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50話。帝国と戦うために、教皇を動かす

 俺たちは村長宅の居間に集合して、レナ王女の話を聞くことになった。


「これはヘルメス様のご命令で、ドラニクルの諜報部隊が帝国軍を密かに調べて、判明した事実です」


 彼女はテーブルに、帝国領の地図を広げる。


「帝国騎士団は、新ダンジョンの入口付近に展開していますわ。一見すると、ダンジョンから出現する魔物を倒すために思えますけど……戦闘は確認されておらず、悪魔たちは騎士団を素通りしています」

「……一体、どういうことなのよ?」


 ティアが眉根を寄せる。居合わせた全員が首をひねっていた。

 ここには村長とティア。村の顔役であるティアの父親カシムさんもいた。ティアの相棒ランディには、村の警戒に当たってもらっている。


「要するに、帝国軍と悪魔は協力関係にあるということです」

「そ、そんなことが……!」


 みんなが息を飲んだ。


「S級ダンジョンの魔物を使役するとなると、途方もないことだけど。出現するのが悪魔なら理解できないことじゃない。悪魔は対価と引き換えに、人間と契約を交わすこともあるからな」

「その通りです。さすがヘルメス様は博識ですわ!」

「しかし、たいていは悪魔の望むモノは、人間の魂などのロクでもないものだ。帝国は奴隷制を敷いていし……おそらく、奴隷の魂を大量に捧げるなどの契約を交わしたんじゃないかな?」

「な、なによそれ。ヤバすぎじゃないの!?」


 俺の憶測に、ティアを始めとした全員が顔をしかめた。


「聖職者としては、そんな暴挙は許せません。帝国にも教会はありますし、その事実を教皇様に伝えて、教皇様から帝国を告発してもらう訳にはいかないでしょうか?」


 俺の育ての親でもあるカシムさんが、提案した。

 創造神【父なる神】を崇めるエーリュシオン教会は世界的大宗教だ。そのトップである教皇なら、帝国に大きな影響を与えることができるだろう。


「……帝国が悪魔と通じているという確たる証拠が無いので難しいですわ。国家間の争いに介入することは、エーリュシオン教会も嫌がるでしょうし」

「いや、カシムさんの提案は良いと思う。教皇様は聖女を神の使いだと重視している。ここには聖女がふたりもいるし、教皇様に直談判しに行こう。悪魔討伐の大義名分を手に入れるんだ」

「な、なるほど! さすがはヘルメス様です。確かにルーチェさんとティア様がいれば、教皇様を動かせる可能性が高いですわ」


 レナ王女が手を叩いて喜んだ。


「もし帝国に不法入国がバレた場合でも、教皇の要請で聖女が悪魔の巣食うダンジョンを攻略しにきたと言えば、大きな問題には発展しにくいハズだ」


 俺はさらに続ける。


「怖いのは帝国が俺たちにワザと不法入国をさせ、それを理由に王国を非難してくることだ。我が国の財産であるダンジョンを荒らしたとか、なんとか言ってな」


 両国の間に火種を作り、戦争の口実にでもしようとしているなら厄介だ。それを封じるための策を用意する必要がある。


「そ、それは確かにありそうなことですじゃ」


 村長は怯えた顔をした。

 戦争になれば帝国に真っ先に蹂躙されるのは、国境近くのこの村だ。俺もここを戦場にはしたくない。


「すごいですわ、ヘルメス様! そんな政治、外交感覚までお持ちだとは! さすがはわたくしの旦那様です。王となられるのに、ふさわしいお方ですわ!」


 レナ王女が喝采する。


「いや、俺は王になる気は……」


 偽装婚約だとバレるとマズイので、あまりレナ王女の発言を強く否定できないのが辛いところだ。


「くふふふっ! と言うことは、エーリュシオン教国までヘルメス様とデートってことね!」


 ティアが目を耀かせて俺を見ている。


「デート? デートというのは、親密な男女ふたりが行動を共にすることだと思います。マスターには私も従いますので、デートの定義からは外れるかと思いますが……」


 ルーチェが小首を傾げた。


「ぐっ、ルーチェ!?」


 ティアは親の仇でも見るような目でルーチェを睨む。


「……それに腑に落ちないのは、都合良く国境近くの帝国領に、S級ダンジョンが出現した点だ。おあつらえむきに、王国を悪魔どもに攻撃させやすい位置だ。おそらくだけど、【薔薇十字団ローゼンクロイツ】が、絡んでいると思う」


 【薔薇十字団ローゼンクロイツ】は【時間回帰】【重力操作】など、既存の錬金術、魔法技術を超越した力を持つ。

 俺には考えもつかない方法で、人為的にダンジョンを出現させることができたとしても不思議ではない。


「俺の留守中、敵の攻撃があるかも知れない。レナとシルヴィアは、この村を守っていてくれ」

「はい、わかりましたわ! 風竜機と海竜機がいれば、まず負けませんわ!」

「うん、任せておいてよ、お兄ちゃん!」


 ふたりの少女が請け負ってくれる。

 

「ルーチェ、村に神聖結界を張って、悪魔の襲撃に備えてくれ。その後で、俺に同行してもらう」

「はい。わかりました」

「よし、さっそくエーリュシオン教国まで機神ドラグーンで行くとしよう、って、あれ……」


 ということは、またコクピットで押しくら饅頭になるのか。しかも、今度はティアと。

 正体がバレないように気をつけないとな……


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