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51話。聖女対決。ヘルメスの正体が幼馴染にバレそうになる

次の日──


「くふふふっ! あっー、ヘルメス様の膝の上に座れるなんて幸せ!」

「おい、ティア、そんなにくっつくな!」

「ティアさん、マスターの膝の上は私の特等席です」


 一人乗りに設計された機神ドラグーンのコクピットで、俺はふたりの聖女に引っ付かれていた。


 エーリュシオン教国まで、機神ドラグーンで向かっている最中だ。ドラグーンが自動で運んでくれるので特にやることはないのだが、これは色んな意味でキツイ。


 ティアに対して、もう恋愛感情は抱いていなかった。それなのに、あまり好き好き迫られると困ってしまう。


「そうだぞティア。ルーチェは身体が弱いんだから、この娘の定位置は俺の膝の上だと、ちゃんと説明しただろ?」

「ぐぅううう! そ、そうですけど……こんな大チャンスはもう一生来ないかも知れないですし、あ、あと5分だけ、このままで!」


 ティアが、わがままなのは相変わらずだった。


 しかもドラグーンのコックピットは狭いと説明したのに、ティアは超ミニのスカートと、ヘソ出しノースリーブの服という露出度の高い服装をしてきた。

 聖女のクセになんて格好をしているんだ……

 一体、何を考えているのか、理解に苦しむ。


「俺は婚約者がいる身なんだ。別れた女の子と密着していたら、レナに対する裏切りになるだろう?」

「ぐぅ……ッ!?」


 ティアはショックを受けたように身を震わせた。


「で、でもヘルメス様、私はヘルメス様のことが大好きで、もうほんの少し、ほんの少しだけ……!」


 そう言って振り返ったティアの目が、驚愕に見開かれた。


「えっ、首のホクロの位置、ロイと同じ……ッ!?」


 あっ、まずい。あまり近寄られて、ロイとの思わぬ共通点を見つけられてしまった。

 どう誤魔化すかと、一瞬、焦ったがルーチェが助け船を出してくれた。


「わかりました。では、3分後に、マスターの膝の上を返していただくということで、契約を交わしましょう」

「本当ぉおおお!? やったわ!」


 ティアは喜びを爆発させる。


「ですから、前を向いていてください。ティアさんが邪魔で、マスターが視界を遮られています」

「そうだ。ティア、前を向いて大人しくしていてくれ」

「は、はい! もちろんです!」


 ティアは俺の首筋を注視するのをやめて、慌ててスクリーンを見つめた。

 ほっ、これでなんとか誤魔化せたな。


「……ありがとう。ルーチェは本当に良い娘だな」


 俺はルーチェのやさしさと機転に感動して、その頭を撫でてやった。


「……はい。マスター、撫でられるのは気持ちいいです」


 ルーチェはうっとりした顔になる。


「お礼に私もマスターの頭を撫で撫でし返します」

「うぉ」


 ルーチェに優しく頭を撫でられて、俺も心が安らぐ。


「ぐぉおおおお! ずるいわ! ずるいわ! ヘルメス様と頭を撫で撫でし合うなんて、婚約者の私でもしたことが無いのに!」

「い、いや、元婚約者だろ……?」

「ヘルメス様、私にも撫で撫でお願いします! 頭だけでなく、その太ももとか、色んなところをぉおお! そして、私も撫で撫でします!」

「だから婚約者がいる男にそんなことを頼むな! 前を向いていろ!」


 俺は全力で拒否した。


「これ以上ワガママを言うなら、もう膝の上は無しだ。ルーチェと今すぐに代わってもらう」

「うっ……わ、わかりました」


 その一言で、ティアは大人しくなった。

 はぁ、まったく生きた心地がしない。


「3分たちました。私の番です」

「ちょっ! ま、待って、まだあと、1分だけ……!」

「子供みたいなことを言わないで、ルーチェと代わってやれ。ティアの方が歳上のお姉さんだろ?」

「はぐぅううう! わかりました!」


 ティアは不承不承、俺の上から降りる。


「……ああっ、マスターの膝の上は、すごく落ち着きます」

「ごめんなルーチェ、ティアの我がままで、窮屈な思いをさせてしまって」


 俺はその埋め合わせとばかりに、さらにルーチェの頭を撫でてやる。


「はぁああああっ!? ヘルメス様の膝の上に乗った上に、頭撫で撫でのコンボ! うらやましすぎるわ!」


 ティアは横から、俺に抱き着いてきた。


「いや、だから、やろめろって……!」

「ヘルメス様、ヘルメス様! どうか、私にも頭、撫で撫でしてください! うらやまし過ぎて死にそうですぅ!」

「【聖壁ホーリー・ウォール】展開」


 ルーチェが冷たく呟くと、俺とティアの間に輝く壁が現れた。

 ティアはその壁に阻まれて、俺に触れることができなくなる。


「きゃあ!? ルーチェ、ちょっと何をするのよ!?」


 狭いスペースに閉じ込められたティアが、抗議の声を上げる。


「マスターに危害を加える行動に出られましたので、実力行使をさせていただきました」

「危害を加えるですって!? 仲良くしようとしていただけでしょう?」

「それをセクハラと世間では言います。恥を知ってください」


 どこまでも冷たい目で、ルーチェは告げる。


「……な、なんですって!?」

「俺を守ろうとしてくれたんだな? ルーチェは本当に良い娘だな」


 俺は感激して、ルーチェの頭をさらに撫でてやった。


「はい、マスターありがとうございます。マスターのお役に立つことこそ、私の喜びです」


 ルーチェはうれしいのか、頬を赤く染めた。


「ヘルメス様、ちょ、ちょっと、これキツ過ぎます!」

「……ティアは悪いが、しばらくそのままで頭を冷やしてくれ」

「そうです。【汝、姦淫することなかれ】エーリュシオン教会が信奉する父なる神の教えです。」


 ティアは放置しておくと、暴走して何をしでかすかわからない。


「ぐぅううう!? この聖なる壁、強力過ぎるわ! こ、このぉおおお──っ!」


 ティアはルーチェの聖魔法を破ろうと四苦八苦していたが、どうにもならないようだった。


『マスター、ヘルメスよ。もうすぐエーリュシオン教国領に入るぞ』


 しばらくすると、機神ドラグーンが報告してきた。


「わかった。エーリュシオン教国の外交担当、教皇庁国務省に魔法通信を繋げてくれ」

『了解』

「こちらはアーディルハイド王国軍ドラニクル所属【機神ドラグーン】。第2王女レナ殿下の婚約者ヘルメスです。同行者は聖女ルーチェと聖女ティアです。悪魔討伐に対する協力を賜りたく、至急、教皇様にお目通りを願います」

『かの有名な錬金術師ヘルメス!?』


 回線の向こう側で、驚きに息を飲む様子が伝わってきた。

【ご注目!】大切なお知らせです!!


ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます! 


作者こはるんるんから大切なお願いがあります。

5秒程度で終わりますので、ぜひよろしくお願いします。


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