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52話。枢機卿から頭を下げられる。教皇の危機

『……失礼ながら、身分を証明できるモノはお持ちでしょうか?』


 スクリーンに教皇庁の魔法通信士が映った。

 相手は俺を訝しんでいるようだった。仮面で顔を隠しているような男だからな。仕方がない。


「この機神ドラグーンがなによりの証明です。また、俺とレナ王女の婚約パーティーには、国務省長官のジオス枢機卿猊下もお越しになられていました。お手数ですが、確認を取ってください。聖女ティアについては、教皇庁でも認知されていたハズです」

「わ、私が聖女ティアよ! 今は、こんな格好だけど……っ!」


 聖なる光壁に押し込められて、あられもない格好になっているティアが叫んだ。

 その様子は、通信士にも映像と音声で伝わっている。


『こ、これはっ! 国境近くに、オリハルコン製の巨大ドラゴンが出現したことは、こちらの索敵魔法でも確認しました。今、国務省はハチの巣をつついたような騒ぎになっています』


 さすが人類の守護者を自認するだけあって、エーリュシオン教国の警戒網はかなり優秀なようだ。これは幸いだった。


「そして、この娘が、新たにアーディルハイド王国に誕生した聖女ルーチェです。聖女ティアよりも、強力な聖魔法の使い手です」

「はじめまして」


 ルーチェはぺこりと礼儀正しくお辞儀する。


「ルーチェの力は、現在、聖女ティアを押さえつけている【聖壁ホーリー・ウォール】を御覧になっていただければ、一目瞭然かと……」

『た、確かに! これは父なる神の奇跡。聖魔法の輝きです。大変失礼いたしました。エーリュシオン教国にようこそ、ヘルメス様! 聖女様!』

「ヘルメス様、そろそろこれ解除して欲しいんですけどぉ!」


 ティアが不満げな声を上げる。

 そこにさらに、別の魔法回線が割り込んできた。俺とレナ王女の婚約パーティーに列席してくれたジオス枢機卿だ。真紅の法衣をまとった温厚そうな老人だった。


『おおっ、これはヘルメス殿下! お久しゅうございます。教皇庁国務省を預かるジオスにございます』

「お久しぶりです、ジオス枢機卿猊下。ですが、ヘルメス殿下というのは、やめてください。俺はただの錬金術師ヘルメスです。レナ王女とは婚約しただけで、まだ正式に王家の一員となった訳ではありません」

『はっ、しかし、近年アーディルハイド王家から教皇庁に多大な献金をいただいておりますから……!』


 ジオス枢機卿は恐縮した様子だった。


『しかも、それがヘルメス様のご尽力あってのものだとうかがっております! これ皆の者、急ぎ、お出迎えの準備をせぬか! 今夜は歓迎の宴であるぞ!』


 【クリティオス】をはじめとした、俺の発明品は世界中で爆発的に売れている。その利益の一部を、俺は王家を通して教皇庁に献金していた。


 教皇庁が保管している聖剣を成分分析し、人造聖剣を完成できたのも、そのおかげだ。

 エーリュシオン教国の外交を担当するジオス枢機卿はそのことを、良く理解してくれているようだった。

 ジオス枢機卿が、通信に出てくれたのは本当にラッキーだったな。


「ありがとうございます。しかしながら、今回の訪問は悪魔討伐のご協力を、教皇様にお願いするためです。現在、アーディルハイド王国は、悪魔による襲撃の危機にさらされており、あまり長居させていただくことができないのです」

『なんと! それはすぐにも教皇聖下にお会いしていただきたいところなのですが……現在、教皇聖下はお加減が悪く、病床にふせっておいでなのです』


 ジオス枢機卿は渋面を作った。

 聖女や聖者を多数抱えるエーリュシオン教国のトップが病?

 聖魔法には傷を癒やし、病魔を払う力があるのだが……よほどの重病か? 信徒を不安にさせないように病気であることは、伏せられているのか?

 俺は不穏なモノを感じた。


「マスター、私の力ならなんとかできるかも知れません。ここはお任せを」


 ルーチェがそう提案してきた。


「わかった。ジオス枢機卿猊下、聖女ルーチェはきわめて強力な聖魔法の使い手です。教皇様をお救いできるかも知れません」

『なんと! それはぜひ、お願いさせていただきたい! もはや打つ手なしかと、難儀していたのです!』


 ジオス枢機卿は勢い良く腰を折った。

 猫の手も借りたいということか……きな臭いな。


「嘘っ!? 枢機卿が頭を下げた!? やっぱりヘルメス様ってば、スゴイ!」


 ティアが感嘆の声を上げた。


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