き、コックピットが激しく揺れる。
『ドラグーン、損傷率30パーセントを突破! すさまじい攻撃力です!』
作戦司令室の少女オペレーターが悲鳴を上げた。
「【空間歪曲コート】が通じないなんて……来てくれルーチェ!」
「はい、マスターおそばに」
ルーチェが機神ドラグーンのコックピットまで空間転移してきた。
「ぬぁが!? 狭いのじゃ!」
「教皇様、我慢してください!」
俺はふたりの少女を膝の上に乗せた。過密状態だが、なんとか操縦に支障は出ない体勢だ。
「【時間回帰】復元……!」
ルーチェの【時間回帰】能力により、機神ドラグーンの損傷が復元される。
「はぁああああ!? 一瞬で直っちゃったわ!?」
「物体を元通りにするとは、これは神の奇跡か!?」
ティアたちが、素っ頓狂な声を上げている。
これは天使の力を持つルーチェだからこそ可能な裏技的芸当だ。宇宙の絶対法則に、ルーチェなら揺らぎを起こすことができる。
もっとも、使用回数はあと2回が限度だが……
「さらに攻撃が来ます」
「くっ!」
ルーチェが警告を発すると同時に、堕天使アザゼルの身体がブレた。アザゼルはドラグーンの目前に一瞬で現れる。
「うぉおおおっ【ドラゴン・バンカー】!」
俺は、ここぞとばかりに攻撃を叩き込む。だがドラグーンの腕が、アザゼルの身体をすり抜けた。
「なにぃいい!?」
背後に瞬間移動したアザゼルの拳が、ドラグーンをぶっ飛ばす。
ドラグーンは大地に叩きつけられて、地割れが起きた。
「こ、こいつ、パワーもとんでもないぞ……」
「だ、大丈夫であるか、ヘルメスよ?」
教皇グリゼルダが、回復魔法を俺にかけてくれた。痛みが消える。
この腕前、さすがは大聖女か。
「おぬしが、わらわたちを抱き締めていてくれたおかげで、無事だったのじゃ。礼を言うぞ」
「マスター、ありがとうございます」
俺は少女たちが、壁にぶつかって怪我をしないように抱き締めていた。
『装甲が陥没。出力22%低下。マスターよ、今の攻撃を何度も受けては、危険だ』
ドラグーンがダメージ報告をしてくる。メインカメラが故障したのか、スクリーンの映像が乱れていた。
『すみません、ヘルメス様! 今、全力で敵機を解析していますが……!』
作戦司令室も俺をサポートしようと必死だが、攻略の糸口が掴めなそうだった。
機体の性能差が有り過ぎる。
「最優先、抹殺対象。ヘルメス及び、教皇グリゼルダ。カタリナ大聖堂は完全に破壊します」
堕天使アザゼルが、無機質な声音で告げた。
やはりグリゼルダと大聖堂も奴らの狙いらしい。
エーリュシオン教会を乗っ取ろうとして失敗したなら、教会はもういらないということか。グリゼルダが【薔薇十字団】と敵対的であることも、理由のひとつだろう。
「この大聖堂を破壊するじゃと……?」
腕の中の少女が、びくりと恐怖に身を震わせた。
ここには、ティアやジオス枢機卿だけでなく、大勢の人たちがいる。
「そんなことは許せん。ここは人類の希望の象徴じゃぞ! 頼む。助けて欲しいのじゃ、ヘルメス……!」
グリゼルダが懇願してきた。
俺は彼女の頭をそっと撫でる。
「もちろんです。作戦司令室……【聖竜機バハムート】は、出撃できるか?」
『聖竜機ですか? 可能ですが、出力が安定せず、まだ戦闘行動は無理かと……』
「肝心な【竜融合】ができるようには調整してある。一か八か、出してくれ。ルーチェ、行けるか?」
「はい。敵の狙いは、マスターのようです。私が命に代えても、お守りします」
ルーチェは毅然と言い放った。
【聖竜機バハムート】とルーチェは、本来ならまだ調整が必要な段階だ。だが、ルーチェに恐れや迷いは無かった。
「よしっ、一緒に戦おうルーチェ!」
「はい、マスター、どこまでもお供します」
俺はこんな理不尽を覆すために、機神ドラグーンと竜機シリーズを開発したんだ。
今こそ、その真価を見せる時。
「お前らの思い通りにはさせないぞ【薔薇十字団】!」
「召喚【聖竜機バハムート】!」
ルーチェの呼びかけに応えて、聖銀製の白竜が空間転移してきた。




