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53話。異端審問官を平伏させる

 宗教国家エーリュシオン教国のトップである教皇の居城──カタリナ大聖堂の前に、機神ドラグーンは降り立った。


「は、はゎ~っ、やっぱりスゴいわ……」


 ティアが壮麗に連なった尖塔を見上げて、感嘆の息を吐く。


 カタリナ大聖堂は、第一級の芸術家たちが造営した世界最大の聖堂だ。荘厳さにおいて比類ない上に、城としての堅牢さも備えている。

 例え魔物の軍勢に襲われても、中に収容した人々を守り抜けるように造られていた。


 俺はハッチを開いて、機神ドラグーンの外に出る。


「おおっ、お待ち申しておりました。ヘルメス様!」


 聖騎士団を伴って、門前で待っていてくれたジオス枢機卿が歓迎してくれた。


「こ、これが噂の機神ドラグーン!」

「なんと……っ! 彼女が聖女ルーチェ様か!?」


 整列した聖騎士たちから、どよめきが上がる。

 ルーチェの放つ神々しさに、早くも魅力されてしまったようだ。


「むっ、私も聖女なんですけどぉ……」


 ティアが不満げに呟くが、ジオス枢機卿たちの視線はルーチェに釘付けだった。


「それでは、すぐに教皇様のところに案内してください」

「はい。こちらへ。歩きながらお話しましょう」


 聖騎士団に囲まれながら、俺たちは大聖堂の奥へと案内される。


「実は、教皇聖下の治療に当たる者は、教理省長官のラムザ枢機卿が厳しく選別しておりまして……私どもは教皇聖下にお目通りすることも、難しくなっているのです」

「そんなことが……?」


 教理省とは異説・異端の審問や、神の教えを広めることを目的とした部署だ。

 その発言力は、かなり強いとは噂で聞いていた。


「……ですが、直接お会いして確信を深めました。聖女ルーチェ様こそ、まさに神の御使い! 彼女なら教皇聖下にお目通りも叶うでしょう」


 ジオス枢機卿は興奮した様子でルーチェを見つめる。


「まさにその通り!」

「ルーチェ様からは、教皇聖下に勝るとも劣らない清らかなオーラを感じます! はっ、い、いやこれは教皇聖下に対して不敬でした……」


 聖騎士のひとりが口を滑らせた。

 教皇は確か、大聖女の称号を持つ女の子だった。父なる神に選ばれた、地上でもっとも神に近い存在という触れ込みで、教皇に選ばれた。

 その教皇にも勝るなどと言えば、さすがに問題発言だろう。


「お待ちあれ、ジオス枢機卿。恐れ多くも、教皇聖下の寝所に部外者を連れ込もうとは、いかなる了見ですかな?」

「ラムザ枢機卿!?」


 その時、物々しく武装した集団を引き連れて、神経質そうな顔をした男が現れた。

 集団が手にしているのは、ノコギリ刃、トゲ付きの鞭など、人を殺すための武器ではなく、痛めつけるための拷問器具だ。


「この人たち……まさか教理省・異端審問官!?」


 ティアが恐怖にのけぞった。

 神の教えに反した異端者を、拷問や処刑にかける異端審問官の悪名は世界中に轟いている。

 彼らはみな顔を隠し、物騒な空気を醸し出していた。


「……俺はアーディルハイド王国のレナ王女の婚約者ヘルメスです。信徒として、教皇様を病からお救いしに来たのですが?」


 変な難癖をつけられてはたまらない。俺は機先を制して声をかけた。


「そうであるぞ、ラムザ枢機卿。ヘルメス様は、教皇庁に多額の献金をされている信徒の中の信徒。しかもこちらのルーチェ殿は、かなりの力を持つ聖女であることを確認しています。何の咎があって、道をふさぐのですかな?」

「わ、私も聖女よ! い、一応……!」


 そんな俺たちの主張を、ラムザ枢機卿は鼻で笑った。


「これは笑わせる。錬金術師ヘルメス殿、あなたには異端の嫌疑がかけられている。そこのルーチェなる少女は、錬金術で造られたホムンクルスであるな?」

「なんと……!」


 ジオス枢機卿や聖騎士団が、鼻白んだ。

 まさか、もうそんな情報を掴んでいるとは驚きだった。


「神ならぬ者が、生命を創造する。これ、すなわち神への冒涜なり! ヒャハハハハハッ! ただで死ねると思うなよクソ異端者!」


 ラムザ枢機卿が、悪鬼のごとき形相で叫んだ。

 

「何が聖女だ。人心を惑わす魔女め! 判決、死刑! 異端審問官ども、その娘を処分しろ!」

「はっ! 死ねい、罪に穢れた魔女めが!」


 異端審問官たちが、一斉にルーチェに襲いかかる。


「なっ!? やめろ!」


 俺はルーチェの前に立ち塞がった。バフ魔法を自分にかけて、異端審問官たちの首筋に手刀を叩き込んで気絶させる。

 ここで彼らを殺傷したら、それこそ神敵扱いはまぬがれない。そうなれば、最悪の事態だ。


「父なる神は御座にて、すべてを御覧になっておられます。もし、その娘が、まことに神に選ばれた聖女であるなら、必ず救いの御手を差し伸べるハズ。それが無いということは、救うに値しない罪人ということです」


 陶酔するようにラムザ枢機卿が告げた。

 クソっ、敵の数が多い上に全員、手練だ。手加減した状態では、対応しきれないぞ。俺は異端者審問官たちを昏倒させながら、歯噛みする。


「と、とととんでもない屁理屈だわ! ひどすぎじゃないの!?」


 ティアが思わず反論する。

 ラムザ枢機卿の論法を使えば、気に入らない者を葬ることをいくらでも正当化できるだろう。


「ヘルメス様、私も加勢します! こらっ! 私は聖女ティアよ! 聖女なのよ!」

「よせ! ティアまで魔女扱いされるぞ!」

「もう、遅い。教皇庁教理省は、聖女ティアの聖女認定を取り消す。異端者と魔女を庇う、貴様も罪に穢れた魔女だ! 懺悔しながら死ね、小娘めぇえええ!」


 ラムザ枢機卿が傲慢に顔を歪めて絶叫した。


「えっ、ちょ、ちょっと……!?」


 ティアが気圧されて、あとずさる。

 その時、ルーチェに武器を突き付けた異端審問官たちが、突如、動きを止めた。


「何? どうしたお前たち……?」


 ラムザ枢機卿が訝しむ。


「あっ、うわぁあああ……!」


 異端審問官らは床にひざまずいて、ルーチェを感激の目で見つめた。


「天使、まさに天使だ……っ!」

「駄目だ。このお方を傷つけることはできない!」

「何!? お、お前たち、まさか魔女に、たぶらかされたのか!? 神敵を目前にして、何をやっているのだ!?」


 ラムザ枢機卿が怒号を上げるが、彼の部下たちは動かなかった。

 ひざまずく異端審問官たちは、天使に許しを乞う敬虔な信者そのものだ。


「あんたの言う通り、神が救いの御手を差し伸べてくれた、ということじゃないか?」


 俺はラムザ枢機卿の前に歩み出た。

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