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55話。教皇を毒殺から救う

「教皇聖下、錬金術師ヘルメス様と聖女ルーチェ様をお連れしました」

「あの、私もいるんですけど……」


 ジオス枢機卿が教皇の寝室の前で、入室の許可を求める。紹介されなかったティアが不満を呟いた。

 だが、ジオス枢機卿からは華麗にスルーされる。


「ジオスか……? 久しぶりだのう。入るが良い」

「はっ」


 豪奢な室内には、天蓋付きのベッドに横たわる少女がいた。


「良く来られたのじゃ、お客人。わらわが教皇グリゼルダである。ヘルメスの名は、わらわも良く耳にしておるのじゃ……ケホ、ケホっ」


 夢のように可憐な少女だった。歳の頃は14歳くらいと、まだ幼さが残る。

 俺たちを歓迎するために笑顔を見せてくれたが、少し喋っただけで咳き込んでしまった。


「聖下、お加減はいかがですかな?」

「最悪じゃ。ラムザめが用意してくれた薬を飲んでおるのじゃが……苦いだけで、まったく良くならぬ」


 教皇グリゼルダが顔をしかめる。


「……その薬というのは? 俺たちは、教皇様をお救いしに来ました」


 俺は前に進み出て尋ねた。


「うむ、それなのじゃが……」


 彼女が指差したサイドテーブルには、包みに入った粉薬が置いてあった。


「失礼、成分分析をさせていただきます。ドラグーン!」


 空間転移で、粉薬を機神ドラグーンの元に送る。


『分析完了。この薬には、微量のテトロドトキシンが含まれている。猛毒だ』


 ドラグーンの声が寝室に響いた。


「なんと……!」


 その場の一同に衝撃が走った。

 予想していたことだったので、俺は落ち着いていられた。


「やはり、そういうことか……」

「ヘルメス様、やはりとは……?」


 ジオス枢機卿が、食い入るように俺を見つめる。


「聖魔法による治療を受けられる教皇様の病が一向によくならないのは、よほどの重病か、毒を盛られているからだと考えていました」

「……まさか、ラムザめが、わらわを殺そうと?」


 教皇グリゼルダは驚愕に目を瞬く。


「教皇は枢機卿や聖女、聖者から投票で選ばれると聞きました。なら大きな影響力を持つラムザ枢機卿が、次期教皇の座を狙って、グリゼルダ様を殺害しようとしても、不思議ではないでしょう」

「ええっ!? ヘルメス様、そんなことって……!?」


 ティアは度肝を抜かれた様子だった。


「ラムザ枢機卿が異端審問官を動かして、私たちを強引に攻撃してきたのは、その証拠の露見を恐れてということですね?」


 ルーチェが冷静に指摘する。


「その通りだと思う。万が一、薬の成分を調べられてしまったら、動かぬ証拠になるからな」


 ラムザ枢機卿は聖魔法による治療と毒の混入を繰り返し、ゆっくりと教皇を殺害する予定だったに違いない。


 一気に殺してしまっては、暗殺の疑いがかけられるだけでなく、教皇を守れなかったと非難される。それでは、次の教皇選挙コンクラーベで不利になるからな。


「なんたること……神の教えを広める教理省長官が、そのような大罪を犯していようとは!? すぐにラムザ枢機卿を拘束し、厳しく追求するのだ!」

「はっ!」


 ジオス枢機卿の一言で、聖騎士たちが走り出して行った。


「……そなたには礼を言わねばならんのじゃ、錬金術師ヘルメスよ」


 教皇グリゼルダは、ショックを受けたようでぐったりしていた。近しい人間からの裏切りは、少女には堪えるだろう。


「礼には及びません。教皇様はだいぶ衰弱されておられるご様子。治療はこの聖女ルーチェに、お任せください」

「聖女ルーチェとな……?」


 俺の後ろに控えていたルーチェが歩み出た。


「はい。私です」

「ほぅ、そなたは……ッ!」


 教皇グリゼルダはルーチェを見て、目を見開いた。何かルーチェに感じるところがあったようだ。


「【解毒デトックス】!」


 ルーチェが手をかざすと、教皇は聖なるまばゆい輝きに包まれた。

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